当ブログでは昨年9月に掲載した記事「テレビは必要ですか?」に続いて、今年1月にはテレビの観すぎが頭脳に悪影響を与えると警鐘を鳴らした和田秀樹著「テレビに破壊される脳」を紹介しましたが、今回はスマートフォンが人の脳(思考と行動)に与える悪影響を考えてみました。
スマートフォン(以下スマホ)は腕時計以上に身近な存在として常に持ち歩く人が多い万能の電子機器で、アップル社のアイフォーンやAndroido OSを使うソニー製Xpedia、サムスン電子製GALAXY、シャープ製AQUOS PHONEなど大きなタッチスクリーン(現状では4-4.7インチ)を持つ携帯電話端末を指すといって良いでしょう。通話・メール・インターネット・音楽プレーヤーなどの機能が備わっていて、ネットサーフィン・YouTube・ブログなども簡単に利用できるだけではなく、無料のアプリを追加すればFacebook・Twitter・Skype・LINEなどのコミュニケーション機能や各種ゲームも楽しめます。つまりスマートフォンは名前の通り「賢い電話」なのです。
従来の携帯電話(フィーチャーフォン)でも通話以外にメールやインターネットなどの利用も可能でしたが、スマホは携帯電話の可搬性(ポータビリティ)とパソコンの多様な機能(ユーティリティ)を一つにまとめた新時代の携帯端末と言えるでしょう。これらの魅力に加えてパケット定額などの料金制度がこの数年でスマホを爆発的に普及させたと考えられます。こんな便利なスマホですが、懸念材料もいくつか考えられます。そんなバカなと思われることも有るかも知れませんが、後悔しないためにはどうすべきかを考える参考にしていただければ幸いです。
(1)歩行中の利用がもたらす危険
最も分かりやすいリスクとして挙げられるのは最近注目され始めた「歩きスマホ」です。歩行中にスマホに夢中になって人や車に接触することや、時には駅のプラットフォームから転落する事故も発生しています。スマホはフィーチャーフォンに比べて画面が大きくて鮮明なことで利用者が画面に没頭しやすいことと、両手で操作(左手で持って右手の指で画面にタッチ*)するため視線が下を向きやすいいのです。つまり、心理的にも物理的にも周囲が見えにくくなりがちなのです。このリスクを避けるには迷惑にならない所に立ち止まって利用することに尽(つ)きます。「歩きタバコ」ならぬ「歩きスマホ」は止めましょう。
*主なタッチ操作: タップ、フリック、スワイプ、ピンチ、マルチタップ、ドラッグ
(2)電磁波が脳に与える悪影響
学生の頃からの趣味であるアマチュア無線で大出力(100ワット以上)の電波を扱ってきた私は電磁波の影響に強い関心を持っています。昔のことですが、熱心なアマチュア無線家は強い電波に長時間さらされるため、子供は女の子しか産まれないという都市伝説がありました。それはともかく、高圧(数万ボルト以上)の送電線や放送局の送信アンテナ(50-100キロワット)の周辺では体に変調をきたす人が多いことが昔からよく知られており、電子レンジ(500-1000ワット)も人体に悪影響を与えることが1970年頃に確認されたことで電磁波が外部へ漏れ出さないような保護対策が義務付けられました。これらに比べればスマホが出す電波(1ワット以下)はかなり弱いのですが、携帯電話が現在のように小型化された20数年前からその危険性が指摘されています。それは脳に近い耳に携帯電話を接近させて使用することで小電力でも脳内に高い電界を生じるからです。しかも、同じ場所に長い時間にわたって保持することが多いことも懸念される理由でした。
20年以上にわたってこの懸念は未解決(タバコと異なり歴史が浅い携帯電話は人体に有害であることは実証されていないとする意見が支配的)でしたが、2年前に世界保健機関(WHO)の専門組織である国際がん研究機関は携帯電話の頻繁(ひんぱん)な利用で脳腫瘍(のうしゅよう)のリスクが高まる可能性があるとの見解を公表しました。小さいと思われる危険性も確率が高い(回数が多い、時間が長い)とリスクはそれに比例して大きくなるからです。例えば、低温火災(木材の低温炭化による火災)や低温火傷(携帯用カイロや湯たんぽなどが原因)が身近に存在する似たタイプのリスクです。電磁波によるリスクを避けるには、使用時間を制限するか、それが出来ない時はハンズフリー・モード(マイク付イヤフォン)を使用すれば良いのです。
(3)時間を専有される問題
スマホが登場する前のフィーチャーフォンでも長時間あるいは頻繁(ひんぱん)に電話する傾向が年々強まって通話時間が長くなる傾向があることを統計データが示していました。そしてスマホでは通話に加えてメールやTwitter・LINE・チャット、あるいはネットサーフィン(ウェブの連続閲覧)、ゲーム(オンラインおよびアプリ)に没頭(ぼっとう)して時間を消費する人が急増しています。その背景にはスマホの使いやすさと料金の定額制があると思われます。ニールセン社による最近のスマホ利用状況調査”Mobile NetView”で「女性の一人あたりの月間利用時間は47時間で、男性(34時間)の1.44倍である」「利用目的は男女とも検索・通販サイト・LINEが上位を占めている」ことが明らかにされています。しかし、アプリの利用や音楽視聴などの時間を含んでいないようですから、スマホの使用時間はもっと長いと考えられます。
(4)自分の自由時間と考える習慣を失くす問題
上記(3)で述べたように、スマートフォンの利用方法で多いのは、天気予報・地図などの生活情報を入手するだけでなく、疑問に思ったこともネット検索すれば知りたい情報が手に入るため知識が受け売りになるだけでなく一面的な結論に陥(おちい)ることが多くなりがちです。そして、友人・知人とのコミュニケーションにおいてはメールやチャットなどを利用するサイバー空間での言葉のやり取りで「つながっている」ことを確認し合うこと、そしてゲームで遊ぶことなど、暇潰(ひまつぶ)しに最適なスマホが登場したことによって人々は退屈(たいくつ)するということがなくなっているのです。したがって、考えようとする意志や考えるための時間は生まれないでしょう。また「ボーっとする時間」(自省するための時間)さえ無くなっているのです。それなら、「ボーっとするためのアプリ」を開発すれば良いではないかとの意見が出てきそうです。どこまでスマホに支配されたいのでしょうか。ちょっとの間、スマホの電源を切る勇気を持つだけで良いのですが・・。
(5)他人との直接的な交流が減る問題
上記(4)で述べたように、コミュニケーションがスマホを利用したサイバー空間で行われるようになると、友人とコミュニケーションする内容以上に着信数が気になり始めるようです。そして、着信すると即座に返信しなければならないとの強迫観念(きょうはくかんねん)も生まれるそうです。こうなると、スマホを片時も手放せなくなってしまいます。電車のなかでもスマホに文字を入力している人はこの状況に陥(おちい)っているのでしょう。フィーチャーフォンでもこの状況が指摘されていましたが、スマホは使いやすいためより深刻になっているようです。いくら利用してもパケット定額制があるため毎月の料金が増えないこともブレーキを利(き)きにくくしています。上記した「考える時間が少なくなる」ことと同じ理由で友人・知人と直接会って会話する機会も確実に減ることでしょう。
(6)依存症に陥るリスク
以上、スマホの使い過ぎがもたらす問題を長々と書きましたが、(1)事故の引き金と(2)電磁波が脳細胞へ与える影響の2つを別にすれば、いずれもスマホには酒やタバコ、あるいはある種の薬物と同様に習慣性(つまり依存症)があることです。依存症(いぞんしょう)は和田秀樹氏が「テレビで破壊される脳」で指摘されたように、人の意思の問題ではなく、肉体的あるいは精神的な疾患(病気)なのです。使用することを止める以外に治療法はないのです。当事者自身はもう止めることができなくなっているのです。したがって、スマホ依存症にならない事前の対策が必要なのです。ゲーム機やパソコンでも依存症の問題が指摘されましたが、スマホは携帯性に優(すぐ)れることから、より深刻な依存症に陥(おちい)るリスクがあると考えられます。とくに精神的にも肉体的にも成長期にある子供は(1)から(6)までのリスクがすべて当てはまりますから、親は子供にスマホを安易に買い与えないようにすべきでしょう。買い与える時には使用制限(フィルタリングや使用時間)を子供に納得させた上で、それが設定できるスマホ(携帯電話会社)を選ぶべきでしょう。何か問題が起きてからではもう遅いのです。
ここまで読んでいただけば心当たりがあることやなるほどそうだと思われたこともいくつかあると思います。便利で手放せないスマホは使い過ぎに注意しながら賢く(スマートに)利用しましょう。
<参考情報>スマホの誕生から現在まで
スマホとは従来の携帯電話(フィーチャーフォン)と対比する新しい携帯電話の呼び名で、カナダRIM社(現在のブラックベリー社)が1990年代に登場したPDA(携帯情報端末)に電話機能を追加して1997年に発売したビジネス用携帯端末のブラックベリーが最初のスマホとして欧米ではよく知られています。日本では2007年に発売されて現在のスマホの原型になったアップル社のiPhone(アイフォーン)が最初と言った方が通じやすいでしょう。
アイフォーンもブラックベリーと同様にアップル社のポータブルメディアプレーヤーであるiPod Touch(アイポッドタッチ)に携帯電話機能・インターネット/メールの送受信機能を追加したものです。最初のモデルは携帯電話の通信方式が日本で使われていないGSM規格であったため日本市場には投入されませんでしたが、第2代目のiPhone 3Gが3G規格に対応したことで日本市場にも登場しました。さらにiPhone 3GS、iPhone 4、iPhone 4S、iPhone 5が毎年発売されて身近な存在になりました。
アイフォーンの大成功に刺激された競合各社がGoogle社の提供するAndroid OSなどを使ってアイフォーンとそっくりなスマホを続々発売したことで、携帯電話におけるスマホの販売シェアは70%前後まで急増しています。しかし、Android以外のOSは2011-2012年の2年間で淘汰(とうた)されてしまい、現在はアップル社のiOSとAndoroidの2つがスマホ用OSのデファクト(実質的な)標準となり、寡占化(かせんか)が進行しました。
参考として数値データを示しましょう。世界における最新のスマホ販売シェア(台数ベース)は、メーカー数の多いAndroidが約70%と突出し、次いでiOS(アイフォーン)が約20%、その他の合計が約10%のシェアになったようです。日本国内に限ればAndroidが60%強、アイフォーンが30%強、その他の合計が5%弱とアイフォーンの人気が相対的に高いことが分かります。そして、アイフォーンの平均単価はAndroid端末に比べて高いため、金額ベースでは両者の差が縮まると考えられます。
最近のコメント