SNSの功罪とリスク対策
ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS、コミュニティ型公開・閲覧サービス)が2000年代前半に日本で登場したことにより、個人が情報を発信・受信することがきわめて容易になりました。それまでの経緯とその後の変化を簡単に振り返ってみましょう。20年ほど前に誰もがインターネットを利用できるようになってから、インタラクティブ(相互方向性)に情報のやり取りが可能になりました。ホームページから始まり、電子掲示板で会話するサービスが加わり、ブログ(英名:Weblog)と呼ばれるネットワーク上の日記として情報を次々と投稿・掲載するサービスが誕生しました。それに続いて、相手をある程度限定できるSNSが爆発的に普及し、現在は6割程度の人がブログを、8割以上の人がSNSを利用していると言われます。
スマホが急増したことがSNSの普及を加速したことは間違いないでしょう。そして、SNSによって疎遠(そえん)になっていた旧友と連絡が取れたり、自分が企画したブランへの賛同者を募(つの)ったりと、従来はほとんど不可能であった不特定多数へのアクセスが日常的に行えるようになりました。また送る内容も単純なテキストだけでなく、写真や動画、位置情報なども含めて情報発信できるようになり、それに対して不特定の人がリアクションを即座に返すことも可能になりました。
国内のSNSとしては、Facebook・mixi・Twitter・LINEなど多彩なサービスがあり、スマホのユーザーでひとつも利用していない人はほとんどいないでしょう。しかし、かく言う私はSNSよりも10年前に始めたブログ・サービスを主に利用しています。実は、TwitterとLINEのアカウントは持っていますが、前者はブログとの連携目的だけに留め、後者は休止中です。この理由は後で述べたいと思います。
このように便利なSNSには影の部分(リスク)も存在することを理解しておく必要があるでしょう。影とは何でしょうか。その一番目に挙げられることは利用者の匿名性(とくめいせい、身元を明かさないこと)です。この特性により、配慮に欠けた一方的な書き込みや罵倒(ばとう)・侮辱(ぶじょく)する言葉を使って特定の人物やグループを攻撃する事例は後を絶ちません。意図的にデマ流すことはもっての外(ほか)ですが、根拠がはっきりしない情報を拡散させる行為も慎(つつし)むべきです。
二つ目は、リアルタイム(即時)性が高く、かつ保存性も高いという性質です。これらは便利な特性ですが、時には悪く働くことがあるのです。一時的な思い込みや感情に基づいた書き込みであっても、一度文字にしてしまうと会話以上に確たる存在(言霊、ことだま)となり、時間が経過してもそのままネットワーク上に残り、取り消すことは事実上不可能なのです。つまり、やり直しはできないということです。その書き込みを不快に思った人はたとえそれが誤解であったとしても過激な反応し、同調者が登場すると波紋が急速に広がるトラブルがしばしば起きています。
三つ目はSNS依存症。テレビゲームやスマホゲームと同様、SNSに嵌(はま)ると、片時もSNSから離れられなくなる強迫神経症を罹患(りかん)する恐れがあることです。最初の2つの陰とは違ってSNSだけに固有の問題というわけではありませんから、ここでは詳しく説明しません。
これら3つのリスク(負の側面)が存在するため、SNSにおいては他のメディアと同様に(あるいはそれ以上に)メディア・リテラシー(使う上に必要とされる能力)が必要です。SNSでは、例え特定の相手に向けて発信したメッセージであっても、「すべての人に見られている」「自分が言われて嫌なことは発信しない」「自分あるいは他人の個人情報は書かない」、この3つを認識して守ることが最低限の必要条件です。
これらに加え、人の感情についても十分留意する必要があるでしょう。人は他人が自分よりも恵まれている、あるいは優れていることを知らされると、妬(ねた)み嫉(そね)み、つまり嫉妬(しっと)の感情が生まれやすいからです。この視点から、ブログやFacebookなどのプロフィールを実際の自分よりよく見せて書くのは「百害あって一利なし」です。そして、記事(または本文)を書く時にも、自慢話は極力控(ひか)えるべきだと私は考えます。
次いで、自らリスクを生じさせないようにすることも重要です。例えば、リアルタイム性が高いTwitterでは自分の居場所を特定できる情報や近い将来の行動予定を呟(つぶや)かないことです。他人についても同様に書くことは慎むべきでしょう。意外に気づかないリスクが写真に記録されている位置情報(Exif情報に含まれる)です。これを事前に削除しておかないと、自宅や勤務先などの場所や自らの行動パターンが第三者によって特定されてしまいます。そして、自分自身や家族、友人、あるいは見知らぬ人が写り込んだ写真(顔や特徴がよく分かるもの)も大きなリスク要因になります。
さて、ここから本記事のポイントです。SNSは電話による会話や電子メールとは本質的に異なるものであることを理解する必要があります。SNSは一人対一人(あるいは一人対特定の少数)のコミュニケーション(会話)ではなく、N対Nのプレゼンテーション(情報発信)であり、アバター(自分の分身)が不特定多数の人に向けて情報発信するメディアなのです。ですから、予期しない反応が返ってくることも想定しておかなければなりません。つまり、事前に内容を十分吟味してからネットに上げるべきなのです。
Facebook(2014年11月現在で国内に2400万ユーザー)やLINE(2014年7月現在で国内に5400万ユーザー)を使う必要性をまったく感じない私はブログを使った1対N型の情報発信(国内に約2000万のユーザーがいるTwitterを併用)と電子メール、身近な相手とは携帯電話の1対1型のSMS(ショートメールサービス)を使い分けています。つまり、情報発信と会話(コミュニケーション)を明確に分けているのです。これによって、便利な情報発信ツールであるSNSはあくまでもその手段であると位置づけ、SNSを使うこと自体を目的化させないようにしています。
依存症に陥(おちい)る人の多くはSNSを通じて他人と繋(つな)がっている安心感、あるいはフォロアー数や他者からもらう「いいね!」(Like)の件数の多さでもって自己満足しているようです。また、LINEの「既読通知機能」も依存症を誘発するトリガーになる可能性があると思われます。インターネットが普及し始めた頃には電子メールが相手に届かないことがよくあったため、「既読通知」の機能は有用でしたが、現在はその恐れはほぼ無くなりましたから、受信者に返信を催促(さいそく)していると受け取られる「既読通知」は使わないことにすれば人間関係を損なうリスクを減らせるでしょう。
最後に、SNSのリスクから自分を守る技術的な手法に触れたいと思います。私はスパムメールに対する受信拒否およびブログの胡散臭(うさんくさ)いビューアーやビジネス関係者からのコメントに対するアクセス拒否も適宜設定して、リスクを生じさせないよう注意しています。そして、SNSの使用は極力控(ひか)えています。すなわち、上述したように、ネットワーク上では自らを不必要に他人の目に晒(さら)さないようにしているのです。あえて詳細を説明しませんが、私はiPadを使って複数のiPhoneによる通信をすべてモニター(一方向の情報共有)できるようにしています。もし、第三者にこれを悪用されると大変危険な機能ですが・・。
つまり、各個人が確実に識別されるリアル空間(現実の世界)と情報主体のバーチャル空間(匿名性を持つネットの世界)の間に適度な大きさの結界(けっかい)を設けて両者を混同させないことが、SNSを便利なツールとして使いながらリスクを減らす有効な防衛策である考えています。本記事が少しでも参考になれば幸いです。
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