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2011年11月24日 (木)

「ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階」を読む

日本の大手家電メーカーのPSC社とSNY社が相次いで巨額の赤字決算(見込み)を発表したことは、世界に冠たる超優良企業も盤石ではないことを思い知らされました。両社はともに経済危機で受けた大きな痛手から経営改革によって立ち直ったと思われた矢先であったことが私には大きなショックとなったのです。両社とも薄型テレビ事業の収益悪化と、それに伴う事業縮小のために巨額な費用を見込むための赤字計上でした。
 

この他にもゲーム専業のNTD社もやはり苦境に陥っています。同社は1980年代前半に家庭用ゲーム機を発売して一躍ゲーム業界トップの地位を確立しますが、1990年代に入るとSNY社に首位の座を奪われました。そして2000年頃には戦略を見直した(小型ゲーム機に注力)ことでトップに返り咲きましたが、2000年代後半から再び勢いが弱まり、今年2月に満を持して発売した3Dゲーム機が低迷したことで売上が大幅に減少して赤字を予想しています。
 

いずれの会社も海外でのビジネスが大きいため円高の影響を受けているのでしょうが、苦境に陥った理由はそれだけでなさそうです。そこで、以前読んだジェームス・C・コリンズ著「ビジョナリーカンパニー 時代を越える生存の原則」と「ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則」の続編である「ビジョナリーカンパニー3衰退の五段階」(2010年7月26日日経BP社刊)を読んでみました。その原題はHow The Mighty Fall(強者はいかにして没落するかの意)です。
 

ここで言う「ビジョナリーカンパニー」とはビジョン(将来の構想)を持っており、業界で卓越した結果を残し、見識ある経営者に広く尊敬されている企業のことです。
 

本題に入る前にこれまで読んだ最初の2冊の概要を紹介しましょう。1冊目は時代を越えて際立った存在であるとして主要企業のCEOたちに選ばれた18社の歴史に関する調査(ライバル企業との比較を含む)で、企業の活力を生み出す社員がお金では計れない動機付け(基本理念)に左右されるという真理を明らかにしています。
 

2冊目は優れた経営者に率いられた超一流企業に勝る目覚しい業績を上げて飛躍した11社を競合企業との比較分析によって、「飛躍を導いた経営者は、地味で謙虚な人物だが不屈の意思を備えている経営者である。最初に優秀な人材を選び、その後に経営目標を定める。劇的な転換にみえる改革を、社内に規律を重視した文化を築きながら、じっくりと時間をかけて実行する」ことを導き出しています。
 

                         ☆
 

今回読んだ3冊目の冒頭で著者は妻の病気に例えて、「組織の衰退は段階的な病のようなもので、初期の段階には発見するのが難しいが、治療するのはやさしい。後期の段階にはその逆である」と考えるようになったと明かす。危機の瀬戸際にあって気付かない危機の事例をアメリカ企業の経営史から詳しく解説した。
 

先ず100年余り前にサンフランシスコで大地震が発生した時の積極的な対応で急成長を遂げたバンク・オブ・アメリカ(1998年にネーションズバンクと合併したがその名前を存続)は1970年代後半に業界第1位の地位を盤石なものとしたが、1980年に若くて積極的な人物をCEOに選んだことで暗転することになる。積極的な戦略と時代遅れになった伝統を打ち破り、支店を閉鎖し、終身雇用制を廃止して奨励給を増やした。それにも拘わらず1985年以降には巨額の損失を計上することになる。著者はこのCEOが就任する以前にすでに転落し始めていたのであり、革命を起こす熱意をもった経営者がいたにもかかわらず転落を食い止められなかったと擁護する。
 

著者はこれまでの調査対象企業60社から興隆と没落の基準にあてはまる時期がある11社を選び出し、衰退が明らかになる時点までに何が起こったのか、衰退し始めた時にどのような行動を取ったのかを分析して、衰退の枠組みを構成する5段階を導き出した。第1段階「成功から生まれる傲慢(ごうまん)」、第2段階「規律なき拡大路線」、第3段階「リスクと問題の否認」、第4段階「一発逆転の追求」、第5段階「屈服と凡庸(ぼんよう)な企業への転落か消滅」である。
 

衰退企業は、段階を飛び越える場合もあるが、これら5つの段階を順に経過する可能性が高く、これらの段階を急速に進む企業があれば何十年もかけて衰退していく企業もあるという。そして偉大な企業でもつまずき続けて第5段階に入ってしまうともはや回復できないが、かなり悪い状態になっていても第4段階であれば反転して回復する場合があると衰退中の企業に希望を持たせる。
 

次いで著者は、第四段階での失敗例(企業名と当時のCEO)としてバンク・オブ・アメリカのサミュエル・アーマコスト、モトローラのエド・サンダー、ヒューレットパッカード(HP)のカーリー・フィオリーナを挙げ、成功例にはテキサス・インスツルメント(TI)のジェリー・ジャンキンスとトム・エバンス、IBMのルイス・ガースナー、ゼロックスのアン・マルケイヒーを列挙する。失敗した3例はいずれも過大な成長を追求した社外出身の派手な指導者たちであり、成功例はIBMを除けばいずれも社内からの人選で、企業文化をくつがえす革命的な変革の担い手ではなく、目立った特徴はないが、組織的で一貫した方法を採用したと分析する。(注釈;日本で知名度が高くない失敗企業は省略)
 

そのポイントは、回復のための「特効薬」を安易に求めない、救世主のようなカリスマ的指導者を求めない、冷静かつ慎重に規律ある行動をとる、抜本的な変化と「革命」を喧伝(けんでん)して従業員の力を結集する動機付けとしない、組織の存在理由を再確認する、リストラの繰り返しによる財務力の低下で選択肢を狭めない、であるという。
 

                         ☆
 

5段階の各々について事例を引用しながら詳しく説明したあと、著者は「充分に根拠のある希望」と題した最終章でゼロックスのケースを詳しく解説した。2001年に巨額の損失を計上して株価が2年弱で92%下落、負債比率は900%を越え、同社の格付けがジャンク債の水準まで引き下げられた状況でアン・マルケイヒーがCEOに就任する。彼女はゼロックスの企業文化を一気にくつがえすのではなく、企業文化を活かす道を選んだのである。
 

評論家たちはこの無名の女性経営者に会社を救うために不可欠な強烈な意思があるのかを疑問視したが、この心配は無用であった。自らが担当したこともあるインクジェット・プリンター事業などを閉鎖してコスト構造を25億ドル削減する一方、長期的な投資が不可欠であるとして研究開発費は削減しなかった。むしろ最悪の時期には売上高に対する研究開発費の比率を高めているのである。2006年には10億ドルを超える黒字になり、2008年にはチーフ・エグゼクティブ誌が彼女をCEOオブ・ザ・イヤーに選んだ。
 

このゼロックス以外にも、IBM、テキサス・インスツルメンツ、ディズニー、ボーイングなどビジョナリーカンパニーとして復活した企業に共通する点は、過去のどこかの時点で少なくとも一度は深刻な後退に陥り、回復している点であり、どの場合にも衰退の動きを打ち破る指導者があらわれ、屈服を拒否し、絶望的だと思える状況で単に生き残るだけでなく、いずれ勝利するとの考えを掲げていたという。
 

マルケイヒーがそうであるように、これらの指導者は衰退を機会として利用しており、経営規律の欠如は衰退と相関し、経営規律を固守する姿勢が回復や上昇と相関すると指摘し、「環境だけで結果が決まるわけではない」と結論する。また企業の競争力となっている主要事業(弾み車)の勢いを弱めない(絶えず維持強化する努力)、時を告げる(カリスマ性がある経営者の指示のこと)のではなく(社員が時を知ることができる)時計を作る、基本理念を維持して進歩を促すことの必要性を著者は繰り返し強調する。
 

                         ☆
 

前2冊に比べると読み易い文体で書かれており、具体的な事例の分析は興味深く、一気に読み切ることができました。そして読後には、ずっと前に読んだ「なぜ国家は衰亡するのか」(1998年中西輝政著)がローマ帝国や大英帝国などの強大国家が衰亡する(あるいは復活する)本当の理由は、外的な要因(外敵)ではなく、内にある虚ろなもの(経済の活力低下ではなく精神の問題)であることと、ある文明(文化圏)がその力を維持し続けるには外部の文物を取り入れながらも、その文明の核にあるものは絶対に放棄しないことであると指摘したこととのアナロジーを見出しました。

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