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2015年11月 7日 (土)

池井戸潤著「ルーズヴェルト・ゲーム」を読む

地方新聞に連載された小説「ルーズヴェルト・ゲーム」は2012年に講談社から単行本として発刊されました。昨年(2014年)にはテレビドラマ化されてTBS系列の「日曜劇場」として放送されたようです。ユニークタイトル「ルーズヴェルト・ゲーム」は『タイトルは「点を取られたら取り返し、8対7で決着する試合」を意味し、野球を愛した第32代アメリカ合衆国大統領のフランクリン・ルーズベルトが1937年1月に、ニューヨーク・タイムズの記者に宛てた野球記者協会から招待されたディナーを欠席することを詫びた手紙の末尾に記された「一番おもしろいゲームスコアは、8対7だ」という言葉に由来する』(出典;Wikipedia)そうです。 

 

中堅電子部品メーカーの青島製作所は世界的な不況とライバル企業であるミツワ電器の攻勢を受け、経営は青息吐息の状態であった。そのような青島製作所の苦境を象徴するのがかつては社会人野球の強豪チームとして名をはせたが同社の野球部である。現在はミツワ電器野球部の後塵を拝し、対外試合ではほとんど勝つことがないまでに落ちぶれている。さらに野球部監督の村野三郎が主力二選手を引き抜いて、ライバルのミツワ電器野球部に寝返るという事件まで起こり、青島製作所の役員会では野球部廃止の声まであがる始末であった。(同上) 

 

青島製作所とその野球部はこの様な絶望的な状況からいかにして脱却したかを池井戸潤氏は巧みなストーリー展開と卓越した文章力で読者を引きつけながら描きます。また、社長の細川充(みつる)と後任監督の大道雅臣(まさおみ)がそれぞれ逆転の発想とデータに基づく戦法で明るい展望が開ける結末へと導いたリーダーシップも良く描かれています。本著書は、これまでに紹介した作品(果つる底なきM1株価暴落オレたち花のバブル組空飛ぶタイヤオレたちバブル入行組ロスジェネの逆襲)と同様、期待通りの秀逸な作品でした。
 

                         ☆
 
第1章 監督人事
 
村野から監督辞表届けを受け取った総務部長で野球部長を兼務する三上文夫はかっては大学野球の名監督で現在は日本野球連盟の理事職にあり茶屋功(ちゃやいさお)を2月に訪ねた。三年前に村野を推薦した茶屋に後任監督の推薦を依頼する目的であった。茶屋から『紹介できる人物がひとりいる』と連絡があったのは一週間後であった。 

 

青島製作所の新年度計画を話し合う役員会で専務の笹井小太郎は野球部の存続について真剣に検討するべきであるとの自論を持ち出した。社長時代に野球部を創部した青島会長が心筋梗塞の治療を受けたため2年前に会長に退いてからは遠慮が無くなったのだ。笹井がこう言う背景にあるのは急激な業績不振だ。昨年暮れには700名の派遣社員のうち半数を派遣切りをしながら、野球部には年間3億円弱の経費が掛かっている。議論が笹井のペースで進んだが、三上が野球部存続を必死で訴えると、拍手とともに、『頑張れ。きたいしてるからな』、と青島会長の声がその議論に一応のピリオドを打った。 

 

後任監督に決まった大道が突然練習グランドへ現れ、変わった言動に野球部のマネージャー古賀をはじめベテラン部員たちはあきれ顔である。高校野球部の監督をしていた経歴はあるが最近は家業である電設工事を手伝っていたことしか分からない。監督に就任した大道は監督室でスコアブックを広げてパソコンにデータを入力する日々を送っている。今年40歳になる大道は大学でスポーツ科学を専攻し、その後講師として大学で10年を過ごし、それを実践する形で指導を請われた新設高校に赴任して監督業を務めたという経歴である。 

 

定例の役員会では今年に入って2ヶ月連続の赤字に陥っている上に、取引先の東京モータースから開発したばかりのレーザー判別センサーの値引きを要求されていると営業部長の豊岡が社長の細川に報告し、ミツワ電器の攻勢が強まっていると付け加えた。細川は全社的に一律7パーセント程度のコストダウン人件費を含む)を指示した。 

 

公式戦の2週間前になって大道は「組分け」(先発メンバーと控え選手)を発表した。案の定ベテラン達の不満は相当のもので、ベテラン投手の猿田がそれを代弁して大道に「組分け」の理由を問い詰める。大道はパソコンのデータを引用して先発メンバーとその打順を冷静かつ論理的に説明すると、猿田は『えらく変わった考え方だな。だけども、そういうことなら納得だ』と呟(つぶや)いた。大道が新しいチーム作りに着手したことは、いま全員の胸にはっきりと刻まれたのだ。

注; 大道のこの手法は映画化されたアメリカのノンフィクション本「マネー・ボール」に登場した定量的なデータ分析手法に近い 

 

第2章 聖域なきリストラ 

 

白水銀行府中支店の支店長、磯部が訪ねてきたのは、役員会で人員整理を正式決定して数日が経った後のことであった。所用で10分ほど遅れて細川が入室すると、専務の笹井と経理部長の中川篤(あつし)のふたりがリストラ計画を磯部に説明しているところであった。青島製作所は4月からスタートする新年度に必要な運転資金として50億円の融資を白水銀行に申し入れているが、磯部は業績の低迷が単に金融危機に端を発したものか、それとも競争力そのものにあることなのかを知りたがっていた。磯部に同行した有志課長は野球部について尋ねたため、虚をつかれた細川に代わって笹井は『廃部の方向で検討しております』と答えてしまう。細川は青島会長を説得することを考えると憂鬱になった。 

 

総務部長兼野球部部長の三上は社員数が最も多い製造部から上がってきた解雇候補者の一次リスト(約150人)を見て納得がいかないため人事課長の広野にリストの全面見直しを命じた。青島製作所本体も総合電機の雄であるジャパニクスクスから突然発注計画の大幅削減と単価の切り下げを要求される。しかも、ミツワ電器が要求を呑んだことを告げられた。 

 

第3章 ベースボールの神様 

 

期待して臨んだ公式戦初戦「JABA東京スポニチ大会」は投手陣が思いの外不調で、結果は1勝2敗でリーグ戦敗退、新オーダーで臨んだ最初の大会はほろ苦い結果に終わった。青島製作所の主要取引先で国内最大のカメラメーカーである東洋カメラから来年発売予定の新製品を7月上旬から4月下旬に変更するので、新製品に搭載するイメージセンサーを6月末までに提案するようにとの要求があった。しかし、この納期では開発中の新センサーが間に合わない。細川と営業部長の豊岡はその背景に新規参入を狙うミツワ電器の影を感じた。 

 

スコアブックを分析した大道は先発投手の萬田が肘を痛めているのではないかと考え、萬田に事情を聞くようにマネージャーの古賀に指示した。渋る萬田を説得してチームドクターの三雲保太郎(みくもやすたろう)の診察を受けさせると、上腕骨内側上顆炎(じょうわんこつないそくじょうかえん、いわゆる野球肘)と診断された。最低でも半年、万全を期すなら1年は安静する必要があると告げられる。古賀は思った。『野球の神様はなんでこんな残酷なことをするんだろう』と自分の過去と重ねた。 

 

青島製作所にも大きな課題が突きつけられた。大学の同級だというジャパニクスクスの諸田社長とミツワ電器の坂東社長からからミツワ電器との経営統合を打診されたのである。細川はもちろん答えを保留するが・・。 

 

第4章 エキシビションゲーム 

 

ある日曜日、青島製作所のグランドは社員とその家族で溢れていた。経営不振で開催が危ぶまれていたが、社員の士気を高めるため、会長の青島がポケットマネーで開催したエキシビションゲームである。青島製作所内の野球大会で優勝した製造部チームと野球部が対戦するのだ。相手を舐めてかかった野球部は製造部の選手に翻弄され、大方の予想を裏切り製造部が3点先行して、息を呑むような試合展開になった。3対1で迎えた最終回、野球部は1点を返したところで沖原がリリーフを申し出た。製造部が不足するメンバーを補充するため声を掛けた新顔である。 

 

セットポジションから投じた沖原の第1球は目の醒めるような直球だった。「ストライク!」審判のコールが青空に響き渡った。しかし、その後キャッチャーがパスボールしたため2人の走者が生還して野球部が逆転、サヨナラゲームで幕を閉じた。翌日、マネージャーの古賀は沖原に向かって「暴投じゃない! 」と言い、沖原の経歴を調べたと告げる、野球部に入るように頭を下げた。沖原の返事は素っ気ない。この話を聞いた新監督の大道は沖原と会いに出かけ、古賀が調べた情報で沖原を入部させることを決意する。大道の知略通りに沖原は自分の意思で入部することを決心した。 

 

第5章 野球部長の憂鬱 

 

総務部長の三上が従業員にリストラを通告するつらい仕事をしている時、総務部の自室に萬田が顔を出した。肘を痛めて休養を余儀なくされた人物である。逡巡した末、萬田は泣きながら兼野球部部長を兼務する退職を申し出た。そして、マネージャーの古賀と監督の大道にこのことを報告した。大道はいくつか質問した上で、「そうか」とうなずき、「いままでよく頑張った。ありがとう」と右手を差し出した。 

 

野球部から誘われた沖原は製造部副部長の村井に声を掛けられ、派遣契約を今週一杯で打ち切ると通告された。製造部からの報告を受けた三上は古賀に向かって「私を信じろ」と沖原に伝えるよう依頼する。古賀は沖原を無理やり誘って馴染みの居酒屋「ごんた」へ向かう。店内には野球部員たちで溢れていた。古賀は『いったい、野球の神様はどこまで意地が悪いんだろう』との思いに古賀は悔しくて泣けてきそうだった。 

 

そんな時にも三上は総務部の自室にいてひとり頭を抱えていた。製造部に朝比奈を訪ねて沖原の派遣契約解約を考え直すように頼むが拒絶されてしまう。オーバーワークのため総務部の残業が増えているので残業代を払うより昼間の人手を増やしたほうがいいのではないかと部下から提案された三上はあることを思いつき、古賀に電話をかけて『沖原はウチで預かる』と伝えた。 

 

第6章 六月の死闘 

 

初夏の風が吹いて都市対抗野球の一次予選が始まった。細川社長が観戦に来ていると聞いた古賀はめをまるくした。廃部の検討を命じている本人自らが球場に出向いたのである。投手の猿田はいつものことではあるが不安定な立ち上がりで、初回に4点を先行されてしまう。中継ぎの投手が踏ん張って追加点を許さないが、6回まで青島製作所チームには得点が入らない。 

 

流れが変わったのは7回裏、8番打者でキャッチャーの井坂が反撃の口火を切った。DHの荒井はピッチャーゴロに終わるが、1番打者犬彦のバットがはじき返した球は三塁線上を抜けた。二死、二、三塁となったところで・・。(以下略) 

 

第7章 ゴシップ記事(省略) 

 

第8章 株主総会 

 

ミツワ電器が青島製作所の大株主に働くかけたことで開催された臨時株主総会は議案の「ミツワ電器との合併」は意外な展開で否決された。期限を前倒した性能を大幅にアップしたイメージセンサーの開発に目処(めど)が立ったばかりの青島製作所は多くのピンチをなんとか脱しつつあった。 

 

最終章 リーズヴェルト・ゲーム 

 

青島製作所にとって最大の難関であった白水銀行からの運転資金融資と追加リストラ計画が白水銀行に認められる。そして、都市対抗野球の二次予選が始まった。初戦の相手チームは宿敵のミツワ電器。またしても3点を先取された青島製作所チームは反撃して、6回表を終わって6対5に迫ったが、7回裏にミツワ電器チームが2点を追加して7対5と突き放されてしまう。果たして、青島製作所野球部はルーズヴェルト・ゲームを実現することができるのか? 

 

エピローグ(省略)
 

                         ☆ 

 

<読後感> 池井戸潤氏の小説につきものの白水銀行が登場しますが、本編はあくまでもエレクトロニクス製品を開発・製造・販売するメーカーの競合あるいは取引関係を背景に、ライバル関係にある実業団野球チームの活躍を織布の縦糸と横糸のように描いた痛快小説です。「半沢直樹」シリーズのようなスーパーマンは登場しません。登場人物はそれぞれの立場で全力を出した結果がハッピーエンドにつながったことは読者に安心感を与えます。つまり、テレビドラマ「水戸黄門」のような「勧善懲悪(かんぜんちょうあく)」ではなく、むしろ「因果応報(いんがおうほう)」、すなわち悪因悪果(あくいんあっか)と善因善果(ぜんいんぜんか)を絵に描いたようなストーリーです。
 
バブル経済が崩壊した直後に書かれた本著作は、経済小説(企業経営や経済活動の視点で書かれた小説)ではありませんが、昨今のように企業による不祥事(ふしょうじ)が頻繁(ひんぱん)に起こる時代にあっては、企業人あるいは組織人にとって自らが目指す目標とそれを実現するためになにが大切であるかを考えさせる契機を与えてくれるかもしれません。

 

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