« プリウスはやはり燃費が良い! | トップページ | ”Windows 10”について今思うこと »

2015年11月19日 (木)

池井戸潤著「下町ロケット」を読む

池井戸潤氏の小説をほぼ時系列(発行順)に読み進みながらその都度当ブログで紹介してきましたが、今回は8作品目として「下町ロケット」を取り上げます。2010年に小学館から刊行されたハードカバー本(全407頁、1700円+税)で池井戸潤氏の代表作品と言えます。本作品は2011年に第145回直木三十五(なおきさんじゅうご)賞を受賞しました。ちなみに、2013年には小学館文庫版(720円+税)も出版されています。本の表紙には町工場の構内とその後方に打ち上げられたロケットが描かれています。無縁と思われる2つの言葉を組み合わせてインパクトがあるタイトル「下町ロケット」を持つ本書はどんな話が展開されるのかと期待を持って表紙を捲(めく)りました。

 

                             ☆

 

プロローグ

 

佃航平(つくだこうへい)は種子島宇宙センターの発射管制塔内でモニター画面に表示される射点の様子と画面右端に出ている風速表示で相変わらず強い風が吹いていることを確認した。カウントダウンが進み、新型エンジン「セイレーン」は『メイン・エンジン・スタート』のアナウンスとともに轟音(ごうおん)と炎を吹き出すとロケットは発射台を飛び出し、上空へと小さくなっていくが、追尾レーダーが送ってくる飛翔経路図に表示される「セイレーン」の軌道が、予定軌道からズレはじめた。第二エンジンが点火されるとロケットはほとんど水平飛行をはじめた。ミッションマネージャーが『シークエンス緊急停止せよ』と命じると、モニター画面のカウントが止まった。

 

第一章 カウントダウン

 

亡くなった父親の跡を継いで精密機械製造業を営む町工場、佃製作所の社長となって7年、佃航平は以前の研究部門とはまったく異なる世界で経営者として奮闘している。この日も呼び出しを受けた一部上場企業で主要取引先の京浜マシナリーからエンジン部品の納入を来月末で打ち切りたいと通告された。来月末から内製化する方針に変更したのが理由だという。年間10億円を下らない京浜マシナリー向けの取引は佃製作所の年間売上高の10%以上を占めている。もし、これを失うと赤字に陥(おちい)ることは明らかである。メインバンクの白水銀行池上支店に運転資金3億円の融資を申し入れるが、研究開発投資が多すぎることと、それが売り上げに繋(つな)がっていないとして方針の変更を迫られてしまう。

 

帰社した佃を待っていたのはナカシマ工業が特許侵害で訴えたという東京地方裁判所からの書状である。佃製作所の製品の中で稼ぎ頭(かせぎがしら)とも言える小型エンジン「ステラ」はライバル企業のナカシマ工業にとっては目の上のタンコブといった存在である。「ステラ」を真似た製品を持つ大手企業のナカシマ工業は特許侵害訴訟で佃製作所の評判を落とし、かつ裁判の長期化で兵糧攻(ひょうろうぜ)めにしようとしていることは明らかであった。この話をナカシマ工業の新聞発表で知った白水銀行が融資話を断ったため、佃は定期預金を崩(くず)して当面を凌(しの)ぐことにした。

 

第一回口頭弁論は特許に詳しいナカシマ工業の弁護士のペースで進んだ。これに危機感を覚えた佃はこの分野に詳しい弁護士に依頼することを決断する。その折、ナカシマ工業から訴えられたことを知った別れた妻から特許関係に詳しい弁護士を紹介してもいいと言われたことは渡しに舟であった。新しい弁護士は佃の期待以上の切れ者でナカシマ工業の真の目的を見抜いていた。そして、佃製作所の特許に穴があるため勝訴は容易ではないので、ナカシマ工業を別の特許侵害で逆提訴することを提案した。そして、既存の保有特許を補強(優先権主張出願)することと、銀行以外の金融機関を探すように助言した。

 

第ニ章 迷走スターダスト計画

 

東京、大手町にある帝国重工の本社で宇宙航空部の財前部長は自社が出願した大型水素エンジンの新技術が、すでに同じ内容の特許が存在するため、出願が認められなかったことを知らされた。特許を3ヶ月前に取得した会社は株式会社佃製作所で、帝国重工からすれば吹けば飛ぶような規模の会社である。帝国重工では社長肝(きも)いりで進行中の「スターダスト計画」において新型エンジン開発はその目玉であり、大型ロケットの打ち上げで国際競争をリードするための絶対条件であった。プロジェクトのスケジュール変更は絶対に認められないため、財前は佃製作所からその特許を買うことを決断する。佃製作所は訴訟に巻き込まれて窮地(きゅうち)にあるため、安く買い叩(たた)けるとの思惑(おもわく、しわく)もある。

 

佃製作所に帝国重工の財前部長が訪れた。佃製作所の特許を譲(ゆず)って欲しいと申し出た財前に向かって佃は特許を売るつもりはなく、特許の使用料を払ってくれればいいと応じた。突然、財前は『20億円で、いかがでしょう』といった。20億円あれば、重工が欲しいという水素エンジンのバブルシステムの特許を含め、佃製作所の研究部門が作ってきた借金をすべて返済して余りあるのだ。新しい技術への強いこだわりを持つ佃に向かって財前は『おいくらでしたら売っていただけますか』というが、佃は『金額の多少ではない』と断る。財前は社内で揉(も)んで欲しいと言い残して引き上げた。

 

佃製作所では部課長以上の30余名が出席して緊急会議が開かれた。そこではさまざまな意見が出されて収拾(しゅうしゅう)がつかない。佃は社員に向かって『いま帝国重工の提案を飲んだらウチの負けだ』と言い切った。返事をしたいという佃のもとに駆(か)けつけてきた財前は、佃が発した『社内で検討した結果、売却は見送ることにしました』との思い掛けない回答に驚く。食いさがる財前に佃は『ウチの資金繰りのことを随分と心配されていますが、本当に心配しなきゃならないのは、御社のプロジェクトのほうじゃないんですか』と取り付く島がない。しかし、財前は、佃製作所が早晩行き詰まって民事再生になるから、その時に出番が来ると踏んでいる。

 

佃製作所が逆提訴した裁判が始まると予想外の展開になった。ナカシマ工業による審議引き伸ばしに悪い心象を持った裁判官が和解を勧告、しかも佃製作所の言い分をほぼ全面的に認めた内容(ナカシマ工業による56億円の支払い)であった。ナカシマ工業の弁護士も和解を受けることを勧める。そして、ナカシマ工業にはさらに思いもよらない事態が発生する。東京経済新聞の連載特集記事だ。「仁義なき企業戦略」としてナカシマ工業の法廷戦略が槍玉(やり)に挙がっている。これを受けてさらなる信用の失墜を恐れたナカシマ工業の役員会は和解の受け入れと最初の訴訟を中止することを決めた。

 

このため、財前は佃製作所から特許を買い取ることを断念し、佃の主張する特許使用契約を締結(ていけつ)することにした。しかし、たとえ佃と合意しても、キーテクノロジー内製化にこだわる帝国重工の藤間社長の方針と真っ向からぶつかることは避けられない。

 

第三章 下町ドリーム

 

佃製作所が勝訴したことを新聞発表で知った白水銀行の支店長が佃製作所を訪ねてきた。和解金の56億円が目当てである。しかし、佃は和解金が支払われた後は白水銀行との取引を解消すると通告した。そして、帝国重工の財前も佃を訪ねてきた。前回の無礼を詫(わ)びて、佃製作所の特許を使用したいと申し出た。佃製作所側の反発に対して財前は『御社の技術でウチのロケットを飛ばさせてください』との決め言葉で話を締(し)めくくった。しかし、佃製作所の社内はさまざまな意見が飛び出して佃の胸は複雑な思いで一杯になる。

 

佃は帝国重工の提案を断ってエンジン部品を自社で製作する方針を決めた。『仕事というのはカネじゃないと思う』と部下たちに言った佃は財前に電話をかけて帝国重工に部品供給を提案する。佃の提案に戸惑った財前は持てる忍耐力を総動員して、『お申し出は検討させていただきますが、いま一度、弊社からの提案も再検討していただけませんか』とつなぐが、佃は『バブルシステム関連のユニットを外注できるかどうか、御社内で検討してみてくれないか』と譲(ゆず)らない。

 

3日後に財前は佃にアポを入れた。訪れた財前に佃は『社内、見ますか』と意外なことを言う。相手に対する礼儀だと申し出を受け入れた財前は佃製作所の社内を隈(くま)なく案内されるが、社内に良い雰囲気を感じるとともに、過剰ともいえるクリーンルームや若い工員の手作業を見てその技術水準の高さに感銘(かんめい)する。研究部門では研究開発に情熱を傾ける佃の信念を感じさせられた。結局、財前は佃の部品供給を断ることができなかった。帰社した財前は上司の水原本部長に部品の受け入れを検討したいと報告する。部品の内製化を推進する藤間社長のスタンスをよく知る水原は慎重な態度を変えない。

 

そんな折、企業投資や買収案件などを手掛けるアメリカ資本のマトリックス・パートナーズから佃製作所を買収したい大手企業があることを佃は知らされた。

 

第四章 揺れる心

 

かつての同僚である三上(現在は大学教授)から久しぶりに飲まないかとの誘いがあって神宮外苑近くのイタリアンに佃はいた。最近の佃製作所に関する出来事に触れた三上は改まった口調で『大学に戻らないか』と佃に言う。来年退官するロケット分野の権威である教授の後任に佃を推薦するというのだ。マトリックスに佃製作所を紹介したのは三上であった。『少し時間をくれ』と佃は唸(うな)るようにいった。

 

帝国重工では水原本部長から佃製作所の部品をテストする指示が出された。合格させるのが目的というよりも落とすことにより「特許使用」を実現しようとする思惑(おもわく)があるのだ。その責任者には、財前ではなく、その部下の富山が指名された。財前の考えに反発を感じて水原の意向に沿った行動を取ろうとしているエンジン開発の責任者である。そして、富山は必要以上とも思われる詳細なテスト計画書を作成した。これには技術面はもちろん、財務内容の審査も含まれている。

 

第五章 佃プライド

 

帝国重工の評価チームが佃製作所に来社する日がやってきた。大工場にしかあてはまらない工程管理の理想論を振りかざす帝国重工の評価者は佃製作所の試作工場において次々と指摘事項を連発する。財務内容の審査も同様に厳しいものであった。帝国重工の評価者たちが意気揚々(いきようよう)と引き上げた後、佃製作所の社内は不満と愚痴(ぐち)に溢(あふ)れたが、白水銀行からの出向者である経理部長の殿村は『ここで真価が問われているのは帝国重工も同じだと思います』と意外なことを言う。『数字は嘘をつきません。帝国重工にだってきちんと数字を読む人間はいるはずです』と力説したことで、社員たちの雰囲気が一気に明るくなった。帝国重工の評価者たちの態度に憤(いきどお)った社員たちにやる気を起こさせたのだ。

 

2日目の評価では「攻守所を変える」の状態になってしまう。自信を取り戻した佃製作所の社員たちの対応に帝国重工業の評価責任者たちはタジタジとなる。しかし、一部の若手評価者は真摯(しんし)に佃製作所の製品の精緻(せいち)さに感銘(かんめい)を受けたようである。そして、帝国重工のテスト第一段階は無事に終わり、佃は三上へ断りの電話を入れた。マトリックスについても同様である。

 

第六章 品質の砦

 

予期しない事態が発生した。佃製作所が帝国重工に提出した評価用バルブ についての簡単な動作テストのデータに異常値が出たことが筑波にある帝国重工の研究所から同本社へ報告されたのである。その頃、佃製作所内でも出荷されたはずのバルブが工場の倉庫に残っていることが発見された。出荷手続きにミスが発生したと思われた・・・。そして、佃製作所の担当者は筑波まで車を飛ばして正規の評価用バルブを持参するが、帝国重工側評価責任者の富山はこれを拒絶する。(以下略)

 

第七章 リフト・オフ(省略)

 

エピローグ(省略)
 
                              ☆

 

<読後感> 導入部から展開部、そして終盤のクライマックスへと息注ぐ暇(いきつぐひま)も与えないドラマチックな展開は池井戸潤氏ならではのものであり、読みやすい文体で書かれた本書を一気に読み終えました。終盤では、「はたして佃製作所はバルブシステムを納入することができるのか?」、「ロケットは打ち上がるのか?」、との厳(きび)しい状況設定が続きます。先に紹介した「ルーズヴェルト・ゲーム」と同様、次々と迫り来る危機を佃航社長の困難を乗り越えようとする強いリーダーシップに加えて、不平不満を言いながら必死で努力する社員たちの描写は読む人の心を片時も離しません。また、「因果応報」(いんがおうほう)の結末も読者に安心感を与えます。ちなみに、本作品は2011年に三上博史主演でテレビドラマ化されてWOWOWで放送されましたが、今年はリメイク版(主演:安部寛)がTBS系列で10月期の日曜劇場(10月18日~11月15日、全5話)として放送されました。また、11月22日からはその続編「ガウディ計画編」(原作:11月5日に発売されたばかりの「下町ロケット2 ガウディ計画」)が放送されるそうです。

« プリウスはやはり燃費が良い! | トップページ | ”Windows 10”について今思うこと »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/146335/62701354

この記事へのトラックバック一覧です: 池井戸潤著「下町ロケット」を読む:

« プリウスはやはり燃費が良い! | トップページ | ”Windows 10”について今思うこと »

2017年10月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ