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2014年3月24日 (月)

橘玲著『(日本人)』を読む 前編

テレビ東京の経済情報番組ワールドビジネスサテライト(WBS)の「スミスの本棚」のコーナー(2月12日放送)にてLINEの森川亮(あきら)社長が紹介された経済小説作家橘玲(たちばなれい)氏の著作『(日本人)』(かっこにっぽんじんと読む)に興味を持ちました。

現在、3億人以上が利用するコミュニケーションサービスの「LINE」をさらに全世界で展開させようとしている森川氏は、「日本のことをもっと知らないと海外のことが分からないと思い、この本を手に取った」そうです。そして、「日本人が実は非常に合理性が高く、組織があまり好きではなくて、孤独が好きであることが書いてある。アメリカの学者の研究によると、日本人は他のどの国民よりも損得勘定を考え、合理的で世俗的なのだそうです」と補足説明。「この本に書いてあることが正しいとしたら、学校や会社といった組織からはみ出ると『損』な環境だからこそ、日本人は新しいことを言わないようになっている気がする。逆にいうと、環境が変われば日本人はきっと変わる。日本の企業から業界を変えるようなイノベーションが生まれない理由も、そこにあるのではないか」と続けました。

つまり、「会社が村みたいになっているからイノベーションが生まれない」「変わった人こそが評価されるような企業文化、仕組みに変えていく必要がある」「合理的な日本人。さまざまな価値観が存在するグローバル社会でも十分に通用するはずだ」、と森川さんは考えます。「たとえば意見を戦わせて相手を打ち負かす欧米流は勝ち負けが明確になるため問題も起きる。日本人は調整力が非常に強く、相手の意見をうまく持ち上げながら、結果的に思うように動かせるような力があるのではないか」と森川さんいうのです。好奇心を大いに刺激された私は『(日本人)』読んでみたくなりました。

本題に入る前の余談です。今年の1月下旬のことですが、テレビ東京の人気番組”WBS”のメインキャスターが3月31日(月)から同社の大江麻理子(まりこ)アナウンサーへ変わることが発表されました。1年近く前、大江さんがテレビ東京のニューヨーク支局へ転勤になった頃に噂されていたことが現実となったのです。私の好きな大江さんが”WBS”でさらに活躍をされることを期待しています。

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2012年5月10日に幻冬舎から発行された『(日本人)』の表紙は白地に大きな赤い括弧で囲まれた”日本人”の黒文字が際立っている。

中表紙をめくった「はじめに」で著者は『日本人をカッコに入れる』という。3・11東日本大震災と福島第1原発事故のあと、さまざまな人たちが「日本」と「日本人」を論じたが、その論旨は、『日本の被災者は世界を感動させ、日本の政治は国民を絶望させた』であり、ここには2種類の、まったく異なる日本人がいるという。著者は「世界価値観調査(World Values Survey)」(2005年)を引用して、全82問のなかで、日本人が他の国々と比べて大きく異なっている項目が3つあると指摘する。

1つ目の項目「もし戦争という事態になったら、あなたは進んでわが国のために戦うか?」にはわずか15.1%の日本人が「はい」と答えただけであり、飛び離れた最下位である。2つ目の項目「あなたは日本人であることにどれくらい誇りをかんじるか?」に「非常に感じる」「かなり感じる」と答えた人の比率は57.4%と、香港の49%に次いで低い。ドイツも日本に次いで低い比率を示していることから、著者は第二次世界大戦の敗戦体験が強く影響していることは明らかだという。

さらに、3つ目の項目「近い将来起こると思われるいろいろな生活様式の変化が起こった場合、あなたはどう思うか?」では、「権威や権力がより尊重される」について「よいこと」と回答した人の比率は先進諸国だけを見ても、フランス人(84.9%)、イギリス人(76.1%)、アメリカ人(59.2%)、ドイツ人(49.8%)と高く、権威的な体制への批判が噴出する中国ですら43.3%であるのに対し、日本人はわずか3.2%にしか過ぎない。逆に80.3%が「悪いこと」と回答している。日本人は世界のなかでダントツに権威や権力が嫌いな国民だったのだ。

やはり戦争体験の影響があるだろうが、著者はそれでも謎は残るという。敗戦で同様に悲惨な体験をしたドイツ人でも約半分のひとが「権威や権力は尊重すべき」と答えているからだ。著者は『この「謎」を出発点に、私たちは何者で、どのような社会に生きているのかを解明し、そこでは進化心理学の知見が私たちの旅を助けてくれるだろう』との考えを述べる。『日本人をカッコに入れる一番の効用は国家や国民という既成の枠組みから離れることで、世の中で起きているさまざまな出来事をシンプルに理解できるようになることだ』ともいう。

                            ☆

著者は本文の0章を「ほほえみの話」で始めた。「福島第一原子力発電所で1号機と3号機が相次いで水素爆発を起こし、状況が時々刻々と悪化するなか、公式情報を伝える審議官の表情はいつもかすかにほほえんでいるように見えた。記者の質問を受けて、一瞬、笑みがこぼれることもあった」と著者はいう。

次いで、タイにある13種類のイム(ほほえみ)のエピソードを引用して、「勝ち目のないたたかいに直面した時のほほえみが多様なコミュニケーションが行われていることを指摘する。そして、「空気を読む」(タイ語でグレンチャイという)ことも日本とタイで共通する行動であるという。

私たちの社会の文化や習俗、行動規範のなかで日本的とされるものの大半は、じつはアジア世界ではありふれたものにすぎないではなかろうかと著者はいう。

PART LOCAL

1. 武士道とエヴァンゲリオン

冒頭、著者は自身が持つ疑問として、90年代を代表するアニメ作品となった「新世紀エヴァンゲリオン」が一部のマニアを超えて、社会現象となるほどまで広く受け入れられたのかを提示した。唐突に感じられるが著者が結論の伏線としたことが最後まで読むと理解される。

次いで、2003年に数学者・藤原正彦氏の「国家の品格」が発売され、200万部を超える大ベストセラーになったことを振り返った。国際人である藤原氏が書いた同書は偏狭なナショナリズム(愛国心)を排し、故郷を愛するパトリオティズム(祖国愛)を説いた穏当な保守主義の本である。しかし、祖国を破壊する敵の正体を「市場原理主義」と決めつけたことと、近代的な合理性に対して「武士道精神」を対峙させたことは経済学の観点から議論が分かれるという。

しかし、貨幣空間(市場の論理)の侵食に対して政治空間の論理(統治の論理)で対抗するしかなく、それがいかに古風でバカバカしく見えても、私たちは武士道という「最終兵器」で戦うしかない。このシンプルな構図を提供したことで「国家の品格」は日本人のこころをとらえたのだ」と著者はしめくくった。

2.「日本人」というオリエンタリズム

社会は「政治空間」(人間関係でできた共同体)と「貨幣空間」(モノとお金のやり取りでつながる世界)から構成されている。市場原理主義(グローバリズム)とは貨幣空間が政治空間を侵食することである。逆に、アンチグローバリズムとは貨幣空間の侵食(市場の論理)に対して、統治の論理で対抗しようとすることである。武士道は日本版の統治の論理であり、日本人とは明治維新の後、西洋との接触によって人工的につくられた自画像(オリエりンタリズム)である。

3.「愛の不毛」を進化論で説明する

「確率のトリック」を利用した詐欺を詳しく解説。当たり馬券の予想屋(実は詐欺師)が秘密の競馬必勝法を知っているにちがいないと信じ込ませる巧妙な手口だ。偶然当たった人びとのもとに、『次の当たり馬券も知りたくないか?でもこんどは、ちゃんとカネを払えよ』と書かれたメールが送られてくる。これは、ずいぶん前にアメリカで流行した詐欺の手口だ。このトリックは国籍や人種に関係のない「人間の本性」を利用しているのだ。その本性とは、『ヒトは確率的な出来事をうまく理解できない』というものだ。

4.「人間の本性」は進化から生まれた

「脳にプレインストールされた因果律」「確率世界と複雑性世界」「乱交と純愛」「病気はなぜあるか」「若さの源泉としての老化」の各項目についてわかりやすく解説した。生物の基本原理として、脳のOSは原因と結果が対応する因果律であり、確率的な事象や複雑系の世界を処理できない。生物はより多くの子孫を残すように進化したように、ヒトのこころ(感情)もより多くの子孫を残すように愛情へと進化してきた。男と女の生殖機能のちがいが愛し方のちがいを生む。オスがメスを獲得するには、他部族と交換するか、他部族から奪ってくるしかない。そして、「神」は脳のプログラムから偶然生まれたという。
 
(続く)

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