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2015年2月

2015年2月25日 (水)

池井戸潤著「ロスジェネの逆襲」を読む

半沢直樹シリーズの第3弾である経済小説「ロスジェネの逆襲」(2012年ダイヤモンド社刊、1500円+税)を読みました。『別冊文藝春秋』で連載された前2作の「オレたちバブル入行組」と「オレたち花のバブル組」(2013年7月7日から9月22日までTBS系列でテレビドラマ化)とは異なり、経済専門雑誌『週刊ダイヤモンド』の2010年8月7日号から2011年10月1日号まで連載された小説を単行本化したものです。ちなみに、タイトルにある「ロスジェネ」とはロス・ジェネレーション(ロスジェネ、失われた世代)世代のことで、元々は第1次世界大戦後に活躍した米国人作家(ヘミングウェイなど)に代表される世代を指したが、日本ではバブル崩壊後の「失われた10年」(1993年から2005年ころまで)に就職氷河期のさなかに社会に出た昭和40年代後半から50年代前半の生まれの若者たちを指します。

 

高層ビルを俯瞰する景色が描かれたソフトカバーの表紙を捲(めく)って現れたジャケットには、『ときはー行の系列子会社東京セントラル証券の業績は鳴かず飛ばず。そこにIT企業の雄、電脳雑伎集団社長から、ライバルの東京スパイラルを買収したいと相談を受ける。アドバイザーの座に就けば、巨額の手数料が転がり込んでくるビッグチャンスだ。ところが、そこに親会社である東京中央銀行から理不尽な横槍が入る。責任を問われて窮地に陥った主人公の半沢直樹は、部下の森山雅弘とともに、周囲をアットといわせる秘策に出たーーー。胸のすくエンタテイメント企業小説!』とあります。

 

                          ☆

 

主人公の半沢直樹が東京中央銀行の営業第二部次長から同銀行の証券子会社「東京セントラル証券」に出向して(営業企画部長に左遷されて)約二カ月後の十月、電脳雑伎集団(でんのうざつぎしゅうだん)の平山一正社長と副社長の妻美幸が同社を訪れて、東京スパイラル(スパイラル)を買収し、その上でアドバイザーになってもらいたいと申し入れてきたことから物語が始まった。

 

半沢の部下である諸田(もろた)祥一次長は自部門の収益改善になるとして引き受けに積極的であるが、電脳雑伎集団の担当である森山雅弘調査役は慎重な意見を述べる。これに苛立(いらだ)った諸田次長は強引に半沢の了承を得ると、プロパー社員の森山を外して同じ銀行からの出向組(バブル入行組)の三木重行調査役をリーダーとして4名のプロパー社員をチームメンバーに人選した。

 

東京セントラル証券は証券会社としての業歴が浅く、大型買収のノウハウも持ち合わせていないため、半沢は敵対買収になりそうなこの案件に乗り気ではなかったが、部下の諸田に押し切られた形ではこの案件のアドバイザーチームを発足させ、買収のスキームを練らせる。収益を高くできることから成功報酬とすべきであるとの諸田の提案が東京セントラル証券の岡光秀社長(元東京中央銀行の専務取締役)に承認され、電脳雑伎集団との契約が調印された。

 

頭取の椅子を巡る出世競争に敗れて一年前に現職に就いた岡は企業買収の分野で高収益を上げ、親会社の鼻を明かしたいからだ。しかし、諸田の鼻息とは裏腹に、三木をリーダーとするプロジェクトチームは、それから一週間ほど経っても具体的なスキームを出せないでいた。半沢の見直し指示で提案書らしきものがまとまったのは、それからさらに一週間ほどしてからである。それを持参して電脳雑伎集団に平山社長のもとを訪ねると、対応の遅さを理由にアドバイザー契約は無かったことにしたいと取りつく島がない。

 

会社へ戻った半沢に銀行の同期である融資部の渡真利忍(とまりしのぶ)から電話があり、東京中央銀行の証券営業部が電脳雑伎集団と企業買収のアドバイザー契約を結んだらしいとの情報を教えられる。半沢はすぐに電脳雑伎集団の平山社長に電話すると、平山は突慳貪(つっけんどん)な口調でその事実を認めた。対応の遅さは単なる口実に過ぎず、図らずも証券側に情報をリークした人物がいることを示していた。半沢はいった。「この借りは必ず返す。やられたら倍返しだ」。

 

人事部の横山(出向組)から半沢は銀行の人事部付きになるかもしれないことと、三木が銀行の証券営業部へ異動することについての意見を求められた。実質的には内示である。そして、三木は銀行へ戻った。十一月初旬の月曜日、渡真利からの電話で電脳に対する支援(1500億円)が承認されたらしいと聞かされた。広報室が明日記者会見を準備していることを知った半沢は、電脳が東京スパイラルの株式を買い始めるとみて部下の森山に命じて株価をモニターさせるが、翌日は大量に買いが入っている様子はまったくない。

 

しかし、渡真利から電脳が東京スパイラル株式の三割弱を市場外取引で買い占めたことを知らされた。三分の一以上の株式を買い取る場合は公開買い付けが必要になるからである。そして、年末までに残る二割強の株式を公開買い付けすることが発表され、東京スパイラルを傘下に収める目論見が明らかになった。

 

やがて、半沢はこの買収劇の裏に隠された真実を知ることとなるが、立ち塞がるさまざまな障害を社内外の多くの人物たちの協力を得て一つひとつ排除しながら、攻めの姿勢を貫いて核心に迫って行く。しかし、証券部門出身の三笠洋一郎副頭取の支持を受けた証券営業部(伊佐山泰二部長)は行内の根回しに注力して半沢の動きを封じ込め、半沢を絶対絶命に追い込むとともに、半沢自身の身分を窮地(きゅうち)に陥(陥れおとしい)れて行く。

 

そこで、前二作と同様、クライマックス・シーンで半沢が打って出たここ一番の大勝負は?

 

                          ☆

 

《読後感》 池井戸潤氏ならではの軽妙な文体は読みやすく、登場人物の近くにいるような錯覚を読者に持たせ、印象的な導入部とダイナミックなストーリー展開が読者を一気に惹(ひ)きつける。半沢直樹のユニークな考えと突飛な行動には現実感が乏しいことを分かっていながらも、読者は半沢が次にどんな手を打つかに期待してしまう。そして、「勧善懲悪」を絵に描いたような本小説の結末はテレビドラマ「水戸黄門」が持つ抗しがたい魅力に通底(つうてい)するものがあるようだ。

2015年2月20日 (金)

春の萌(きざ)し 「せたがや梅まつり」とスマート・スシ・ダイニング「ツマミグイ中目黒店」(最終回)

呉服枝垂(くれはしだ)れ
 
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途中まで上がって引き返した場所に出ました。
 
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階段脇にある楊貴妃(ようきひ)
 
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1時間余り前に入園した時にくらべると入り口付近に停められた自転車は驚くほどの数に増えていました。
 
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下北沢駅で京王井の頭線に乗り換え、渋谷駅で下車しました。スクランブル交差点における人の流れはいつ見ても見事で、まるで日本体育大学の「集団行動」のようです。
 
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東急の東横線へと向かいました。
 
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そして、東横線中目黒駅で下車
 
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中目黒駅から山手通り(東京都道317号環状六号線)沿いに北西方面に歩きました。ちなみに、環状線と言えば、環七と環八の名は良く聞きますが、環一から環六の名前を耳にすることがはありません。しかし、それらは存在するのです。一番内側の環状一号線は皇居を周回する内堀通り(都道401号)と大手町湯島線(都道403号)、環状二号線は同じく外堀通り(都道405号)など、環状三号線は外苑東通り(都道319号)など、環状四号線は外苑西通り(都道418号)など、環状五号は明治通り(都道306号)など、を指します。
 
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約300m(約4分) 歩いた目黒区青葉台一丁目にある「ツマミグイ中目黒店」が次の目的地。回転寿司チェーン最王手の「あきんど スシロー」が今年1月29日にオープンしたスマート・スシ・ダイニングです。面白いことに、2階も同業種と言える「いろは寿司」。
 
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この日は開店からちょうど2週間が経過して開店直後の混雑も収まったと考えたのです。外の列に並んで待っていると店のスタッフから30分待ちである旨を伝えられました。
 
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ランチタイム(午前11時〜午後4時)には4種類のランチメニューがあります。ちなみに、ディナータイムは午後4時以降です。
 
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実際は、ちょうど客が回転するタイミングだったようで、幸運にも15分後にはカフェバーのような店内の席に案内されました。あいにく、スタッフのカウンターに接した席のため、スタッフたちの移動が少し気になりましたが・・。
 
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スタッフが説明したタブレット端末を使ってオーダーを入力する仕組みは回転寿司と類似しています。
 
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私は白ワインの「シャルドネ バロン・フィリップ・ド・ロスチャイルド」(580円+税)と「にぎりとロールのランチプレート」(980円+税)を、同行者は「りんごジュース(長野産)」(480円+税)と「ロールすしのランチプレート」(980円+税)をオーダーしました。
 
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奥のツマミグイカウンターに並ぶ前菜の小皿(9種類、各300円)はブッフェスタイル(セルフサービス)でした。
 
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オーダーして約5分でドリンクが、そして約15分後(手間取りすぎ!)に料理(寿司プレート)が配膳されました。野菜サラダとシジミのみそ汁がセットになっています。
 
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女性に受けそうな寿司の盛り付けと彩りが鮮やかなサラダはビジュアル的に優れており、サラダとみそ汁の味にも力を入れていることが分かりました。しかし、ロールは味の主張がなく、しかも巻き方が緩いため箸で持つとばらけそうですし、握りも寿司も機械で握った舎利(しゃり)玉を使っていますからスシローと変わりありません。また、山葵(わさび)は好みに応じて自ら握り寿司に塗る必要があります。期間限定で提供されていた「国産生本鮪」が気に入って昨秋からスシローに通うようになった私にはカリフォルニアロール風の「ロールすし」がアメリカのスシバーのメニューのようで抵抗がありました。しかし、ボリュームはランチとして十分であり、料金はドリンクを入れても、一人1500円ほどとリーズナブルです。注目されている店らしく、午後1時半過ぎまで客足が途切れることはありませんでした。

 

<同行者のコメント> 梅の開花にはまだ早すぎたようですが、わが家の旦那様はピーク時期を外すのが常ですから、承知の上だったのでしょう。期待した梅のお菓子は期待外れでした。そして、ランチに立ち寄った「ツマミグイ」は意外な店選びだと驚きました。やはり、女性受けを狙った店のようですね。

2015年2月19日 (木)

春の萌(きざ)し 「せたがや梅まつり」とスマート・スシ・ダイニング「ツマミグイ中目黒店」(その3)

花屋の模擬店には春の草花と花木が多数並べられていて、花たちが「春よ、来い」と囁(ささや)いているようです。
 
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さらに公園の奥へ向かうと仮設舞台がありました。落語の寄席が開かれていますが、たどたどしい語り口はプロとは思えません。アナウンスがあって大学の落研部員たちであることを知りました。
 
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午前11時を過ぎましたので、次の目的地へ向かうため、公園の出口へと向かいました。
 
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八重寒紅
 
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八重野梅
 
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石碑の前に人だかりが出来ていました。
 
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飛梅(とびうめ)の名は菅原道真の故事に由来すると説明されています。
 
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石碑とともに柵で囲まれた紅白一対の梅は大宰府天満宮から寄贈されたものとのこと。
 
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石段を下ります。
 
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(続く)

2015年2月18日 (水)

春の萌(きざ)し 「せたがや梅まつり」とスマート・スシ・ダイニング「ツマミグイ中目黒店」(その2)

茶室である「星辰堂」と「日月庵」に到着しましたが、茶席はこの日には開催されず、筝曲演奏は3時間以上もあとの午後1時30分からの開演でした。
 
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茶室の前に咲く「八重の梅」
 
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右手に折れると俳人中村汀女(ていじょ)さんの詠んだ「外にも出よ ふるるばかりに 春の月」の句碑がありました。
 
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満月蝋梅(ろうばい)は満開です。
 
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広場では週末と祝日にオープンする模擬店が賑わっています。
 
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同行者は実行委員会売店でも何かを買い求めています。
 
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見せてもらうと、「梅大福」(160円)、「完熟梅のパイ包み」(210円)、「完熟梅のマドレーヌ」(210円)でした。大福はまずまず美味しいものでしたが、他の2つは微妙な風味でした。
 
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もう一つは埼玉県越生(おごせ)の「梅干し」
 
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私は羽根木双葉会の模擬店で身体が温まる甘酒(100円)を買いました。
 
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模擬店が並ぶ近くに「梅の由来」が説明されていました。
 
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柵で囲まれた大盃(おおさかづき)は早咲き品種である紅一重の抱え咲き大輪です。
 
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ガクが緑色の一重茶青(ひとえちゃせい)
 
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早咲きの「冬至(とうじ)」
 
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(続く)

2015年2月17日 (火)

春の萌(きざ)し 「せたがや梅まつり」とスマート・スシ・ダイニング「ツマミグイ中目黒店」(その1)

2月4日の立春から10日あまり経った昨日(2月16日)は初春の風物詩である「確定申告」の申請が始まった日です。例年通りに2月初旬から準備を始めました。これまでは電卓で計算して、申請用紙に手書きする方法をとってきましたが、今回はインターネットで利用できる国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を初めて利用しました。金額の計算には慣れていますが、申請用紙に毎年ほとんど同じ内容(もちろん金額は異なりますが)を手書きするのが面倒に感じられたのです。そこで、遅まきながらですが、「確定申告書等作成コーナー」を試すことにしたのです。

 

ガイダンスにしたがってステップバイステップで必要事項(費目と金額)を入力すれば申請書の作成が完了し、それをプリントアウトして最初のページに捺印すれば申請書が出来上がりました。このように作成方法は変更しましたが、提出については電子証明書やICカードリーダライタが必要なe-Taxではなく、これまでと同様に最寄りの税務署に持参しました。

 

昨年は初日の午前9時に税務署に到着したため駐車場に入るまで少し待たされましたので、今回は受付開始時間(午前8時30分)に間に合うように自宅を出て、10分ほど前に税務署に到着。待つことなく駐車場に車を停めることができました。しかし、税務署の入口前には長い行列ができていました。新生内容を相談したい人の列は40-50人、提出するだけの人の列も20人いじょうでした。午前8時30分になると人の列が税務署の中に入りはじめ、15分後には提出カウンターで受領印をもらうことができました。1カ月半後には還付金が貰えるそうです。余談はここまでにして本題に入ります。

 

                          ☆

 

先週の祭日(211日)に都内へ出かけました。自宅から最寄り駅へ向かう途中にある緑地に霜柱を見つけました。朝の冷え込みが厳しかったからでしょう。
 
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小田急小田原線の梅ヶ丘駅で下車しました。世田谷区の中央部にあり、豪徳寺のひとつ新宿寄りです。風雅な名前ですが、小田急の駅ができた時につけられた名称だそうです。
 
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「Y'S mart梅ヶ丘店」がある梅ヶ丘駅北口から北方向へ歩きました。
 
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訪れたのは世田谷梅祭りが開催されている羽根木公園。梅丘駅から梅丘駅北口前交差点を抜けて100m強(約2分)と至近です。
 
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訪れた目的はこの公園で2月7日(土)~3月1日(日)まで開催されている「せたがや梅まつり」です。羽根木公園は全体が小高い丘になっており、紅白梅合わせて60種以上、約650本が見られるそうです。
 
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ちなみに、羽根木公園の所在は世田谷区代田4丁目ですが、以前は北隣にある羽根木町の一部であったことで、この名前が付けられたようです。
 
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スタッフからもらったパンフレットには「羽根木の梅林の歴史」が説明されていました。『昭和42年5月笹が生い茂る丘(当時は根津山とか六次郎山と呼ばれていた)に初めて55本の梅が植えられ、以来、今日までに約10回の植樹が行われ、本数も約650本(紅梅約230本、白梅約420本)になりました。品種別には紅白合わせて60種以上あり、この中には、薄紅大輪の「見驚(けんきょう)」、花良し・実良し・香良しというので名付けられた「花香実(はなかみ)」、同じ木で花弁が紅白同居して一輪一輪違う「思いのまま」など珍しいものの他、実のなる「小梅・白加賀・真鶴」といった品種もあります』とあります。

 

羽根木公園の入り口付近にみごとな枝垂(しだ)れ梅の「呉服(くれは)枝垂」の大木がありますが、残念なことにまだ固い蕾(つぼみ)やっと綻(ほころ)び始めたところでした。
 
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正面に見える階段を上がりました。
 
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紅千鳥(べにちどり)・白加賀・長谷川絞り・雪月花
 
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同行者は催し物がある茶室の方へ行きたいと言いだしました。梅林の先に見える建物のようです。
 
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階段の下まで戻って、左手の散策路に入りました。八重寒紅・蓮久・藤牡丹・白加賀などが続きます。
   
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階段を少し上ったところで公園の入口方向を振り返りました。
 
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(続く)

2015年2月 3日 (火)

平野啓一郎著「ドーン」を読む

生命力の行方~変わりゆく世界と分人主義~」で紹介した平野啓一郎著「ドーン」(200979日講談社刊)を手に取りました。ソフトカバーの表紙には低い位置から刺し込む発光と青空を背景にシルエットとなった岩山が描かれています。

 

                           ☆

 

近未来を描いたこのSF小説は近未来(2030年代)の火星と地球を舞台にしており、主人公である宇宙飛行士の佐野明日人(あすと)は人類初の有人火星探査を成功させた英雄である。全七章から構成される本書の第一章「それぞれの物語」は、明日人がシリコンバレーにある日本人学校を訪問して、生徒たちに自分の経験談を話した時の様子を「NHKのドキュメンタリー番組」で見返すシーンで始まった。

 

交流会が終わって学校を出ようとした時、白髪混じりの栗毛の髪の女性が近づいてきて、手帳を開いサインを求めた。「ありがとう」と受け取った彼女は、唐突に、「本当のことを話してください」と言った。「今日あなたは、子供たちのまえで正直ではありませんでした」と続け、右手を差し出して短く握手した。

 

数日後、ヒューストンに戻った明日人が宇宙飛行士室長から掛けられ言葉、宇宙飛行士になった顛末、有人火星探索船「ドーン」(DAWN、夜明けあるいは兆しの意)に乗って火星へ飛行する時に読んだ「不思議の国へのアリス」のストーリー、些細な今日の出来事など、妻の今日子との会話が続く。彼女が去ってほどなく、今日人は2033116日の火星到着のビデオを見始めた。

 

ヒューストンに新しく建ったホテルのオープニング・パーティにゲストとして招かれた今日人は、参加者たちの会話に疲れて帰ろうとした時、スボンサー企業であるデヴォン社CEOのカーボン・タールに声を掛けられた。幾人かへ今日人を紹介した後、自社の製薬部に顧問としてくるように誘う。そして、「宇宙で何があったのかについては何も言う必要はない」と付け加えた。

 

有人火星探査船「ドーン」船長のメアリー・ウイルソンと操縦士のアレキサンダー・F・グロスはNASAの広報活動の一環として企画されたCNNの公開収録番組では事前に確認済みの質問を一通り終えたところで司会者が今回のミッションが有人である必然性に対して疑問を呈する声が出発前からかなりあったとして船長メアリーの考えを質した。司会者は次々に辛辣な質問を繰り返すが、メアリーは政治的な質問にも論理的かつ冷静に対応して司会者の隠された意図を躱(かわ)した。

 

以上、3(30頁余)の導入部を経て、大統領選挙における野党民主党の選対本部の活動や与党共和党候補についての記述、防犯カメラと監視カメラを使って個人を特定して映像で行動を監視できる「散映」"divisuals"と容易に変形させることができる「可塑(かそ)整形」、主人公である「ドーン」に搭乗した宇宙飛行士である外科医の佐野明日人(あすと)の現状など脈絡が感じられない話題が第一章に続いた。

 

第二章「惑星と惑う人々」では火星へ向かう宇宙船「ドーン」での人間模様と出来事が明日人を軸に語られるが、コンピュータ担当の乗組員「ノノ・ワシントン」が精神に異常をきたして錯乱状態になったことで、一気に緊迫した状況が生まれた。

 

読者の気を逸らすように時間が現在に戻り、軍事産業のアストン社から宇宙医学に関する医療・製薬部の部長待遇(年俸300万ドル)で入社するように誘われた明日人に話題が移った。明日人は妻の今日子とメキシコ湾の入江であるクリアレイク湖畔のホテルへ夕食に出掛けた。明日人は、あまり深い考えもなく、家族三人で宮崎に行った時のことを話した。「どうして、今、そんな話をするの?」と下を向いたので、明日人は言葉を失った。9年前の東京大震災で最愛の一人息子を亡くしていたからである。

 

今日子はやや唐突に、昼間テレビで視た大統領選の二度目の討論会の話をした。共和党のローレン・キッチンズは司会者から投げかけられた倫理観についての質問の中で、分人主義がもたらした、社会の複雑さを徹底的に批判し、信頼に基づく深い人間関係を再建すべきだと強調して、民主党のグレイソン・ネイラーは民主党に極端なディヴィジュアリズムのレッテルを貼ろうとする戦略に抵抗した上で、自論を展開したという。宇宙医学を学んだ明日人は分人主義を今日子に説明しながら、自分と今日子の関係に当てはめて考えるがそこへは踏み込めない。

 

2036年に地球へ帰還して英雄になった主人公の佐野明日人はある大きな陰謀に巻き込まれて行くことになるが、火星への往復(ストレスの高い火星探査船「ドーン」の中で起きていた)と火星の滞在期間に費やされた2年半や、アメリカの大統領選の裏側(ネガティブキャンペーン)などが徐々に明らかにされて行きました。

 

                           ☆

 

《読後感》 導入部で提示された火星探査という近未来的な舞台設定が続くことを予想しながら読み始めましたが、そのほとんどが回想形式であり、しかもその記述が断片的であることが意外です。有人火星探査を背景にしながら実はアメリカの大統領選を縦糸とし、分人主義という耳慣れない個人が複数の分人を持つという概念を横糸にして紡(つむ)いだサスペンス小説でした。ストーリー展開と文章が難解であるため読者に疲労感を与えるため、じっくり読み進んだものの、何度も挫折しそうになりました。

 

しかも、緩頰(かんきょう) : 顔色を和らげること、痙笑(けいしょう):ひきつり笑、軽捷(けいしょう):身軽ですばやいこと、微睡(まどろ)んで:少しの間うとうとして、胡乱(うろん):確かでないこと、夥(おびただ)しい:非常に多い、などの難しい言葉が多く使われていて、その意味をいちいち確認する必要に迫られたのです。

 

500頁の本書を最後まで何とか読み終えると、佐野明日人・今日子夫妻が様々な困難を乗り越えて二人の関係が創り出したそれぞれの分人の大切さを確認するエンディングに作者の意図が有ったことが理解できました。つまり、分人主義を理解する上で手助けになる良質な小説ですから、この考えに興味を持たれた方には一読されることをお薦めします。

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