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2015年7月19日 (日)

歴史に学ぶ大手企業の盛衰

最近、日本企業の低迷や不祥事が目に付きます。国家の興亡と企業の盛衰にアナロジー(類似性)を求めるつもりはありませんが、企業の場合も国家と同様、外部環境によって衰退すると言うよりも内在する問題点が企業を弱体化させることが多いように思われます。深刻な問題がニュースで報道された企業では、経営幹部間の確執や、成功体験に囚(とら)われた環境の変化を無視した(合理性に欠ける)経営戦略、あるいは一部経営者が独走するコーポレート・ガバナンス(企業統治)の欠如や不十分なコンプライアンス(法令順守)意識などがその主因となっています。注目される事例には、大手電機企業のT社(経営者間の勢力争いとコンプライアンス不在)・SN社(メーカーの原点を忘れて収益改善だけを優先させた経営)・SH社(成功体験に溺れた過大設備投資で破たんの瀬戸際へ)、ゴム業界のTGK社(耐震構造用ゴム製品の品質改ざんと隠ぺい)、航空業界のSM社(過大投資計画による経営破たん)、ファストフードのM社(顧客の満足よりも収益性を優先)、大手家具販売店のO社(お家騒動)を挙(あ)げることができます。
 
                          ☆☆☆
 
 

本題に入る前に、国家の興亡(古代から近世までのヨーロッパにおける主要国とイスラム帝国)をまとめた2週間前の記事、「古代ギリシャ文明とヨーロッパ文明」のポイントを振り返ることにします。カリスマ性のある指導者が国家を起こし、その後継者たちが国の領土を拡大し、さらなる繁栄に導くことはいずれの国家にも共通します。そして、成熟した国家が次第に内部に問題を抱えるようになって弱体化行くのですが、国家のリーダーだけでなく国民(市民)も自国だけは磐石(ばんじゃく)な存在であると信じて疑いません。不幸にも世襲あるいは国内の勢力争いで資質に乏しいリーダーが選ばれるようになると、国内に軋轢(あつれき)と混乱が生じ、弱体化は着実に進行するのです。そして、人々がこれに気づいた時には手の施(ほどこ)しようがなくなっており、国家は自壊(じかい)の道をひた走ることになります。

 

表面的には革命あるいは外敵の侵入で国家が滅びたように見えますが、実体は自ら崩壊したと見る方が正しいのです。10年ほど前に読んだ中西輝政氏の著作「なぜ国家は衰亡するのか」(PHP新書1998年刊)に詳しく解説されています。しかし、これはローマ帝国やイスラム帝国のような巨大国家だけではありません。小国であっても同様なのです。さらに言えば、より身近な存在である企業についても共通する問題であり、家族についても似た状況が起こり得るのです。

 

先の記事「古代ギリシャ文明とヨーロッパ文明」でも触れていますが、地球上に最初に生まれた4つの文明(四大文明)であるメソポタミア・エジプト・インダス・黄河長江流域(中国)には共通する条件があります。それは大きな川の存在とそこで行われた農耕の発達があります。人を安定的に養うことができる農産物の蓄積が可能となったのです。そして、テクノクラート(各分野の専門家)が誕生し、文字を発明したことで知識の蓄積と継承が可能となったのです。

 

四大文明のうち黄河長江流域を除く3つの文明が滅びた原因は、農耕の発展や過剰な牧畜によって、森林の再生産が不可能になり、エネルギー資源が枯渇(こかつ)したことにあり、黄河長江流域だけは「石炭」の発見と普及によって存続し得たとの見方が有力です。つまり、文明はエネルギー源の喪失(そうしつ)で致命的なダメージを受けるのです。ちなみに、黄河長江流域の文明を含めないで世界三代文明、あるいはインダスと黄河長江流域の二つを除いたメソポタミアとエジプトの二つを古代文明とする考えが欧米では主流のようです。

 

四大文明に続いて誕生した文明は、古代ギリシャ文明、メキシコと中央アメリカのメソアメリカ文明(紀元前後から15世紀前半のマヤ・テオティワカン・アステカなど)、アンデス文明(紀元前後から16世紀前半)などを挙げることができますが、それらの詳細は本題に必須ではないので省略します。 

 

閑話休題。「栄枯盛衰」あるいは「盛者必衰 」をことさら強調することが本記事の目的ではありません。仔細(しさい)に考察すると、興亡を繰り返した国家や企業は、画一的なパターンではなく、それぞれに固有な特徴があるのです。国家の盛衰を考えるうえで、まず長期間存続した国家をピックアップしてみましょう。現代とは時間軸の尺度が異なり、記録に乏しい古代国家は別にして、この2000年間で最も長寿命を誇る国家を長寿の順に並べてみます。 

 

トップは何と言っても東ローマ帝国(395年から1453年までの1058年間)、次いでエチオピアのアクスム王朝(100年ころから940年ころまで約800年間続いたとみられる)とエチオピア帝国(1270年から1975年まで705年間)、1299年に建国されて1922年まで続いたオスマン帝国が623年間、韓国の李朝(末期の大韓帝国を含む李氏朝鮮)は1392年から1910年の518年間、アッバース朝は750年から1258年まで約500年間続きました。

 

これら6つの国家のうち、東ローマ帝国・オスマン帝国・アッバース朝の3国は多様な文化と人種を巧みに取り込むことで国家としてのエネルギーを持続させましたが、李朝は中国の王朝(明国と清国)から冊封(さくほう、主従関係の契約)を受けて朝貢国(ちょうけんこく)となることで安定した外交関係を維持しました。国内では儒教を重んじ(仏教を排斥)、固定的な社会階層を堅持することで、変化を極力抑える体制を維持しました。アクスム王朝は、東ローマ帝国などとの交易で栄え、勃興したイスラム諸国との関係も良好に保ちました。そして、アクスム王朝が新興勢力滅ぼされた後、同王朝の血筋を受け継ぐと称する人物がエチオピア帝国を樹立したのです。 

 

ちなみに、史上最大の領土を有したとされるモンゴル帝国は、チンギス・ハン(ジンギス・カン)が1206年に創設した遊牧国家で、1271年に緩やかな連邦国化し、1368年にモンゴル高原に撤退した北元が1634年に滅亡するまで存続しました。つまり、中央集権国家としてはわずか65年でしたが、モンゴル帝国は428年間続いたとみることができます。

 

そして、日本はどうでしょう。神話の世界では神武天皇が即位したとされる紀元前660年から現在まで2675年間続いている(いわゆる皇紀の考え)、3世紀から始まる連合王権であるヤマト王権の成立、あるいは歴史的に実在性が高いと考えられる継体天皇(507年即位)が大和に入った526年以降とする考えがあります。しかし、朝廷の力は時代とともに大きく変化し、天皇が実権を持っていた時代は限られることを考慮する必要があります。したがい、ここで何年間と特定することは避けたいと思います。

 

参考として天皇の実権が弱まった時期を挙(あげ)げると、9世紀から10世紀かけて藤原氏(藤原北家)が行った摂関(せっかん)政治の存在、鎌倉時代には天皇政権と武家政権の二重政権体制になり、それに続く室町幕府が成立すると天皇は南北朝に分裂して(後に統一されるものの)実権を失い、戦国時代の群雄割拠状態を経て成立した徳川幕府(1603年から1867年までの264年間存続)が明治政府が樹立されるまで政治の実権を持ち続けたことです。さらに、太平洋戦争に負けた直後の1945年からサンフランシスコ講和条約が発効した1952年までの7年間に亘(わた)って連合国に占領され、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって統治された歴史も存在します。
 
                         ☆☆
 
 

それでは、企業についてはどうでしょうか。1世紀以上にわたって存続している長寿企業に共通する特徴を「The Living Company」(邦題は企業生命力、日経BP社2002年刊)の中で書いたアーリー・デ・グース氏は、創業100~700年の欧米および日本の企業27社について調査した結果、数百年続く長寿の企業には次のような特徴があると指摘しました。

 

1)環境に敏感である

2)強い結束力と独自性がある

3)寛大である(権力の分散化)

4)資金調達で保守的である

 

さらに、これらを様々な角度から考察し、「利益追求のみに走ると、企業の寿命は短くなる」と結論づけています。アーリー・デ・グース氏はまた、「企業は生命」であり、「強い結束力」の重要性を強調。人と人との強い結束力・人と人との信頼関係(つまり企業と従業員の結びつきと信頼関係)です。これらに必要とされる要件は長期雇用(長期にわたる勤続)が相互の信頼を築き上げるというのです。逆に、競争社会になれば、優秀で有能な社員ほど先に企業を見捨てると断じました。

 

これは大規模なリストラ(人員削減が中心で事業再構築は不十分)を断行した企業の多くが業績の低迷あるいは企業そのものが消滅したことを見れば明らかです。以前の記事で紹介した米沢藩の財政を再建した第9代藩主上杉鷹山は250年も前に上記の対応を実践していたことには驚かされます。

 

ちなみに、日本企業で最も長寿命の企業は578年に創業された社寺建築の「金剛組」で、今年で何と1437周年を迎える世界でも最古とされる老舗企業です。これは別格としても、日本には創業300年以上の企業が430社余り、100年以上の歴史を持つ企業が2万社近くもあるそうです。

 

話を現在に戻します。日本国内において勝ち組であるトヨタ自動車、セブンイレブン、ユニクロ、ニトリなどの企業については改めて触れる必要はないでしょう。私が関心を持つ自動車メーカーでは、別格のトヨタを除くと、ユニークな経営戦略を実践する富士重工(米国市場で成功、同業他社より収益性が高い)、マツダ(ロードスターなどユニークなコンセプトの車とクリーンディーゼル・エンジン技術が評価されている)、スズキ(高い研究開発費率と海外進出で成果、国内は過当競争の影響を受けている)は善戦しているようです。 

 

一方、苦戦しているのは本田技研工業と日産自動車の2社です。(注; 国内の軽自動車市場が低迷して業績が悪化したダイハツ工業および2000年と2004年に大規模なリコール隠しが発覚して現在も業績が低迷する三菱自動車と三菱ふそうバス・トラックはあえて取り上げません) 消費税の増税前の駆け込みで軽自動車の販売台数が急増した一昨年度とは様変わりの状況で、軽自動車をスズキのOEM(受託製造)に頼る日産は国内シェアを大きく落としました。苦戦するこれらの企業を分析すれば、反面教師として、企業経営に何が必要なのかがおのずと見えてくると思われます。

 

ホンダは、繰り返される主力車種のリコールに加え、タカタ製エアバッグの大量リコールと米国での事故無届け問題などが続出して、利益は確保しているものの危機的な経営状況にあります。その原因は2009年のリーマンショク後の全社的なリストラ(開発部門の本田技術研究所を含む人員削減)が大きく影響しているといわれます。これによってホンダは黒字経営を確保しましたが、創業者である本田宗一郎氏が開発部門を本体とは別会社化した目的を忘れてしまったようです。そして、ホンダらしさを喪失(そうしつ)したホンダはその咎(とが)めを現在受けているといえます。マクドナルドやソニーの失敗と共通する本質を忘れた利益至上主義が災いした企業の事例に分類されるでしょう。

 

そして日産自動車は、次世代自動車の本命と位置づける電気自動車まだまだ発展途上の技術)の販売が不振であることの穴埋めとして、他社の周回遅れでハイブリッド車(現在は高級FR車のみに独自の1モーター2クラッチ方式を採用)を2016年度末までに15車種発売すると発表しました。市場よりもメーカーの都合論理)を優先したツケが回ってきたようです。経営の効率性が他社と比較して低いことも懸念材料です。昨年、ゴーン社長は経営不振の責任を取らせる形で日本人COOを更迭(こうてつ)しましたが、最近になって腹心の外国人幹部3名が相次いでライバル企業に流出してしまいました。昨日、自身の後継者を日本人から選ぶと発言したことは、 実質的な親会社であるルノーの会長兼CEOも務めるゴーン氏の日産自動車における求心力が低下したことを窺(うかが)わせます。カリスマ経営者の負の側面が顕在化(けんざいか)したのかもしれません。
 
                         ☆
   

余談になりますが、個人的な興味から自動車関連の技術にも触れたいと思います。街中の低速走行やアップダウンの多い道路の走行時でも良好な性能と燃費を両立できるハイブリッド車に傾注(けいちゅう)する日本の自動車メーカーの課題は、ヨーロッパの乗用車市場で主流(シェア50%以上)になっているクリーン・ディーゼルエンジンのダウンサイジング(小排気量化)とターボチャージャー(ツインターボ)技術で大きく後れをとっていることでしょう。国内市場ではSKYACTIVE-Dエンジンにトルク特性を改善するシーケンシャルTurboを搭載したマツダ車が60%以上のシェアを持っていますが、今年に入ってメルセデスベンツ・BMW・ボルボ・MINI・シトロエン・フォルクスワーゲンなどの大手ヨーロッパ自動車メーカーが挙(こぞ)って日本市場にクリーン・ディーゼル車を投入(あるいは投入予定を発表)しています。

 

ターボチャージャー付のクリーン・ディーゼルエンジンは低速での高トルク特性と高速での高出力性能を両立できる理想的なエンジン(特に高速・長距離運転において)ですが、それでもハイブリッド車と同様にコストの課題があるようです。ダウンサイジングされたクリーン・ディーゼルエンジンでも、より高い圧縮比に耐えるようにガソリンエンジンより堅牢(けんろう)に作られているため、ディーゼル車はガソリン車に比べて車重が重くなることと、高度な燃料噴射装置が必要であるため、構成が複雑なハイブリッド車(節約できるガソリンの金額よりハイブリッド機能のコストの方が高額であるという的外れの指摘がある)と同様に通常のガソリン車に比べてコストアップ(30-40%)することです。量産化によるさらなるコストダウンに期待したいところです。 

 

コスト面だけではなく、ディーゼルエンジンが有する独特のエンジン音と排気ガスの匂(にお)いも、かなり改善はされていますが、人によって気になるかもしれません。また、CO2の排出量はガソリン車よりも少ないのですが、逆に微粒子状物質と窒素酸化物を排出することは弱点と言えるでしょう。ちなみに、ディーゼルエンジンはガソリンよりも安価な軽油を使うから経済的であるという人がいますが、現在は税制上(軽油取引税は1リットル当たり32.1円、ガソリン税は53.8円、いずれも石油税と消費税が別途掛かる)の優遇措置で安くなっているだけですから、軽油の需要が増えるとこのメリットがどうなるかは分かりません。ちなみに、現在のガソリン価格の平均は1リットル当たり約135円、同じく軽油は約110円で、税金の多寡(たか)に因(よ)るさであることが分かります。

 

本記事のテーマに興味を持たれた方は、先述の「国家はなぜ衰亡するのか」と「企業生命力」、そして4年前に紹介した「ビジョナリーカンパニー」(ジェームス・C・コリンズ著)をお読みになることをお勧めします。

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