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2016年6月 1日 (水)

「晩節を汚す」を考える

最近、社会的に地位の高い人たちが引き起こした問題が目立つように感じます。いわゆる、「晩節(ばんせつ)を汚(けが)す人たち」が増えているようなのです。

 

「晩節を汚す」の意味を辞書で確認すると、『それまでの人生で高い評価を得てきたにも関わらず、後にそれまでの評価を覆(くつがえ)すような振る舞いをし、名誉(めいよ)を失うこと』とあります。人はなぜ晩節を汚すようなことをするのでしょうか。本題に入る前にその事例を考えてみました。

 

歴史的に有名な事例はなんといっても太閤(たいこう)豊臣秀吉でしょう。(注、太閤は関白を退いた人の敬称) 嫡子(実子)可愛さに後継者選びでそれまで維持していた理性的な判断ができなくなったといわれます。権力と所領を身内に継がせたいと考えて、養子(実の甥)の秀次に信長の所領を受け継がせ、そして関白にまで出世させました。しかし、実子の秀頼が生まれると一転して秀次に出家を強要し、ついにはあいまいな理由によって(実は秀次が気に入らないあるいは不要になったため)切腹を命じたのです。この秀次事件により家臣団の多くが離反したことは徳川家康に有利に働き、関ヶ原の合戦と大阪城における夏の陣で豊臣家が滅亡することになりました。

 

現代(1970年-2000年)においても世間を騒がせた人たちが多数います。ロッキード事件で有罪判決を受けた元首相で今太閤(いまたいこう)と呼ばれた田中角栄氏(死亡により公訴棄却)、リクルートの江副浩正氏(リクルートコスモス社の未公開株を賄賂として政官界人に提供したことで執行猶予つきの有罪判決)、ダイエーの中内功氏(晩年、商品戦略の失敗による消費者離れでダイエーが凋落したことでイオングループの傘下入り)、西武グループの堤義明氏(インサイダー取引疑惑で有罪判決)など。

 

2010年以降では、企業存亡の危機に陥(おちい)ったシャープ・東芝・三菱自動車(小説「空飛ぶタイヤ」のモデル)、海外事業の失敗で巨額な赤字を計上した三菱重工と三菱商事の歴代経営者やお家騒動を引き起こしたセブン&アイHDの鈴木敏文会長兼最高経営責任者(CEO)も含まれるでしょう。東京都知事については、元知事である石原慎太郎氏(尖閣列島問題と4期目に入ってほどなく都知事を辞任して国政新党を立ち上げた)、前知事である猪瀬直氏(医療団体からの不正献金事件)、そして現知事である舛添要一氏(政治資金の不正流用疑惑)と目白押しです。

 

「晩節を汚す人」が多い理由を調べてみました。紀元前(古代ギリシャ)の哲学者、アリストテレスは老年の特徴として、ひがみ、狭量(きょうりょう、人を受け入れる心が狭い)、吝嗇(りんしょく、ケチ)、臆病(おくびょう)、生への執着などと良いことは一つも挙(あ)げていません。つまり、年齢を重ねると、体力、気力、表現力が衰える一方で、執着(しゅうちゃく)は強くなるばかりだといい、自らの衰(おとろ)えを自覚するのは実に難しいと指摘するのです。

 

最近の研究により、『猿や人には、自分が物をつかもうとしているときと、他者が物をつかもうとしているのを見ているときとで、脳が同じような反応をする共感のメカニズム(仕組み)がある』 ことが分かっているそうです。また、別の研究では、『人が権力を持つと、脳が本来的に持っているメカニズム(共感の仕組み)が機能しなくなる』 ことが判明したといわれます。そして、『昇進して冷淡になったり偉そうな態度を取ったりする人は、最終的に出世の道を踏み外す』 ことも判明したと報告されているようです。

 

つまり、人は老年を迎えると否応(いやおう)なしに「晩節を汚す恐れ」が高まるのです。科学的には、『自己抑制を司(つかさど)る前頭葉(ぜんとうよう)が老化で弱まっている』、俗ないい方をすれば 『老化にともなう退化により幼児性(自己中心性)が強まる』 からなのです。この弊害(へいがい)を少しでも軽減すためには、高い地位に就(つ)くにしたがって「利己」を減らし、「利他」の価値観を意図的に重視する必要があります。

 

それが十分でないことを少しでも自覚したときには「晩節を汚す」前に「禅譲」(ぜんじょう)を行うべきでしょう。ちなみに、「禅譲」とは皇帝がその地位を血縁者でない有徳の人物に譲ることを意味しましたが、現在は組織の最上位役職者についても使われます。

 

外国の事例ですが、大統領の任期に制限を設けている国が多いのは老害(長期政権)の危険性を考えてのことでしょう。よく知られるのはアメリカの大統領の任期は2期8年まで、そしてロシアはアメリカと同様に2期8年でしたが現在は2期12年(連続の場合)、その他にもフランスは2期10年(連続の場合)、韓国は1期5年、フィリピンは1期6年などがあります。

 

もう少し身近な事例について考えてみましょう。「晩節を汚す」という視点で論じることの是非について意見が分かれると思いますが、スポーツ選手の引退時期(年齢)があります。体力の衰えで選手として競技を続けることが困難になったときに現役引退を発表することが多いようです。思いつくままに事例を挙げると、プロ野球のイチロー選手(42歳、大リーグで現役)、松井選手(38歳で大リーグ選手を引退)、山本昌投手(50歳で引退)、谷繁捕手(45歳で引退)、大相撲では旭天鵬(40歳で引退)、時天空(36歳で現役)、若の里(39歳で引退)、一ノ矢(46歳で引退)と、かなりの年齢まで頑張った選手/力士は枚挙に暇(いとま)がありません。「全盛期」と比較したくなるファンの心理から論じられることが多いようで、やはり「晩節を汚す」の対象には当たらないと考えます。

 

明らかに「晩節を汚す」といえるのは、有名な元プロ野球選手が引退後に覚せい剤を購入・所持・使用した事件が今年2月に発覚して、現在裁判が行われているケースです。注、5月31日に執行猶予つきの有罪判決

 

また、有名人でなくても、最近はキレル老人が増えている との分析があります。具体的には、駅・店舗・病院などでささいなことから諍(いさか)いを起こす人や隣人トラブルにより犯罪(傷害事件や殺人事件を含む)に至る人も少なくありません。

 

「キレル」(突然怒り出す、逆上する、かっとなる)のは、精神の安定性が欠如していて、たえず「不安」があるため「防衛機制」(ぼうえいきせい)に陥(おちい)るためであり、これは「自分の心を守ろうとするための心の仕組み」です。この説明では分かりにくいと思いますので、もう少し具体的に解説すると、『怒りが発生するのは、相手に求めたものが自分の期待値に届かなかったとき』 と表現できるでしょう。そして、その心理が、『自分が本来得るべきであった権利を尊重されず侵害された』 との怒りへと発展するのです。つまり、「自分に余裕がない人」あるいは「自分中心の世界で生きている人」であり、いいかえると「自分に自信が無い」あるいは「わがままな人」といえるでしょう。

 

視点を変えます。「晩節を汚す要因」は、一に「金銭」、二に「異性」、ついで「名誉」といわれます。これらはいずれも人が強く拘(こだわ)ることであり、いずれも抗(こう)しがたい誘惑要因です。なかでも社会的な地位が高い人は、「万能感」を持ちやすいため、とくにこの罠(わな)に嵌(はま)りやすいのです。

 

ですから、この誘惑によって理性を無くす前に、自らの老いを認めて、それを受け入れることが必要だと思います。「晩節を汚して」惨(みじ)めな晩年を過ごすことを考えれば、どちらを選択すべきであるかは明らかだと思います。若い人であればやり直すことも可能ですが、残念ながら老年期の人には時間が残されていないため、やり直しは困難というべきでしょう。

 

最後に、脳の衰えを少しでも防ぐ方法を紹介します。アイディアと段取りの検討に始まり最後には達成感が有られる「料理」と「旅行」、ドーパミンが分泌されワクワク感が得られる「読書」や「映画鑑賞」、脳を刺激する運動(例、ウオーキングや左右の手・指が別の動きをする楽器の演奏など)を趣味にすること、そして何より上質な「睡眠」も確保することです。また、チロシンがある「大豆食品」やEPADHAが豊富に含まれる「青魚」を食べることも脳の老化防止に有効だそうです。また、これら対策の福次効果として頭脳が委縮する速度が低下すれば、硬膜下血腫(こうまくかけっしゅ)の発症リスクを減らせるかもしれません。関心のある方は試してみてはいかがでしょうか。

 

今回の結論は<終わり良ければ全て良し>です。

 
                          ☆
 

今週の後半から来週にかけて次の旅行に出かける予定でしたが、同居者が足を痛めてドクターストップになってしまいました。快復を待って出かけるつもりです。それまでは、日頃あれこれ考えていることや感じていることを書き連(つら)ねて、退屈を紛(まぎ)らわしたいと思います。

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