続・奥の細道疑紀行 清川から羽黒山へ(その1)
庄内町清川に到着。国道47号から脇道で下へ降りた清川小学校の敷地に「芭蕉上陸の地」碑がありました。芭蕉は本合海から最上川舟運の川港であった清川までの舟旅で「五月雨を あつめて早し 最上川」の句を詠んだといわれることが説明されています。
校舎寄りに松尾芭蕉像とその句碑が並んでいました。ちょっと気になったことは、「早し」を「速し」とすべきではないかということです。念のために調べてみると、昔は現代ほど両者の使い分けが厳密ではなく、現代語でも早馬や早籠(かご)などが慣用句として残っていました。
さらに右手にある釣瓶(つるべ)井戸と左後方(土留めの脇)に見える榎(えのき)は江戸時代にこの場所にあった清川関所の名残(なごり)だそうです。
芭蕉の足跡に従って立谷沢川沿いに南下すると、遠くに虚空蔵岳(こくうぞうだけ、標高1090m)と月山(がっさん、標高1984m)が見えました。虚空蔵の名を京都府京田辺市・長野県上田市・神奈川県伊勢原市・栃木県栃木市・京都府京都市で見かけましたが、虚空蔵とは宇宙のような無限の智恵と慈悲を持つ菩薩(ぼさつ)のこと。
県道45号が右に折れる場所に羽黒山の案内標識がありました。直進した県道344号は月の沢温泉で行き止まりになりますから、月山へ向うには県道45号で羽黒山を経由して県道211号(月山高原ライン、約18km)に入る必要があるようです。
曲がりくねった急坂を上ると雪の壁が現れました。その後ろには桜の花が覗(のぞ)いています。
坂を上り切って鶴岡市に入ると平らな場所に出ました。月山へ向う県道211号との分岐点に月山ビジターセンターと羽黒自然の小径(こみち)がありました。
月山方面はまだ通行止めですから、後者に立ち寄ることにしました。約1.5kmのバリアフリー自然観察路で、春の雪解けの季節にはミズバショウとザゼンソウが見られると説明されています。
湿原には尾瀬にあるような木道が整備されていました。後方の木立の中はまだ雪が積もっています。
水芭蕉(みずばしょう)はサトイモ科ミズバショウ族の多年草です。純白の花のように見えるのは苞葉(ほうば)と呼ばれる葉が変形したものだそうです。ザゼンソウ(座禅草)は時機が遅すぎたのか見ることはできませんでした。
ちなみに、松尾芭蕉は芭蕉の木が好きだったことで芭蕉をペンネームにしたと言われます。
県道45号を鶴岡市方面へ1.5kmほど下って、案内標識に従って右折すると石の鳥居が聳(そび)える出羽三山神社の前に出ました。出羽三山神社は月山の月山神社、羽黒山の出羽(いでは)神社、湯殿山(ゆどのさん)の湯殿山神社の総称で、羽黒山に三社の神を併(あわ)せ祀(まつ)る三神合祭殿があるそうです。
石の鳥居を潜(くぐ)った随神門(ずいしんもん)の右手前に「奥の細道芭蕉翁来訪の地」の碑が立っていました。その左にある大きな石は「天拝石(てんぱいせき)」で、昔修験者(しゅげんじゃ)が行法(ぎょうほう、修行)を行った場所にあった石と思われると説明されています。
随神門は仁王門として元禄年間に秋田矢島藩主生駒氏が寄進したものとされ、入母屋・銅板葺き・三間一戸で、外壁は朱色に塗られています。明治初頭に発令された神仏分離令により仁王像が随神像と置き換えられて門の名称も変わりました。
右手に「藤沢周平 その作品と縁の地 羽黒の呪術者たち 羽黒山」の立て看板を見つけました。
今回の旅を思い立った理由の一つが藤沢周平氏の作品です。映画化された「武士の一分」(2006年)、「たそがれ清兵衛」(2002年)、「山桜」(2008年)、「花のあと」(2010年)を順に観て来ましたが、今年3月20日にWOWOWで放送された藤沢周平特集番組で、「小川の辺(ほとり)」(2011年)、「蝉(せみ)しぐれ」(2003年)、「隠し剣 鬼の爪」(2004年)を新たに観たことで居ても立っても居られなくなったのです。
羽黒山の参道が下に向って伸びていました。この杉並木(総数445本)は特別天然記念物に指定されています。
右手に継子坂(ままこざか)と彫られた石碑がひっそりと立っていました。この坂には幼(おさな)い継子にまつわる悲しい言い伝えがあるようです。
参道の石段は急峻(きゅうしゅん)な下り勾配(こうばい)になっていて、まるでスキー場のゲレンデやジャンプ台のようです。
継子坂を下 り切った場所は境内社(けいだいしゃ)が6社も並んでいて神域を感じさせる雰囲気があります。思わず来し方を振り返りました。数えることはしませんでしたが石段は約250段もあったようです。
右に折れた参道はさらに下方へ続くようです。雪解け水で石畳が濡れていますから注意して歩くことに。
朱に塗られた神橋(しんきょう)に出ました。日光東照宮の神橋を小振りにしたようなこの橋で祓川(はらいがわ)を渡ります。神橋の向こう側に見えるのは境内社の下居社(しもいしゃ)です。(続く)
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