北信濃のドライブ旅: 「阿弥陀堂だより」の舞台
東京の生活で心を病んだ勤務医の妻と彼女を暖かく見守る売れない小説家の夫が夫の故郷である山深い奥信州の飯山に移り住み、美しい四季がある豊かな自然と地元の人々との触れ合いによって、二人が生きる喜びを見つけるまでを描いた映画「阿弥陀堂だより」(2002年)の舞台となった場所を訪ねます。
主人公役を演ずる寺尾總(あきら)さんと妻役の樋口可南子(かなこ)さんが好演、阿弥陀堂(あみだどう)で一人暮らす老婆役の北林谷栄さん、今も清楚(せいそ)な香川京子さん、名脇役の井川比佐志さんなどのベテラン俳優が作品に厚みを与えました。そして黒澤明監督の助監督を長年努めた小林堯史(たかし)さんが監督を担当、国内外の賞を多数受賞した同氏の初作品「雨あがる」(2000年)に次いで二番目の作品となりました。「雨あがる」(山本周五郎原作、黒澤明脚本)は武士の面目とは何かを一人の浪人の仕官活動を通して伝えることで観る者に深い感動を与える秀作でした。
映画「阿弥陀堂だより」で唯一作られたオープンセットが阿弥陀堂で、それ以外は奥信濃 飯山の四季がそのまま映像化されました。この阿弥陀堂はロケ後も取り壊されず地元飯山市によって修復・保存されていると聞き、ミーハーな動機ですが、映画を見た時から一度訪れたいと思っていました。ちなみにミーハーとは昭和初期に生まれた俗語で流行に影響されやすい軽薄な人を意味します。語源はその当時の女性の名前に「みよちゃん」(ミー)と「はなちゃん」(ハー)が多かったことによるとされます。
長い前口上(まえこうじょう)になりましたがドライブ旅に戻ります。馬曲温泉から県道354号に戻って県道38号の富田入り口交差点(名前の表示はない)を右折すると、なだらかな上り坂が続きました。行過ぎてしまったのではないかと思われるほど長い坂道が1km以上も続きます。水車小屋横の木製灯籠に阿弥陀堂まで1.2kmと表示されていていましたので安心して進むと前方に福島神社が見えてきました。飯山の観光案内に指定されるままに神社左手にある休憩小舎「さんべ」の駐車場を利用します。
道はここで「福島棚田」方面と二手に分かれます。少し迷いましたがまず右手の阿弥陀堂へ向かうことにしました。石仏とススキが出迎えてくれる舗装された急坂はゆったりとカーブしながら続き、振り返ると千曲川・大平峰・斑尾山の展望が開けて、かなりの高みまで来たことが分かります。道の両脇に並ぶ石仏は「三十三所観世音」で先の万仏山(標高1320m)まで続いているようです。
左手から道が合流する場所に出ました。その角に車が2-3台停められそうなスペースがあります。それを指差す同行者に構わず私は右手に見えるお堂へと続く細い道へ。阿弥陀堂は閉まっていますが「戸を開けた後は閉めるように」と書かれています。薄暗い堂内には仏像と映画の説明パネルと映画シーンの写真がありました。寺尾總さんが演じた主人公を真似て縁側に腰を下ろして煙が立ち昇る里山の景色をしばらく眺めました。お堂の先へと小道を進むと三部社がありましたが行き止まりです。
もと来た道を引き返すと一組のご夫妻と擦れ違いました。やはり映画を見た人なのでしょう。遊歩道に出るとタクシーが停まっています。挨拶した運転手さんと立ち話になりました。「観光客の多い春は棚田から阿弥陀堂を一周するルートが一方通行になりますが、この季節ならここまで車で上っても良かったですよ」と説明してくれました。
「さんべ」の駐車場に真っ直ぐ戻ると言う同行者と離れて福島棚田を一周する遊歩道を歩くことにしました。車が十分通行することができますがやはり歩く方が景色を何倍も楽しめます。棚田に沿った遊歩道を私と逆方向(正規の方向)に車で上る若いカップルと擦れ違いました。日本の棚田百選に選ばれた福島棚田の保存会「棚田の里三部」へ入る石畳があります。立ち寄りたいところですが同行者の待つ駐車場へ向うことに・・・。
県道38号に戻った最初の交差点で辺りを探していると、同行者が「あれじゃない?」と木立を指差します。確かに「神戸(ごうど)の大イチョウ」の小さな案内表示が出ています。それに従うと畦道(あぜみち)のような狭い道が右へ左へと折れ曲がって鳥居の前に出ました。車が数台停まっています。学生のグループを先生が引率しているようです。樹高36m、幹囲13m、樹齢千数百年だそうです。樹齢が千年を越すと神神(こうごう)しく強い生命力を感じました。このイチョウは長野県の天然記念物です。
もう一箇所、「阿弥陀堂だより」のロケ地になった小菅神社里社に立ち寄りました。関沢交差点から2kmほど入った所です。長い参道沿いに庚申塔や小市兵衛の力石、立派な仁王門が続きます。小市兵衛は奥信濃の昔話に登場する力持ちとのこと。
急な石段を上って本殿に参拝。石段下で見かけた万葉歌碑は柿本人麻呂の歌「浅葉野に立ち神さぶる菅の根のねもころ誰故わが恋なくに」(浅葉野にはえて神神しいまでに年を経た菅の根のように ねんごろに心深く 誰のためにでもなく あなたのみを恋慕うのだの意)でした。この小菅(こすげ)神社は戸隠・飯綱とともに信州三大修験霊場のひとつで小菅山元隆寺(がんりゅうじ)が起源とされるそうです。
奥社はさらに1km余り山に登ったところですから小菅神社里社を「阿弥陀堂だより」ロケ地巡りの終着点にしました。(野沢温泉へ続く)
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