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2014年8月 5日 (火)

池井戸潤著「株価暴落」を読む

唐突(とうとう)ですが、ここで「ハワイの旅行記」を小休止して、「箸(はし)休め」記事を投稿します。   

池井戸作品の3番目として、「株価暴落」(2004年3月30日文芸春秋社刊)を手に取りました。ハードカバーの表紙には「株価暴落」と「池井戸潤」の大きな文字が並び、その背景は落胆に浸(ひた)る背広姿の男性と大規模な火事現場と思われる燃え盛る真っ赤な火が描かれていてインパクトがあります。中表紙には同じ文字と株価が急落する情況を示す赤色の罫線(けいせん)が容易ならざるストーリー展開を予想させました。

 

1章 案山子(かかし)

 

白水銀行で病院と呼ばれる赤字や債務超過などにより業績が悪化した上場企業とその系列会社だけを専門に担当する審査部は丸の内にある銀行本部ビルの13階にある。調査役の坂東洋史(ばんどうひろし)は窓際に立って林立する同じ白水資本の商社や損保ビル、そして皇居の広大な敷地を眺めていた。あと、ひと月足らずで年度が終わる3月の半ばである。株価7000円台のどん底から、うっすらとではあるが景気の先行きに明るい日差しがさした1年であった。
 

だが取引先が破綻することなく生き延びてくれたのは幸運だった。業績不振企業を相手にしているこの審査部にとっては、不況のまっただ中にいるのと変わりないのだ。それでも、取引先が破綻することなく生き延びてくれたのは幸運だった。本物の病院と決定的に違うことは、銀行が営利団体であり、銀行の利益を守るためには、審査する企業の死も選択肢の一つである。この部門に配属される行員はメガバンク白水銀行の中でもトップクラスのバンカーである。
 

部下の淡島平太(あわしまへいた)から何度も声を掛けられて、ふと我に返った。入行7年目の淡島は主要支店で中小企業融資を経験し、調査役への昇格とともに審査部に配属されて坂東の補佐をしている。肩書きこそ同じ調査役だが、次長昇格を目前にしている坂東とは職給が異なる。様々な市況情報が表示される電光掲示板にニュース速報が流れていることを淡島は必死で伝えようとしていたのだ。「一風堂で爆発があり多数の死傷者が出た」とのニュースに坂東も絶句してデスクに駆け戻った。坂東が担当する巨大スーパーだ。
 

坂東が電話をかけた相手は一風堂財務部長の友部勇作だった。坂東の問いに友部は「目黒店の食品売り場で爆発が起きたが、まだ詳しいことは分かっていない」ことだけを説明。実質債務超過に転落した一風堂は、昨年12月の決算を前に再生計画を策定して経営再建に乗り出して間もない。創業社長でカリスマの風間耕造が会長に退き、財務省の課長だった女婿(女性)の西原竹史を社長に据えるというトップ交代も同時に行い、人心を一新して再出発をしたばかりだ。
 

池井戸氏らしくテンポのある導入部で、読者はその舞台へ引き込まれてしまい、ページをめくる指がもどかしく感じるほど。続いて坂東と企画調査部次長二戸(にと)哲也の一風堂をめぐる確執(かくしつ)が明かされる。翌日、坂東のもとへ報告のため訪れた友部と広報室長の財前知春(ざいぜんともはる)は案山子(かかし)と名乗る人物から「反社会的な行動を続ける一風堂の会長と社長が辞任し、一風堂自身もは法的整理を受けなければ、同様の爆破を継続する」と書かれた脅迫状が爆発の直後に一風堂へ届いていた事実を明かした。一風堂は坂東の意見にしたがって渋々警察へ届け出るが、案山子の要求を全面的に拒否する一風堂トップの記者会見のあと、一風堂笹塚支店ででも爆発事件が起こる。

 

2章 緊急支援要請 

 

融資部企業融資グループ調査役の田丸直紀(たまるなおき)が坂東のもとにやってきた。一風堂の下請け企業が一風堂の株を担保に融資の申し入れがあったことについて坂東の意見を聞きにきたのだ。坂東の煮え切らない態度に憤慨するも、意外な情報を坂東に伝えた。蒲田支店が融資を断った安岡商店が倒産して社長が自殺した件の背後に一風堂の圧力(一風堂が新展開したディスカウント・ショップの強引な出店)と白水銀行総務部の動きがあったと思われるというのである。
 

蒲田支店には総務部の波田尚人(はだなおと)が先回りするように訪れていた。波田に続いて蒲田支店を訪ねた坂東は波田が安岡商店の情報ファイルだけを調べたこととメモの一部が無くなっていることに違和感を覚えた。そして、安岡社長には現在21歳日なる息子安岡黄の存在を知る。安岡商店の跡を訪れた坂東は近所の精肉店店主の山崎旭(あきら)から、現在は遠縁の親戚に養子縁組し、名前を犬鳴黄(いぬなきこう)に変えたが行方は分からないこと、黄の周囲に不可解なことが何度も起きたこと、父の葬儀で黄が復讐心に燃える目をしていたと山崎が感じたことを知る。
 

坂東が白水銀行本部へ戻ると淡島が一風堂の株価が暴落したことを報告した。一風堂から客足が遠のいたことによるストップ安だ。そして坂東は審査部長室に呼ばれた。川嶋部長の他に先客の二戸がいた。一風堂が500億円の追加融資を申し込んできたのだ。ここでも坂東と二戸の意見は対立した。
 

ふとしたことから坂東は犬鳴黄のことを銀行の顧客属性(CIF)登録で探すことを思いつき、そして住所を容易に発見した。坂東は預金口座の入出金明細から黄の現在の暮らしぶりを推理。金の動きは人の指紋と同じ以上のことを語る重要な証言者たりうるのだ。

 

3章 犯行動機

 

犬鳴黄は叔父が経営する会社「犬鳴電子部品」で働いており、同級生であった山崎の息子信夫と今も連絡があったのだ。野猿刑事の元に情報提供の電話がかかってきた。「蒲田にあった安岡商店がどうなったかを調べてみるとよい。そこの関係者が犯人かも知れない」という内容である。翌日、一風堂の株価はついに額面を割った。
 

そして坂東は尋ねてきた友部から野猿が犬鳴黄のことを聞きにきたことを教えられる。友部が訪ねてきた目的はもちろん緊急融資を坂東に頼むためだ。警察では爆発された笹塚支店に設置された防犯カメラが犬鳴黄の姿を捉えていたことが判明。夜間の専門学校で得た電気回路の知識、化学実験の試薬を扱う会社が犬鳴と名乗る人物へ数度にわたって数種類のカートリッジ爆薬を販売していることも突き止められた。
 

野猿は黄が働く会社へ向かうが、到着は一歩遅く、黄はいつもより早く帰宅した後であった。強制捜査に切り替え、黄のアパートを家宅捜査すると、押入れの天袋から爆発物製造用の部品と思われる証拠物件が発見された。都内一般道に緊急配備が行われ、犬鳴黄を一風堂爆破の容疑者として指名手配が行われた。

 

第4章 追跡

 

犬鳴黄の行方が分からなくなって3日目、碑文谷警察署に電話が入った。一風堂連続爆破事件に次いで発生したトキオグループ脅迫事件の犯人から現金受け渡し方法の連絡があったのだ。城東銀行中野支店の紀田和寛名義の口座に5億円振り込むようにとの要求。中野支店には紀田からの振込予約が入っていた。金額は5億円、振込先は東京シティ銀行の赤坂支店である。
 

そして、茶色の薄いサングラスに帽子を目深にかぶった男が赤坂支店に現れて、赤坂支店の営業課長に紀田と名乗ったうえ、現金を引き出したいと申し出た。5億円の札を数えるのに時間が掛かるという営業課長に紀田は苛立(いらだ)ち始める。紀田は後ろにいる人物に「外で待ってろ。面が割れるぞ」と独り言のように言う。共犯者がいたのだ。
 

5分が過ぎようとした時、焦(あせ)りを感じた紀田は数え終えた2億円を用意したジュラルミンケースに詰めて出口へ向かった。その刹那(せつな)、紀田は男たちに腕を掴(つか)まれ、顔面はアスファルトに押しつけられた。4人組全員(全員が元会社経営者)が確保されたことで、一風堂爆破事件が予想外の展開で解決したと思われた。しかし、その中に犬鳴黄の名前は含まれていない。一方、黄は混雑した大衆食堂の片隅の席で、反対側の壁に置いてあるテレビが犯人逮捕を報じるのをじっと見つめていた。(以下省略)

 

前半よりテンポアップした展開で、「第5章 与信判断」、「第6章 解任動議」、「第7章 頭取決済」、そして「終章 査問」へと一気に突き進みました。

 

  ☆

 

大手銀行とその融資先の大手スーパーを舞台としたこの長編小説には、様々な経済・金融関連の言葉が登場しますが、決して経済小説ではありません。むしろ、サスペンスドラマと呼ぶべき小説でした。経済・金融についての予備知識がない私は、専門用語に興味を持ちながら、速いストーリー展開にぐいぐい引っ張られました。意外な結末には驚かされましたが、読後に爽快(そうかい)な気分を感じさせたのは、まさに池井戸潤氏の力量だと思います。「株価暴落」というタイトルが結末に深く関係していることにも納得できました。

 

余談ですが、「平仄(ひょうそく)は合う」という難解な言葉を本書で知りました。「物事の筋道がたつ」という意味です。 

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