歳を取るにつれ和食が好きになるかたが多いようですね。ご多分にもれず私もそのひとりです。思いつくままに好きな食べ物とその薀蓄(うんちく)を書いてみましょう。
自然薯(じねんじょ)
日本古来の山芋で、滋養に富むとともに粘りがあり、とろろめしは格別です。消化酵素が多く含まれているため、胃が弱っている時にも、食べたものの消化吸収を促進する効果があります。栽培されている山芋(銀杏芋、捏芋、大芋)は中国や南方から中世に日本へ伝来したもので、日本自生の自然薯とは異なります。ちなみに薯とは中国語で芋のことを意味し、馬鈴薯(じゃがいも)や甘薯(さつまいも)などにも使われています。
ジャガイモとサツマイモ
「ジャガイモ」はジャガタラの芋、「サツマイモ」は薩摩の芋です。ジャガタラとは「ジャガタラお春」でご紹介した今のインドネシアのこと。南米原産の芋がヨーロッパに伝わり、インドネシアに拠点があったオランダ人によって日本へ持ち込まれたのです。サツマイモは薩摩(鹿児島)で琉球藷、琉球(沖縄)では唐芋と、伝来した地名が付けられています。
飛龍頭(ひりょうず、ひろうす)
豆腐料理である「がんもどき」を関西地方でこう呼びます。ポルトガル語で肉団子のことを「ヒロス」と呼ぶことから転じたとする説や、形が龍の頭に似ているからとする説などがあります。一方、関東地方での呼び名である「がんもどき」は雁の味に似ている、または形が丸いことから丸(団子)のようなものの意とも言われます。
カツレツ
揚げ物のことですが、フランス料理から来た言葉のようです。現在は縮めて「カツ」と言うのが普通ですね。豚カツ、牛カツ、鶏カツ、鯨カツ、ハムカツ、そしてカツ丼など多彩です。外来語を組み合わせた造語が挽肉のミンチカツでメンチカツとも言います。海老フライ、牡蠣フライなどのフライや串カツと呼ばれる料理も同じ調理法が使われています。
天ぷら
日本固有の揚げ物料理と思われがちですが、ポルトガルの揚げ物料理がオリジナルとの説が有力で、天麩羅の字は当て字のようです。現在は、日本に従来からあった揚げ物も含めて、小麦粉の衣をつけた揚げもの全体を呼ぶようになりました。野菜を揚げたものは精進揚げと呼ぶこともあります。
刺身
これは日本で発祥した料理の代表です。なぜ刺身と呼ぶかが不思議ですね。諸説があります。生魚の切り身に魚の種類を示すために尾鰭(おひれ)を刺した、あるいは切り身では縁起が悪いので刺すと言い換えたなどの説です。同じ生魚でも細かくしたものは「たたき」。その名の通り叩く動作から呼ばれるようになりました。鰹、鯵、鰯などがよく使われます。
寿司
残念ながらこれも渡来の食べ物です。南アジアが起源といわれ、米の中で魚を発酵させた保存食のようです。これが中国を経由して平安時代に日本へ伝来し、魚とともにご飯も一緒に食べるようになりました。江戸時代に入ると、発酵させない新鮮な魚をご飯と一緒に食べるにぎり鮨が一般的になり、現在の鮨が確立しました。さて鮨と寿司の違いですが、前者は旧来のものを指し、後者は江戸前寿司のことを指すようです。縁起が良い字を使ったとの説もあるようですが。私の好きな鯖の押し鮨(バッテラ)はその中間と言えるでしょう。
うどん
小麦粉を使った麺で、奈良時代に中国から伝えられました。鎌倉時代になると、材料や加工法が改良されてうどんの原型である「切り麦」となり、室町時代には現在とほとんど同じものに発展して「うどん(饂飩、温飩)」と呼ばれるようになりました。ワンタンを中国語で餛飩(フントン、方言でウンドン)と言うそうですから、その影響があるのかも知れません。うどんは江戸時代に入り江戸で広まります。製法が異なる素麺(そーめん)が秋田に伝わって稲庭うどんになったとの説があります。日本3大うどんはこの稲庭、群馬の水沢、そして映画にもなった香川の讃岐。稲庭は手延べで細め、水沢はやや太めのザル、讃岐はかけとともに多彩なトッピング、とそれぞれに特徴があります。
蕎麦(そば)
中国南部(雲南省)が原産地とされる蕎麦は稲と同時期に日本へ伝わったようです。しかし、中国から伝来したうどんに比べると比較的新しい食べ物のようで、当初は蕎麦掻(そばがき)の形で食べられていましたが、蕎麦粉(そばこ)につなぎとして小麦粉をまぜて麺(めん)の形に捏(こ)ねる製法が朝鮮からもたらされた江戸時代の初頭に広まりました。痩(や)せた土地でも栽培できる蕎麦の食べ方として普及したと考えられます。ちなみに、「そば」は中国語の蕎麦(ソバのツブの意)ですが、蕎麦の実は形が尖(とが)っていることから、稜(そばだ)つの「そば」を充(あ)てた訓読みのようです。そして、寿司、うどん、蕎麦は江戸時代に屋台形式の店舗で普及した、いわばファーストフードの奔(はし)りと言ってもよいでしょう。
ラーメン
もっとも人気のある麺がラーメン(拉麺)。名前とドンブリの装飾柄はどう見ても中国風ですが、意外にも日本生まれです。麺はかん水を入れた中華麺が使われますが、具やスープにはルールはなく、創作料理の典型例です。最近はかん水を使わない麺も使われるようです。日本で最初にラーメンを食べたのは水戸光圀であるとする説がありますが、これは中華蕎麦ではないかと思います。戦前にはラーメンは支那ソバと呼ばれており、ラーメンの呼称が一般的になるのは戦後のことです。「拉」は引っ張るの意味があり、切るのではなく、引っ張って伸ばした麺のことです。中国の麺の製法は、「引っ張る」のほかに、「切る」「押し出す」「削る」「型で抜く」「小さく分ける」など多彩です。
チャンポンメン
これも日本で考案された麺料理です。明治時代に長崎の料理屋さんが中国からの留学生に食べさせたいと創作した麺料理なのです。「チャンポン」は色々なものを混ぜるという意味のポルトガル語とする説が有力ですが、沖縄のチャンプルーや朝鮮語だとする説もあります。発祥の地、長崎を冠して呼ばれることが多いですね。タップリ入った魚介類とこってりしたスープが特徴です。スパゲッティのナポリタンと同様に、日本国内でしか通用しない名前の麺料理です。
おみおつけ
味噌汁の丁寧な言い方。漢字では「御御御付け」と書きます。後半の「おつけ」はご膳に付ける汁物のことで、初めの「おみ」は丁寧を表す接頭語、具の丁寧表現(御実)、あるいは味噌の丁寧表現(御味)などの諸説があります。御御足(おみあし)と同じ用法と考えるのが自然だと思います。
ご飯
米を炊いた食事が飯(めし)で、「召す」からでた言葉です。茶碗にご飯を盛ることを関東と関西では「ご飯を装う」と言うように、日本人の食事作法についての拘りがよく覗えます。装う時には杓文字(しゃもじ)でご飯を2度あるいは3度に分け、より美味しく見えるように盛る心配りです。一方、食べる人は、お代わりをするときに一口分を残し、終わる時には一粒残らず食べること。そして茶碗を洗う人のことを考えてお茶を少し入れておく。昔、親から教わった記憶はあるものの、今はほとんど実行できていません。おかずとご飯は混ぜない、味噌汁をご飯にかけないなどの教えもありました。私の生まれた田舎ではご飯を装うことを「つける」と言います。この言い方は狭い地域だけで使われていますから、時代小説がお好きなかたは何処か分かったことでしょう。他にも「つぐ」「よそる」などの言い方もあるようです。
これからもご飯を美味しく頂きたいものです。
最近のコメント