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2016年5月 7日 (土)

「銀翼のイカロス」を読む

連休中に読んだ本を紹介します。池井戸潤著「銀翼のイカロス」(1500円+税)は2014年にダイヤモンド社から刊行されたソフトカバー本です。私にとっては「果つる底なし」「M1」「株価暴落」「空飛ぶタイヤ」「オレたち花のバブル組」「オレたちバブル入行組」「ロスジェネの逆襲」「ルーズヴェルト・ゲーム」「下町ロケット」に次ぐ10作品目(半沢直樹シリーズでは4作品目)に当たります。

 

まず、本書の変わったタイトルについての私見を述べます。「イカロス」とはギリシャ神話に登場する人物で、蝋(ろう)で固めた翼によって自由自在に飛ぶ能力を得ましたが、太陽に接近し過ぎたことで翼が溶けてしまい、墜落して死を迎えることになります。ちなみに、この物語は人間の傲慢(ごうまん)さや技術信仰を批判する神話として知られています。つまり、「銀翼のイカロス」は飛行機にかかわる傲慢(ごうまん)な人間を象徴しているようです。

 

                          ☆

 

物語はある銀行員が書いた短い遺書で始まりました。

 

序章 ラストチャンス

 

十月のある夕方、東京中央銀行営業第二部次長半沢直樹は部長の内藤寛(ひろし)に呼び出された。部長室へ向かった半沢は内藤から役員会のあと頭取の中野渡(わたり)(けん)から営業第二部で新たに一社を担当するよう指示があったことを知らされる。業績不振に陥っている帝国航空である。同じ資本系列の東京中央商事が同社への出資を検討しているとの情報もあった。これまで帝国航空を担当していた審査部との引き継ぎを即日終えた半沢はさっそく帝国航空の神谷巌夫(かみやいわお)社長のもとへあいさつに出かける。審査部の前任者である曾根崎(そねざき)と帝国航空の財務部長山久登(やまひさのぼる)などが同席。

 

初日の突っ込んだやり取りを通じて、現状と両社の認識(危機感)の違いが明らかになったことで、半沢は修正再建案づくりを手伝いたいと申し出る。財務畑出身の神谷社長はあれこれ理屈を並べて執拗(しつよう)に抵抗した。それにかまわず、半沢は修正再建案の素案を作成して、帝国航空に提案することにした。そして、半沢以下の帝国航空担当チームによって慎重な検討が重ねられ、十一月に入って間もないころに修正再建案の骨子が固まった。しかし、半沢からその案を聞いた帝国航空の山久財務部長は取りつく島がない態度である。

 

その直後、大きな動きがあった。東京中央商事が帝国航空への出資を見送ると通告したのだ。一縷(いちる)の望みを絶たれた神谷社長は半沢の修正再建案を検討することを決めた。十二月に行われた衆議院選挙で野党の進政党が地滑り的に勝利したことで、国土交通大臣に就任した白井亜希子(元アナウンサー)は前大臣の私的諮問機関である有識者会議の解散と修正再建計画の白紙撤回を決め、改めて帝国航空の現状を精査する帝国航空再生タスクフォースを立ち上げると発表した。企業の命運を政治の道具にする白井大臣に半沢は根本的な不信感を抱く。

 

第一章 霞が関の刺客

 

年が明けた一月上旬、帝国航空再生タスクフォースの臨時オフィスが帝国航空本社の25階に設置された。リーダーは大手企業の再建実績が豊富な有名弁護士の乃原正太(のはらしょうた)、サブリーダーは外務省のキャリア官僚から外資系ファンドに転身した異色のキャリアを持つ三国宏である。弁護士や公認会計士など約100名のスタッフによって資産査定などが行われた3か月後、取引銀行に対して再建案に関する面談の要請があリ、半沢が乃原と面談することになるが、乃原と三国は銀行を下に見ていることがその態度から明らかである。乃原は帝国航空の早急な復活には債権の7割を銀行団が放棄することが必要であるとして東京中央銀行に検討するよう要求した。

 

持ち帰った半沢はこれを受けるべきではないとのメモを付けて上申するが、頭取以下の幹部はもう少し検討するようにとの指示を半沢に下した。帝国航空のメーンバンクである政府系の開発投資銀行を訪れた半沢に応対したのは帝国航空チームを率いる(実務責任者である)企業金融部第四部次長の谷川幸代(たにがわさちよ)である。半沢のストレートな質問に答えて、個人的には半沢と同意見であるが、政府系金融機関としての役割があると開発投資銀行の立場を抽象的に説明するにとどめた。四月になったある日、半沢は乃原から呼び出しを受けて出向くと、半沢が債権放棄に反対しているとの情報をどこからか得たと思われる乃原は汚い言葉で半沢を恫喝(どうかつ)するが、半沢は怯(ひる)まず反論する。開発投資銀行の谷川も半沢と同様、行内における債権放棄の動きに抗(こう)しかねていた。

 

第二章 女帝の流儀

 

乃原リーダーから債権放棄に否定的な担当者がいると吹き込まれた白井大臣は多数の部下を引き連れて東京中央銀行に乗り込んできた。いわゆる「カチ込み」(殴り込み)である。頭取以下の幹部たちと担当者である半沢に向かって帝国航空を再建する必要性と東京中央銀行の動きが悪いと迫るが、中野渡頭取は落ち着き払って対応する。白井大臣の矛先(ほこさき)は担当である半沢にもおよぶが、半沢は一歩も引かないだけではなく、論理的にはんろんする。債権回収部門を統括する紀本常務は快(こころよ)く思っていない半沢を叱責(しっせき)するが半沢は動じない。

 

白井大臣・乃原リーダー・民進党の重鎮である箕部啓治(みのべけいじ)代議士・東京中央銀行の紀本常務らの長きにわたる意外な関係が明かされる。(詳細略)

 

第三章 金融庁の嫌われ者

 

金融庁の検査官である黒崎俊一が10名の部下を引き連れて帝国航空に関するヒアリングのため東京中央銀行を訪れた。伊勢島(いせじま)ホテルへの融資の件(「オレたち花のバブル組」参照)で半沢と激しくやりあって半沢への憎悪を見せた人物である。黒崎は金融庁の権威と権限を背景に半沢が担当する前の貸付について乱暴かつ粘着質の質問を次々と投げつける。前任者である曾根崎は知らん顔を決め込む。こうして金融庁の書類審査が始まった。黒崎は東京中央銀行の審査が杜撰(ずさん)であると決めつけた上で、同行が金融庁に報告した帝国航空の再建策の数値が帝国航空による発表と異なると指摘した。

 

半沢は同期の渡真利(とまり)次長から今回の金融庁によるヒアリングの陰に白井大臣と箕部が動いていたことを教えられる。そして、帝国航空へ確認に向かっていた部下の田島の報告は 『発表したとおりの数値を東京中央銀行審査部の曾根崎次長に手渡した』 との証言を帝国航空の財務部長から得たというものである。ただちに半沢は曾根崎に問いただすがシラを切る。曾根崎がそのことを紀本常務に報告すると、帝国航空の山久財務部長に協力してもらえとの指示を受けた。

 

翌日のヒアリングでは思いがけない展開となる。黒崎の追求に対して曾根崎が資料を作成したのは自分であり、帝国航空からもらった資料が検討中の素案であったと発言したのである。この発言によってテーマは与信引き当てに移った。それについても黒崎の追求は微に入り細に入った。半沢は調査が行き届いていなかったと謝罪せざるをえない。黒崎は勝ちほこったように 『指摘事項への回答書を出すことを要求する。それに対する意見書は金融庁長官から東京中央銀行頭取に直接手渡しするが、その様子をマスコミに公開する』 と宣言して長かったヒアリングの終了を宣言した。金融庁の立場を守るためであることは明らかであった。

 

曾根崎次長は帝国航空の山久財務部長に 『検討中の資料を手渡したとする状況報告書を作成してほしい』 と依頼するが山久財務部長はこれを拒絶した。曾根崎次長に泣き付かれた紀本常務が曽根崎を同行して再度山久財務部長のもとを訪れるが、山久財務部長は 『事実を記載した状況報告書を半沢に手渡した』、という。万事休すとなった曾根崎次長は、東京中央銀行へ戻って半沢に詰め寄るが、半沢は 『その資料はすでに上層部へ回した』 という。そして、曾根崎次長と山久財務部長の会話を録音した音声が営業本部フロアの第二営業部内に流れた。曾根崎次長は半沢の言うとおりに半沢と元の部下たちに謝罪した。

 

第四章 策士たちの誤算

 

半沢は債権放棄を拒否する内容の稟議書を再度上げた。それを審議する臨時役員会では旧東京第一銀行系の紀本常務をはじめとする役員と部長たちが政治的な判断で債権放棄を受け入れるべきだとの意見を述べた。説明者の内藤第二部長は銀行の矜持(きょうじ)について熱弁を振るうが、紀本常務による思い掛けない進退をかけた反論があり、中野渡頭取は債権放棄を主張する紀本常務に本件を任せるという。内藤第二部長は開発投資銀行も同意することを条件としてほしいと願い出て中野渡頭取の了承を得た。半沢の意見を反映したものである。

 

白井大臣、箕島代議士、紀本常務が祝杯を挙(あ)げているところに遅れて参加したのは再生タスクフォース・リーダーの乃原正太、帝国航空の再建を強引に実現させるシナリオを描いた男である。翌日に予定される再生タスクフォースの合同報告会とその後の記者会見にギリギリ間に合ったのである。また、開発投資銀行の民営化の是非についても翌朝の閣議で決定されることになっている。半沢は開発投資銀行の谷川次長から民営化されれば債権放棄はなくなるだろうが、財務大臣が民営化に反対しているため、その可能性はほとんどないと聞いている。

 

再生タスクフォースの合同報告会がはじまり、乃原リーダーの高飛車な挨拶に続いて、サブリーダーの三国が与信残高の少ない銀行から検討結果を報告するよう指示した。最初の銀行は与信額がわずかであるあるため債権放棄に賛成したが、2番目以降の銀行は主力および準主力の対応に準ずると玉虫色の報告をした。いらだった乃原リーダーは半沢に東京中央銀行行の検討結果を報告するよう迫る。半沢が説明をはじめたタイミングに開発投資銀行の担当者たちがあわただしく入室してきた。乃沢リーダーが繰り返した質問に対して、半沢は 『東京中央銀行はこの債権放棄を拒絶します』 と答える。

 

『東京中央銀行は債権放棄を役員会で決議したはずだ』 といいながら怒り狂う乃沢リーダーに向かって半沢は 『開発投資銀行が債権放棄に同意した時に限るという条件がついている』 と補足した。半沢は矢沢次長から開発投資銀行の民営化が閣議決定されたとのメールを直前に受け取っていたのだ。そして、谷川次長は 『開発投資銀行は債権放棄の要請について見送ることにした』 と説明すると、乃沢と三国の両名は茫然自失(ぼうぜんじしつ)に陥(おちい)った。乃沢は捨台詞(すてぜりふ)とともに合同報告会の閉会を告げた。

 

第五章 検査部と不可解な融資

 

合併する前の旧東京第一銀行における簑部啓治代議士への個人融資が5年間も担保(たんぽ)がなかった20億円の問題(情実)融資案件の存在を知った半沢はそれを調べ始める。(詳細は省略)

 

第六章 隠蔽(いんぺい)ゲーム

 

情実融資された20億円の用途が次第に明らかになって行く。(省略)

 

終章 信用の砦(とりで) (省略)

 

<読後感> 半沢直樹シリーズの最新本は、半沢自身の成長を反映したもので、それまでの3作品とは一味違うものでした。絶体絶命の窮地(きゅうち)に陥(おちい)りながらも問題の解明と解決に向かって一歩一歩と突き進んでゆくバイタリティと彼を支援する同僚たちの存在は前作品群と同じですが、銀行員の矜持(きょうじ)と組織における個人の立ち位置の難しさを強く感じさせます。ストーリー展開は池井戸潤氏の作品らしくテンポがよく、かつ終始痛快ですが、本書はサラリーマンとして半生を過ごした私に宮仕えの難しさをあらためて思い起こさせました。

 

                          ☆

 

例によって、本書に登場した「難読漢字」を以下にリストアップしますので、興味のある方は楽しんでください。

 

従容(しょうよう)

騒擾(そうじょう) 注、騒乱

層倍(そうばい)

公租公課(こうそこうか)

奸知(かんち) 注、悪賢い知恵

険相(けんそう)

双眸(そうぼう)

隋徳寺(ずいとくじ) 注、ずいと跡をくらます意

睥睨(へいげい)

思料(しりょう)

泰斗(たいと) 注、その分野の第一人者として尊敬される人

野趣(やしゅ)

敵愾心(てきがいしん)

顰(ひそ)める

飄々(ひょうひょう)

睨(にら)む

贔屓(ひいき)

荷担(かたん) 注、加担とも表記

領袖(りょうしゅう)

莞爾(かんじ) 注、にっこりと笑うさま

窺(うかが)う

手練手管(てれんてくだ)

呻吟(しんぎん) 注、苦しんで呻(うめ)くこと 

唾棄(だき)

繙(ひもと)く

苛立(いらだ)ち

俄(にわか)に

喧騒(けんそう)

親炙(しんしゃ) 注、親しく接してその感化を受けること

居竦(いすく)ませる

掬(すく)う

静謐(せいひつ) 注、静かで落ち着いていること

四囲(しい)

訝(いぶか)しむ

芬々(ふんぷん)

平仄(ひょうそく) 注、物事の筋道がたたない

滾(たぎ)る

顰蹙(ひんしゅく)

挺身(ていしん)

出精(しゅっせい)

憐憫(れんびん)

櫛風沐雨(しっぷうもくう) 注、世の中の さまざまな辛苦にさらされることのたとえ

仄聞(そくぶん) 注、人づてや うわさなどで聞くこと

熾火(おきび)

彷徨(さまよ)う

霹靂(へきれき)

刮目(かつもく)

直截(ちょくせつ) 注、すぐに裁断を下すこと

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