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2013年11月17日 (日)

古代日本への旅 九州王朝説

「倭人伝を徹底して読む」に続いて「多元的古代の成立(上下巻)」(2012年12月ミネルヴァ書房刊)を読み終わりました。古田武彦氏の著作はいずれも難解な言葉と関連古文書から膨大な検証データを引用するため、読者はまるで大海の漂流者にでもなったような気分に陥(おちい)りますが、同氏が示す海図でいつの間にか目的地へと辿(たど)り着いて安堵(あんど)できる仕掛けがありました。  

天皇家一元史観による従来の「定説」に対して行った学的挑戦の粋を集成した論集という「多元的古代の成立」(上下巻計744ページ)の詳細に立ち入ると長くなりますので、それぞれのポイントと考えられる事項を以下に列挙します。

  (注)多元的古代とは古代の日本列島には複数の王朝と大王が並立・連立して存在したとする

     仮説のことを意味し、この学説は一般的に多元王朝説と呼ばれる

「上巻」 (邪馬壹国に関する6編の論文)

● 3-7世紀の歴史書を読むには多元史観が不可欠である

● 古代中国における短里(周朝および魏・西晋朝)と長里(漢朝)に約5倍の差があった

● 縄文人による太平洋横断(縄文土器が南米でも出土)

● 邪馬壹国(一般的には邪馬台国と呼ばれる)への工程解釈

「下巻」 (倭の五王論、三角縁神獣鏡論、古事記序文論など7編の論文)

● 倭の五王(讃・珍・済・興・武)は九州王朝の王である

● 弥生(やよい)遺跡と青銅器の分布

● 埼玉古墳群の稲荷山古墳(埼玉県行田市)から出土した鉄剣(国宝)の銘文

● 三角縁神獣鏡(さんかくぶちしんじゅうきょう)は魏(ぎ)から卑弥呼に贈られた銅鏡かの考察

● 古事記・日本書紀成立の根本問題

歴史教科書や他の古代史文献とは大きく異なる視点で書かれた本書を驚きを感じながら読み進みましたが、読後には魏志倭人伝(ぎしわじんでん)について大変興味深い解釈が明確に述べられていることが分かりました。なかでも著者が邪馬壹国(やまちこく)であるとする邪馬台国(やまたいこく)の場所を魏朝(ぎちょう)時代の短里(75-90mを用いて筑紫(つくし)の太宰府(だざいふ)辺りに比定する論法(邪馬台国九州説)には頷(うなず)けました。一方、縄文人(じょうもんじん)が太平洋を横断したとする同氏の考え(本書上巻)についてはまだ懐疑的(かいぎてき)であると考えています。

年代推定法が最近見直されて箸墓(はしはか)古墳の築造が3世紀後半に早められたことで、卑弥呼(ひみこ)の墓である可能性が出てきた(従来指摘されていた年代のズレがほぼ解消した)ため邪馬台国近畿説が盛り返しているようです。しかし、本書を読み終えた私は中国の国史で使われた言葉の統計的な分析を踏まえて魏志倭人伝を素直に読み取る手法にあらためて納得させられました。

私の好きな松本清張氏も『古代史疑」で古田氏と同様に魏志倭人伝の記述を誤記や誇張などと決めつけることで持論にとって都合の良い意味に読み替えるべきではないと指摘しています。ただし、行程の里数・日数と戸数は五行説に合わせた数字と断定したこと、卑弥呼に女王の名称を与えたのは魏志倭人伝の編者(陳寿)であると指摘したこと、当時の倭人は漢字が読めたとは考えられないとしたこと、邪馬台国の所在地を有明海に近い福岡県山門郡に比定したこと、魏志倭人伝に邪馬台国と対立していたとだけ記述された狗奴国(くなこく)について大胆な仮説を紹介しこと、などは古田氏と異なります。

倭(わ)の五王については中国の国史にある記述を解説したうえで、古事記と日本書紀が五王に直接触れていないことと考古学(出土品)の分析結果を引用して明快に説明したことにより、同氏の九州王朝説には強い説得力が感じられました。一方、松本清張氏は通説に従って履中(りちゅう)天皇など大和政権の天皇(当時は大王)説を支持し、魏志倭人伝から約100年間の空白期間の後に中国の宋書に倭の五王が登場するまでに大きな変動が倭国にあったと考えました。

すなわち、前東大教授江上波夫氏が提唱したいわゆる「騎馬民族説」に賛同したのです。魏朝による朝鮮半島支配の拠点であった帯方郡(たいほうぐん)が魏朝の終焉(しゅうえん)にともない滅亡したのち、北方系の種族が北九州に上陸して女王国を併呑(へいどん)し、狗奴国を敗亡させて九州一帯を統一したのち畿内に進出し、そこに強大な勢力を持つ大和朝廷を樹立したとする考えです。

なお、古代日本における最大の事件であった「壬申(じんしん)の乱」が九州を舞台とした出来事であるとする同氏の説は残念ながら本書には含まれていません。ミネルヴァ書房の古田武彦古代史コレクションには「壬申大乱」も入っていますから、オーバーヒートした頭をクールダウンしてから、近いうちに同書にも挑戦したいと思います。

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