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2014年9月 8日 (月)

池井戸潤著「空飛ぶタイヤ」を読む(後編)

赤松が沢田を訪ねてきたことを販売部の知り合いから聞いたとして品質保証部の室井秀夫が、沢田のいる販売部のフロアにふらりと現れ、赤松運送からクレームが来ていないかと聞く。特段親しくない室井課長がいつもと違って落ち着きを失っていることに沢田は興味を持った。引っかかるものを感じて沢田は車両製造部にいる友人の小牧重道(こまきしげみち)に電話を入れる。室井のことを話すと、小牧も興味を抱いたことが伝わってきた。品質保証部は製造部門のお目付役であり、社内では煙たい存在であるため、日頃の憂(う)さ晴らしになると期待したのだ。

 

小牧から飲みに誘われた沢田は丸の内オアゾで、小牧が連れてきた研究所の加藤と3人で飲み始めた。しらふでは聞けないからと断って、小牧は自分が販売部で面倒を見たことがある加藤に噂話(うわさばなし)が事実かどうか問い詰めた。品質保証部の幹部社員と研究所長が集まる秘密会議の存在である。渋る加藤に小牧は強引に迫ってその事実を認めさせた。不具合の評価が不正に操作されている可能性も認める。小走りに会社へ戻った沢田は室井課長へ秘密会議や赤松運送の事故について不具合の評価を格下げたのではないかと詰め寄るが、室井は頑(かたく)なに認めようとしない。

 

翌朝、沢田は販売部の上司である野坂明義(のさかあきよし)部長代理から呼ばれ、酔っ払って品質保証部の仕事を邪魔(じゃま)したことを注意された。それについて謝罪した沢田は重大な情報を得たからであるとその理由を説明する。その日の午後遅く、沢田は野坂から再び呼ばれ、『今朝の件は忘れろ』といわれる。『大丈夫なんですか、うちの会社は』と聞く沢田に、野坂は腕を組み、両目をぎゅっと閉じて顔を天井に向け、『大丈夫だ。上を信じろ』と。『一蓮托生(いちれんたくしょう)』という沢田の呟(つぶや)きに、野坂からの返事は無かった。

 

第3章 温室栽培群像

 

東京ホープ銀行本店営業本部の調査役である井崎一亮(かずあき)を軸にして、同銀行に200億円のクレジットライン(融資枠)を要求するホープ自動車の狩野威(たけし)常務と財務部係長の三浦成夫(しげお)がからみ、さらに大学時代の友人である週刊紙記者の榎本崇(えのもとたけし)が赤松運送の事故についての内部告発があったとして井崎に接触して来る。

 

4章 ハブ返せ!

 

赤松徳郎は東京ホープ販売の益田に対して車両事故の際に壊れた部品(車輪と車軸をつなぐハブ)を返してくれるようホープ自動車に伝えてくれと頼んだ。赤松運送の社員のアイデアにしたがって別の研究機関で再検証してもらうためだ。ついで訪れた東京ホープ銀行の自由が丘支店では赤松が依頼した融資はコンプライアンスから見て困難だと支店長とその部下に拒絶された。

 

益田からの連絡を受け取ったホープ自動車販売部カスタマー戦略課の沢田課長は社内の品質保証部にそれを伝えるが、思いがけない抗議が沢田へもたらされた。品質保証部の室井課長は『部品はバラバラに分解したから返却できない』というのだ。沢田は上司の野坂部長代理にも品証の柏原部長から販売部で対応するよう説教されたことを説明された。

 

赤松がPTA会長を務める尾山西小学校で生徒間のトラブルが発生したと赤松は校長から緊急呼び出しを受けた。生徒が学校に持ってきた5000円が無くなったというのだ。その生徒の母親と女王蜂と呼ばれるうるさ方の母親・片山淑子が校長とともに待っていた。

 

ホープ自動車が部品の返却を拒否したことを益田から聞いた赤松はホープ自動車の本社に直談判(じかだんぱん)にでかけるが、対応した沢田課長はあれこれ理由を並べて返却できないと赤松を強圧的にあしらう。その対応のあと、沢田は野坂部長代理に赤松は手強い相手であるから断りきれないと報告すると、野坂は不機嫌な表情を浮かべ、『それでは、こちらの立場がなくなる』という。そこで、沢田は後日問題になったときに自分たちが批判されないよう品証部に文書で部品の返還を求めることを提案し、野坂はあれこれ損得勘定をした上でその提案を認める。

 

品証部との話し合いが持たれたが何ら進展がないため、沢田は代替部品を持参して赤松運送を訪ねて赤松を必死に説得するが二人の議論は噛(か)み合わない。赤松は群馬でも同じ事故があったことを指摘し、ホープ自動車の構造に欠陥があったのではないかと沢田にさらに詰め寄る。自社に戻った沢田は品証部へ向かい、今までどんな事故があったかを確かめるために事故調査報告書を大量にカスタマー戦略課へ運び、深夜近くまで調べた結果、隠された真実があることを確信する。

 

赤松が久しぶりに早めに帰宅すると、息子の拓郎(たくろう)を叱(しか)る妻史絵(ふみえ)の声が玄関先まで聞こえた。拓郎が5000円を盗ったのを見た子がいると同じクラスの母親から告げられたうえ、拓郎が5000円を持っていたのだ。拓郎は知らない間にランドセルに入っていたという。赤松は拓郎を伴って小学校の校長室に向かった。

 

ここまで緻密(ちみつ)に構築された構図に従って、第5章から第9章まで赤松を徹底的に苦しめる状況の悪化が延々と続き、第10章と第11章でのドラマチックな出来事により事態は急展開し、第12章で結末を迎える。そして、終章では荒れ狂った荒波が静まっていく様子が池井戸潤氏らしい穏(おだ)やかなタッチで描かれる。

 

第5章 罪罰系迷門企業

第6章 レジスタンス

第7章 組織断面図

第8章 不経済的選択

第9章 聖夜の歌

第10章 飛べ!赤松プロペラ機

第11章 コンプライアンスを笑え!

第12章 緊急避難計画

終章 ともすれば忘れがちな我らの幸福論

 

                            ☆

 

主人公の赤松は次々と自分に押し寄せる難題にめげそうになりながらも、自分の亡くなった父親の姿を思い出して、最後まで大企業との闘(たたか)いをあきらめない様子が池井戸潤氏らしい平易な文章で巧(たく)みに表現されました。そして、松本清張(せいちょう)氏の推理小説のように多彩な登場人物のリアリティある設定と心理描写もみごとです。大企業に勤めるエリート社員の考え方と行動は、私の限られた経験に照らし合わしても、十分現実的(納得できるもの)でした。池井戸潤氏の代表作のひとつといえるこの力作を一読されることをお勧めします。

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