銭形平次捕物控と長谷川一夫
連休は自宅で映画三昧の日々を過ごしました。そのなかで印象深かったのは長谷川一夫が主演した映画「銭形平次捕物控」のシリーズです。何十年ぶりでしょうか、子供の頃、父に連れられて観に行った映画の代表格です。4月中旬にWOWOWが放送した5編を録画して置いたのです。
最初は1951年製作の「銭形平次・恋文道中」です。原作はもちろん野村胡堂、人気浪曲師であった広沢虎造が「虎造」役で出演していました。平次の子分、ガラッ八の八五郎役は花菱アチャコ、女賊のお加代は長谷川裕見子が演じました。長谷川裕見子は長谷川一夫の姪にあたり、大映映画でよく共演しています。彼女は最近亡くなった船越英二の奥さん、つまり二時間ドラマの帝王と呼ばれる俳優船越英一郎の母親になった人です。
筋書きは、御三家筆頭尾張家の側室が独身時代に書いた恋文をめぐって暗躍する正室派と平次が江戸から箱根までの道中で恋文の争奪戦を演じると言うものです。道中には怪しげなグループが何組も登場しますが、次々と殺されてしまいます。平次の謎解きで、最後はもちろん「めでたしめでたし」で終わります。
六郷の渡し、戸塚宿、小田原宿、湯元宿、箱根の裏街道、そして芦ノ湖畔が舞台でした。江戸時代の東海道と旅人姿が良く描かれています。平次の独特な台詞回しと八五郎が関西弁を話していたのが面白い。
これに4篇の銭形平次捕物控が続きました。平次役の長谷川一夫は変りませんが、八五郎や女房のお静役はさまざまな俳優・女優が演じています。とくに八五郎役はバラエティがあって面白い。花菱アチャコに続いて、榎本健一、船越英二、三木のり平とめまぐるしく変ります。それぞれの映画のポイントを列記しましょう。
「どくろ駕籠」(1955年製作のモノクロ映画)では本多伊豆守の愛妾が殺害された事件の殺人トリックを平次が解き明かす謎解きになっているのが珍しい。そして長谷川一夫の女装姿が見事でした。夜のシーンとは言え、悪役が平次だと気が付かないで口説くのは芝居の約束ごとだからでしょう。なお題名の「どくろ駕籠」は平次が悪人に対して仕掛けた虚仮威し(こけおどし)です。
「まだら蛇」(1957年製作)からカラー映画になりました。当時20歳であった美空ひばり、そして美人の代表と言われた山本富士子と色っぽい木暮美千代の二大女優が共演、あの榎本健一が八五郎役です。まだら蛇の刺青をした男が殺されたことが発端となり、放免された受刑者を使った贋金造り事件を平次が暴く話です。
「雪女の足跡」(1958年製作)では香川京子の女目明しと楠木としえの瓦版屋が色を添えました。二枚目俳優の船越英二が演じる八五郎役が異色です。江戸城の御用金3万両を奪った盗難事件を解決する話ですがストーリー展開は平凡です。この事件で詰め腹をきらされそうになった町奉行を平次が身を挺して救うところが見所でした。
「美人蜘蛛」(1960年製作)は伊能忠敬の日本地図が盗まれた事件で、平次と八五郎が犯人を追って伊勢参り道中へ出ます。三木のり平の八五郎、小田原宿の女目明し役の水谷良重、女形役の茶川一郎、そして初々しい中村玉緒などが出演しました。伊勢参りの一行はまるで現代のパックツアー客のようで、現代風の台詞とコメディタッチは興醒めでした。
いずれの映画もタイトルがおどろおどろしいのは時代を反映したのでしょうか。銭形平次の映画は戦前からありましたが、何と言っても長谷川一夫の銭形平次が圧巻です。1949年にまず新東宝で「銭形平次八百八町」が撮影されました。花菱アチャコ、黒川弥太郎、長谷川裕見子、小夜福子など懐かしい人たちが出演しました。翌1950年に長谷川一夫が大映に移ったことで、このシリーズも大映の看板映画となります。
長谷川一夫の平次は今観ても見事です。戦前戦後を通じて二枚目俳優の代名詞でしたが、表情と仕種(しぐさ)だけでなく、台詞回しが素晴らしいのです。自らを「おいら」と呼び、「そうでござんしょう」「おやさよーで」「おねげーにあがりやした」などの粋な台詞(文字で表現するのは難い)が長谷川一夫ならではのものです。投げ銭も荒唐無稽のようですがスナップを利かせた鋭さに今更ながら感心しました。長谷川一夫は1984年に没しましたが不世出の映画俳優と言って間違いないでしょう。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 浜町緑道を歩く(後編)(2013.09.29)
- 横浜中華街 関帝廟通りで横浜博覧館へ(2013.08.10)
- 続・奥の細道疑紀行 上越市高田(後編)(2013.07.02)
- 続・奥の細道疑紀行 上越市高田(前編)(2013.07.01)
- 続・奥の細道疑紀行 山形自動車道で寒河江市と大江町へ(2013.05.13)


コメント