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2016年2月24日 (水)

漢字表現を愉(たの)しむ

難読(なんどく)漢字と四文字熟語(じゅくご)などを覚えて「漢字検定一級」の取得を目指すのも楽しいと思いますが、簡単な漢字であってもその意味と使い方を吟味(ぎんみ)すると深いものがあるようです。

 

本題に入る前に、漢字の特徴を考えてみましょう。漢字とはその名前のとおり、昔の中国で作り出された文字で、古代の象形文字(絵文字)が洗練(簡略化)され、さらに複数組み合わされて現在の漢字(繁体字と簡体字)が完成しました。その最大の特徴は漢字一文字が意味を持つ最小単位であることで、表音文字である西洋の文字(アルファベットなど)とは大きく異なる点です。つまり、漢字は一文字ごとにその意味が定義される表意文字(注、表音文字でもあることから厳密には表語文字と言うべき)であり、一方のアルファベットは一文字から数文字で意味を持つ単語の音を表すもので、文字自身はまったく意味を持ちません。

 

余談ですが、中国では外来語を表記するときには表音文字でもある漢字の特徴を利用します。
 

例えば、マクドナルドは「麦当Màidāngláo、マァィダァンラァォ)、パリは「巴黎」(Ba Li、パァーリィー)、「ボーイング」は「波音」(Bo yin、ブゥオイーン) 

)カッコ内は中国語の発音記号であるピンインとカタカナ表記した発音

 

                          ☆

 

本題に入ります。日本語は漢字を表意文字として導入しましたが、その発音も合わせて取り入れました。遣隋使(けんずいし)が中国(当時は隋)の長安から持ち帰った呉音(ごおん)と遣唐使(けんとうし)などが持ち帰った漢音(かんおん)は、一部で使われた宋音(そうおん)と唐音(とうおん、とういん)を含め、現在の日本では「音読(おんよ)み」と呼ばれ、旧来の日本語の発音を漢字に当てはめた「訓読(くんよ)み」の2種類の読み方が併存するのは、この歴史的な背景があるからです。「音読み」は音を聞くだけでは意味が分かりませんが、一方の「訓読み」はそのまま意味を理解することができることで、両者を識別することができます。

例、山(さん/やま)、海(かい/うみ)、足(そく/あし)

 

ちなみに、仏教の経典(お経)はもちろん漢音で読まれますし、複数の漢字を組み合わせた熟語の読み方も漢音を使うのが一般的です。一方、訓読みの場合は送り仮名を付けることが多いのです。

 

それでは日本語における漢字の面白い表現方法をいくつかの切り口で解説しましょう。

 

1.多彩な意味を持つ「前」

 

「前」が接尾語としてつく言葉(熟語)は数え切れないほど多くあります。「男前」(男らしい顔つきや態度)、「江戸前」(江戸湾つまり東京湾でとれる新鮮な魚類)、「手前」(自分のこと、私)、「一人前」(料理の一人分、成人であること)、「腕前」(巧みに物事をなしうる能力や技術)、「板前」(まな板の前で調理する人、つまり和食の料理人)、「当たり前」(当然の当て字が転じた言葉、あるいは共同作業の分け前)、「御前」(貴人の目の前の人、それが転じたお前は相手を蔑む言い方、貴様と同様)、「出前」(料理を配送すること)、「名前」(物や人物に与えられた言葉)、「点前(てまえ)」(お茶を点てること)など。

 

これらの用法から分かるように「前」の意味は、「順序として早く現れるほうを指す」、「空間的に前の方」、「書き物をする机や脇息(きょうそく)・食器を載せる膳である懸盤(かけばん)を数えるのに用いる」、「人を尊敬する言葉(""と読む)、例: 御前(ごぜん、みさき)」など多岐(たき)に亘(わた)ります。

 

ちなみに、「後」を接尾語とする熟語はそれほど多くはありません。「午後」「雨後」や「屋後」(おくご、家屋の背面)はともかく、「牛後」(ぎゅうご、牛の尻)は「鶏頭となるもの牛後となるなかれ」あるいは「鶏口牛後」の諺(ことわざ)があるように、悪いことの例えにも使われます。これは「後」が、「人の背中の向いている方向」、「ある地点からのち」、「連続するものの中で次にくるもの」、「物事が終わってから残ったもの」を意味する(マイナスのイメージがある)漢字だからでしょう。

 

2.これって正真正銘(しょうしんしょうめい)の漢字?

 

「躾」(しつけ) :   身だしなみの美しさを教えること

「峠」(とうげ) :    山道を上って下りにかかるところ

「颪」(おろし) :   冬季に山などから吹き下ろす風、用例「六甲颪」

「写す」(うつす) :  中国の繁体字「冩」を日本風に簡略化したもの

               注)中国の簡体字では横棒が右に突き出ない

「匂い」(におい) : 中国語の 匀(キン、一様あるいはバランスが良いこと)の「二」を

              「にほひ」の「ヒ」と入れ替えたもの

             ちなみに「匀」は均等や均一の「均」と同じ意味

「畑」 :         「火」+「田」、つまり焼き畑

「辻」(つじ) :     「道」+「十」、つまり十字路

「笹」(ささ) :     旧来の表記は篠(ささ)

「椿」(つばき) :   春に咲く花木  注)中国にない植物や動物のために作られた漢字

「鱈」(たら) :     雪の季節が旬である魚  注)同上

「鰯」(いわし) :    弱い魚であるため  注)同上

「榊」(さかき) :    神に供(そな)える木  注)中国にない信仰思想を表現する漢字

「働」 :          人が動く  注)中国語では人偏のない「動」と表記

「裃」(かみしも) :  上下を同じで布で作った衣

「凧」(たこ) :      「風」+「巾()」(ぬの)

「麿」(まろ) :      麻()と呂()を組み合わせた漢字

  注)男性を示す接尾辞あるいは公家(くげ)が使った一人称

「粁」 : キロメートル 

「瓩」 : キログラム

「竏」 : キロリットル

 

 <> いずれも日本で作られた漢字(和製漢字、国字)です。日本人は改善工夫が得意で
    
あることがよく分かりますが、センスの良さ・悪さはマチマチです。

 

3.正しい表記はどちら?

 

「あえて」 と 「敢えて」

「あたって」 と 「当たって」

「あまり」 と 「余り」

「あらかじめ」 と 「予め」

「あらためて」 と 「改めて」

「ある」 と 「有る、在る」

「あわせて」 と 「併せて」

「いう」 と 「言う」

「いかに」 と 「如何に」

「いくつ」 と 「幾つ」

「いずれ」 と 「何れ」

「いただく」 と 「頂く、戴く」

「いる」 と 「居る、要る」

「こと」 と 「事」

「ころ」 と 「頃」

「さまざま」 と 「様々」

「すぐに」 と 「直ぐに」

「できる」 と 「出来る」

「ともない」 と 「伴い」

「ない」 と 「無い」

「なお」 と 「尚」

「ほか」 と 「他」

「もの」 と 「物、者」

「ゆえ」 と 「故」

「よって」 と 「依って、因って、縁って」

「わかる」 と 「分かる」

「わけ」 と 「訳」

「わずか」 と 「僅か」

 

 <> 「漢字表記」と「ひらがな表記」は両方とも使われていますが、出版物や公文書などでは

    「ひらが表記」が圧倒的に多いようです。

    私の推測ですが、いずれも「訓読み」(あるいは当て字)であるため、あえて漢字を使わ

    なくても良い(意味が通じる)からでしょう。つまり、意味を混同する恐れがない場合は、

    あえて「漢字表記」を使わないで、「ひらがな表記」で良いのです。
   
いや、『よいのです。』でした!

 

4.尊敬または丁寧語を表す接頭語である「お」と「ご」の使い分け

 

 ◎「お」をつける言葉

 

名前・金(かね)・手紙・話・住まい・許(ゆる)い・魚・手洗い・茶・召()し物・着物・手前・

車・家・後・色・祝いなど

 

  <判断基準> 訓読みの言葉

 

 ◎「ご」をつける言葉

 

住所・連絡・依頼・計画・足労(そくろう)・意見・利用・説明・飯(はん)・覧(らん)結婚・

列席・自身など

 

 <判断基準> 音読みの言葉

 

 ◎例外的に「お」をつける音読みの言葉

 

     玄関・茶碗・時間・電話・名刺・返事・天気・正月・転婆(てんば)・食事・膳(ぜん)・

     愛想(あいそう、あいそ)など

 

 ◎「お」も「ご」もつけない言葉

 

     外来語(コーヒー、カー、クリスマスなど)・公共物(駅、役所など)・動植物・自然現象

     および「あ」や「お」で始まる言葉の一部(飴、雨、朝、夫、踊など)

 

 ◎「御」を重ねた珍しい言葉(番外)

 

     御御足(おみあし)、御御髪(おみぐし)、御御御付け(おみおつけ)

       注)いずれも女房詞(にょうぼうことば)

 

   <蛇足コメント> 目上の人に対する自分の行動に御(/)をつけると謙譲語(けんじょ

   うご、へりくだった表現)なりますが、聞く人によっては行動者自身への尊敬と捉え

   不快に思う人がいる可能性がありますから、十分注意する必要があります。

   例えば、テレビショッピングでは「◯◯をご用意しました」が常套句(じょうとうく)として

   使われますが、「◯◯を用意させていただきました」とするほうが無難だと思います。

 

                          ☆

 

漢字のさまざまな使いかたを楽しんでいただけましたたでしょうか?
 

本稿を読んで漢字表現に興味を持たれた方は、「漢字のスマートな使い方」を工夫(くふう)されると、文章を書く愉(たの)しみがさらに広がると思います。 

2016_01230013漢字についての御託(ごたく)を読んで疲れたという方の気分転換として私がこの20年ほど育てている「セントポーリア」を紹介します。日本でも愛好家の多い「セントポーリア」は、ケニア南部とタンザニア北部の山地に生息する非耐寒性の多年草で、属名は発見者であるドイツ人ヴァルター・フォン・セントポール=イレールに献名されたようです。

 

別名:  アフリカスミレ(阿弗利加菫)、アフリカン・バイオレット、セントポーリア・イオナンタ 

 

花言葉: 小さな愛、細やかな愛、小さな心、親しみ深い、深窓の美女

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