東日本大震災の直後、福島第一原子力発電所から漏れた放射性ヨウ素が甲状腺に蓄積されることを防ぐためにはヨードチンキ(消毒薬)あるいはイソジンガーグル(うがい薬)を飲むと効果があるとする風説(ふうせつ)が流布(るふ)されました。チェルノブイリ原子力発電所の事故後に取られた防護策を誤って理解(内服薬と外用薬を混同)したものでした。類似の風評に「米のとぎ汁乳酸菌」もありました。乳酸菌が体内の放射性物質を排出するとして、飲んだり・点眼したりする人が続出したのです。しかし、これも効果が無いだけでなく、雑菌が感染して眼球の炎症や下痢を起こしたそうです。乳酸菌は体に良いとの思い込みが背景にあったのでしょう。
風説が広がるのは自然災害や大事故などで異常事態が発生した時、家族(なかでも乳幼児)の健康被害を心配する親が、住民を守る責務のある国や地方自治体がタームリーに情報を発信しない(あるいは曖昧な情報に留める)ことで、藁(わら)にもすがる思いで効果があるとする方法に飛びついてしまうことが背景にあるようです。最近はメール・ブログ・ツイッターなど手軽な情報発信手段が普及したことで、自分が信じた(思い込んだ)情報を善意で友人・知人へ発信すると、その人達が別の友人・知人に転送することで、風評がこれまでの口コミとは比較にならないほどの速さで拡がりました。皮肉なことに善意が害毒をまき散らす構図が見て取れます。
マスコミは視聴者の不安を煽(あお)る傾向がある一方、自分たちの利害関係者を慮(おもんばか)って危険性への視聴者の関心を逸(そ)らそうとしたことも風評の拡大に影響したようです。大震災のあと1カ月近くに亘(わた)って朝から晩(ばん)まで原子力専門家と称する人達を番組に登場させて不確かな(その多くは被爆の影響を過小評価する)情報を垂(た)れ流した「マッチポンプ的な報道」もこの一例でしょう。
人はなぜこのような都市伝説(現代の迷信)を信じるのでしょうか。後になって冷静に考えれば容易にそれが馬鹿らしい考えだと分かるのですが、不安心理が強いことで判断能力が低下して自己防衛本能からさらに「疑心暗鬼」(疑いが強くて何でもないことを不安に感じる)状態に陥(おちい)るからだと考えられます。原子力発電の作られた安全神話もこの不安を大きくしました。つまり「原子力発電は安全でなければいけない」がいつのまにか「原子力発電は安全である」に変質した都市伝説の嘘が白日の下(もと)に曝(さら)されています。前置きが長くなりましたが、風説ほど悪影響を与えることは少ないのですが、風説と類似する「ステレオタイプの考え方」を今回のテーマに取り上げます。
「ステレオタイプ」とは社会学の用語で紋切(もんき)り型の態度のことを指します。語源となったステロタイプ(Stereotype)は印刷用の鉛版のことで、判で押したような(頑固な)態度や考え方なのです。つまり個人的な考えや判断ではなく周囲の人や社会の影響をそのまま(無批判に)受け入れた状態なのです。上述したように、情報化社会の現在はマスコミやインターネットの書き込み(ブログ・ツイッター・SNSなど)が大きな影響力を持っている一方で、自身にはさして深い考えがないため安易に信じてしまうことが多いのです。昔からある身近な例は、血液型あるいは体型と性格の関係や男女の資質差についての偏見(へんけん)があります。ちなみに、ステレオは「硬い」あるいは「立体」を意味しますが、オーディオの場合はもちろん後者です。
それではステレオタイプは悪いことなのでしょうか? 後になって騙(だま)されたと後悔することはあるかもしれませんが、一概に悪いとは言えません。あらゆることを自分が納得できるまで考えるのは至難の業(わざ)であるだけでなく、長い時間が掛かる上に疲れてしまいます。「そう言うこともあるのかもしれない」と聞き流しておけば心配事や悩み事も少なくなります。つまり動物としての自己防衛本能に適(かな)っているかも知れません。とは言っても、このような態度だけでは自分で考える機会が少なくなるため、「誰かに判断して欲しい・決めて欲しい・解決してほしい」など他人への依存心が高まると思われます。そして、それが満たされないと不満に感じることが多くなるでしょう。しかし、考え方を少し変えるだけでこの困った状況から脱することが出来るのです。
一般論だけでは分かり難(にく)いかも知れませんので、いくつかの事例でもう少し具体的に説明します。そのポイントは私の信念に関わることですが、「分かり易(やす)いことには嘘が隠されている」可能性があると言うことです。
事例の一つ目は刹那的(せつなてき)ブームへの便乗(びんじょう)です。最近の例はワールドカップで優勝した「なでしこジャパン」をめぐる大騒ぎがあります。日本人全員が関連のテレビ番組に見入り、サーカー解説者のようになり、これまで一度も訪れたことのないサッカー場へ大挙して押しかけるのです。ちょっと前にはプロゴルファーの石川遼選手にも起こったフィーバー(熱狂)です。しかし、全員が俄(にわ)かファンになる必要はなく、世界の檜(ひのき)舞台で活躍した選手を自らのやり方で讃(たた)えれば良いと思うのです。
特にテレビ番組に出演するタレントやコメンテイター(解説者)、レポーターがこれらのスポーツ選手に下世話(げせわ)な質問をする様を熱心に見入ることは、テレビ放送の番組作りと同様に、選手に対して大変失礼ではないでしょうか。これもまたマスコミが視聴率を求めるあまり社会へ垂(た)れ流す害毒と言えるでしょう。国民栄誉賞(えいよしょう)による一過性のご褒美(ほうび)だけでなく、女子サッカーの振興に向けて何を行うかを政府はもちろん、マスコミや国民も考え・実行することこそが選手や関係者が期待する祝福なのではないでしょうか。
次は省エネルギー。当ブログで紹介したようにわが家ではベランダにゴーヤと風船かずらのグリーンカーテンを育てています。大きな葉で夏の太陽光を遮(さえぎ)り、植栽(しょくさい)からの気化熱で周囲の温度を下げる効果を期待していたのです。伝統的な方法ですから間違いないはずです。水遣(みずや)りを欠かさなかったことでグリーンカーテンを支えるネットに葉が密集し始めて見た目にはカーテンらしくなったのですが、その効果はほとんど実感できません。ここで鈍(にぶ)い私もやっと気づきました。わが家のグリーンカーテンは同じベランダに置かれたエアコン室外機からの排熱に晒(さら)されていたのです。
これではグリーンカーテンに勝ち目がなく、葭簀(よしず)などの日除けと大差ありません。エアコンを止めてみればグリーンカーテンの効果を体感出来るかもしれませんが、熱中症になることは請(う)け合いです。これからはゴーヤの実を提供してくれるお得な日除けと割り切って水遣りを続けたいと思います。そしてグリーンカーテンの幅をエアコンの排熱の邪魔(じゃま)にならない範囲に留(とど)めるつもりです。さもないと、「二兎(にと)を追う者は一兎(いっと)をも得ず」(効果が帳消し)になり兼ねません。つまり、良いことでも組み合わせを誤ると「元の木阿弥(もくあみ)」(一旦良くなったものが元の状態に戻ること)になる失敗でした。
3つ目は、ちょっと理屈っぽくなりますが、最近エコ商品として大人気のLED電球です。白熱電球や電球型蛍光灯に比べて消費電力が少なく、しかも長寿命であることが注目されています。家電量販店では売り切れる商品もあるそうですが、慌(あわ)てて家中の白熱電球をLED電球と交換する必要があるのでしょうか? 家電メーカーから公表されているデータを参照してみると、最大の特長は4万時間と長寿命(白熱電球の約40倍・電球型蛍光灯の3-6倍)であることと、消費電力も白熱電球の約1/5(電球型蛍光灯の80-90%)と少ないようです。しかし家電メーカーのデータは1日当たり10時間点灯(10年間使用)した場合の比較を行ってLED電球の方が経済的としていることが多いので注意が必要です。もし、1日に1時間程度しか使わない場合(例えばトイレなど)は上記のシナリオは製品コストが100円以下(LED電球の約1/50以下)と極端に安い白熱電球が有利になります。
寿命や消費電力の他にも注意すべき点があります。一般的に白熱電球の何ワット相当(現在はルーメンで表示)と説明されますが、それは真下における値(明るさ)を指していますから、横方向への発光が少ないLED電球は居間などの広い空間で使用すると暗く感じる(特に20‐30%ルーメン値が低い電球色タイプ)のです。つまり天井に埋め込まれたダウンライトや狭い範囲(120度程度)を照らす用途に適しています。最近は光を散乱させる仕組み(レンズ付き)や電球内にある複数個あるLEDの取り付け角度をミラーボールのようにしたタイプ(300度程度)も一部で販売され始めたようですが・・。また調光式照明器具には必ず対応できるLED電球を使うことが必須ですが、抵抗式やトランス式など古い調光式照明器具では調光器対応のLED電球でも使えないことがあります。そして、LED電球には白熱電球よりも寸法が長いものが多いため照明器具に取り付けられるかどうかを事前に確認する必要もあります。
最後にLED電球についての私見を述べます。白熱電球よりも寿命が大幅に長いことや点滅(てんめつ)による劣化が少ない特徴を活かした使い方はLED電球の独壇場(どくだんじょう)でしょう。しかし猜疑心(さいぎしん)の強い私は普及し始めたばかりのLED電球を大量に採用する(買い込む)ことは、寿命・消費電力・初期費用を総合的に考慮すると、得策ではないと考えるのです。最大の明るさもまだ十分ではなく、ダイニングなどで使う100Wの白熱電球(ボール電球)に相当する明るさの製品は電球型蛍光灯にはありますが、LED電球ではユニティ社製などほんの一部に限られます。ですから天井灯など交換することが困難なものから長寿命のLED電球や電球型蛍光灯に交換して、LED電球がさらに低価格になるのを待つのが良いと考えるのです。
注記; 電球型の他に蛍光灯型(棒状)LEDもありますが、こちらも調光式と同様に電流を制御する方式の違いで使えない(焼損する恐れもある)タイプがあります。
従い、わが家でLED電球に変えたのは常時(長時間)点灯する照明だけで、残る場所にはほとんど電球型蛍光灯を使っています。唯一(ゆいいつ)の例外はトイレの白熱電球。上記した理由からLED電球へ交換することは無駄であり、電球型蛍光灯もほぼ瞬時に点灯しますが最大の明るさになるまでに時間が掛かりますから「レストルーム」には相応(ふさわ)しくないと思うからです。そして室内照明は、長々と書いた経済性の視点だけでなく、やはり照明器具としての機能や光の質(色)、そして何より雰囲気が大切ではないでしょうか。
写真は上から、おたふく紫陽花(あじさい、別名うず紫陽花)、ガウラの白い花、風船葛(かずら)の緑色の実、木槿(むくげ)の白い花、同じくピンクの花
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