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2010年3月27日 (土)

ノルウェイの森

村上春樹さんの代表作「ノルウェイの森」(講談社文庫・上下巻)を読みました。題名はビートルズの楽曲から採られたもので、これまでに読んだ村上作品(羊をめぐる冒険世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドなど)では題名が小説のテーマを暗示していたのと異なります。冒頭のシーンで主人公のワタナベトオル(37歳)がドイツに到着した時にボーイング747(ジャンボ)機内に流れた曲でした。そして18年前の回想が始まります。学生運動が最高潮に達した1968年から2年後の1970年までのことを

2009_11230007 恋愛小説の形をとっていますが「人間の生と死」がテーマ、生と死が対極にある、あるいは死が生の一部として潜在するとの考えを扱っています。それまでの村上作品とは異なってありふれた舞台設定と普通の人物が登場しますが、読み進むとやはりどこか普通ではありません。すべての登場人物が主人公である「僕」を通してしか関わりを持たないのです。

比喩(ひゆ)の多い文体は村上春樹さんならではですが、「木樵(きこり)女」の表現(上巻P.130)が気になりました。煙草の火を乱暴に消した同級生の小林緑に向って主人公が言った言葉です。著者の造語のようで辞書をひいても出てきません。樵(きこり)のように粗雑な女性という意味でしょうか。そして時間を持て余した主人公がヘルマン・ヘッセの「車輪の下」を所在なげに読むシーンがありました。私は青年の清純な恋心を描いたアンドレ・ジードの「狭き門」を意識しましたが、主人公が死に至る「車輪の下」がこの小説に相応しいと著者が考えたようです。

2008_04100010 簡単にストーリーを紹介しましょう。東京の私大に進学した主人公が高校生の時に自殺した同級生キズキの恋人「直子」と偶然再会、次第に惹(ひ)かれますが、1年後に直子は女子大を突然休学して帰郷してしまいます。そして4ヵ月後、2人は京都郊外の療養施設で再会、直子は心を病んでいたのです。その療養所で主人公は直子と同室で年長のレイコさんに会います。彼女はピアノを専攻した元音大生でギターでバッハのフーガやビートルズの「ミッシェル」「ノルウェイの森」などを弾いてくれました。

主人公が入った学生寮の先輩で東大生の永沢さんとその恋人の女子大生ハツミさんも登場、主人公に好意を持つ二人との不思議な付き合いが高校時代のキズキと直子との関係を連想させます。永沢さんはカリスマ性を持った人物で外交官になり海外に出ることを考えていますが、人との係(かか)わりにはほとんど興味を持たず、異性は刹那(せつな)的な性の対象でしかありません。

2009_06180049 冬休みに再び京都を訪れた主人公は直子が幾分回復しているように感じますが、直後に症状が悪化して直子が他の専門病院へ入院したことを知ります。そして夏になると直子は自殺してしまいます。愛するものを亡くした哀しみを癒(いや)すことはできないと考え始めた主人公は、生の一部としての死に引きずり込まれて、当てもない一人旅に出ました。

しかしレイコさんが療養施設を出て別の地で生きようと決心したことが主人公に再び生を意識させます。そして最後に同級生の小林緑が生の力を与えることを連想させて物語が終るのは「ねじまき鳥クロニクル」で近所に住む休学中の女子高生笠原メイの存在と重なりました。

2007_07170055 「人と距離を置く人」「人を傷つける性癖の人」、そして「人を傷つけたことで自分が深く傷つく人」など様々な人物を登場させ、悩み苦しみながらも自分以外の人との係わりなしには生きられないのが人間であると描くのは「ねじまき鳥クロニクル」と同じです。村上作品を「ノルウェイの森」まで読み進んできた私ですが性描写の多さは気になります。しかし読後に救いを感じさせるのはやはり村上春樹氏の作品です。

「ノルウェイの森」は国内発行部数が累計で1000万部を超え、36の言語に翻訳された世界的なベストセラーで、今年後半には映画化されて国内で公開されるようです。

写真は上から早稲田大学(大隈講堂)、四谷市ヶ谷、新宿(伊勢丹)。

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