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2016年7月 6日 (水)

映画「ビューティフル・マインド」を観る

アメリカ映画「ビューティフル・マインド」(A Beautiful Mind)を久しぶりに観ました。わが家のDVDライブラリーに収集してある一作品です。アメリカで2001年(日本では2002年)に公開された映画は、シルヴィアナサー著「ビューティフル・マインド 天才数学者の絶望と奇跡」を原作として映画化され、ノーベル経済学賞を受賞した実在の天才数学者、ジョン・ナッシュの半生(約50年間)を描いています。

 

ちなみに、アカデミー賞では作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞の4部門で受賞しています。またゴールデン・グローブ賞でも同様に、作品賞、主演男優賞など4部門で受賞しています。主演はニュージーランド出身(4歳でオーストラリア移住)のラッセル・クロウ、2000年に公開された「グラディエーター」でアカデミー主演男優賞を受賞しています。なお、本文はネタバレになっていますから、全文を読む方はその点にご留意ください。

 

                          ☆

 

主人公のジョン・ナッシュが1947年にカーネギー奨学生としてプリンストン大学大学院の数学科(博士課程)に入学したところから物語が始まりました。この世のすべてを支配する理論を発見したいと研究に没頭するジョンは、その奇妙な言動のため学友たちから奇異の目で見られることも気に留めません。唯一、気が合ったのはルームメイトのチャールズだけでした。授業に出る時間を惜しんで研究に没頭した結果、ジョンはついに「ゲームの理論」(集団における個人の意思決定メカニズムを定式化した考え)を発見します。

 

その才能と明晰(めいせき)な頭脳を認めた教授の推薦を得たジョンは、MIT(マサチューセッツ工科大学)のウィラー国防研究所に教授の職を得ました。そして、友人に誘われて入ったプールバー(注、ビリヤードができるバー)で出会った女性アリシア(MIT での教え子)と恋に落ちて後に結婚することになります。ジョンは国防総省の諜報担当者バーチャーに誘われてロシアの通信暗号の解読に取り組みますが、米ロの冷戦下での極秘任務によるストレスはジョンの精神を徐々に蝕(むしば)んで行きます。

 

1954年になったころ、彼の存在が敵にばれて彼が襲撃される事件が起こります。そして、日常生活でもジョンは異常な体験をするようになって行きます。実は、それらはジョンの幻覚でした。精神分析医のローゼン博士と強制的に引き合わされたジョンは精神障害の一種である「統合失調症」という難病に侵(おか)されたのです。そして、ルームメイトのチャールズも幻覚の一部だったことが明らかになり、ジョンは強制的に入院・拘束させられてしまいます。

 

ちなみに、「統合失調症」とは遺伝や、脳の変化、環境因子などいくつかの要因で発症すると考えられているそうです。陽性症状では妄想・幻覚・思考障害が、陰性症状では感情の平板化(感情鈍麻)・思考の貧困・意欲の欠如・自閉(社会的引きこもり)などがあるようです。(筆者注)

 

このように、前半はナッシュの視点からみたサスペンスドラマ(実は導入部)であり、後半は一転して観客の目で見る夫婦愛の物語になりました。妻アリシアの献身的な愛情と苦悩が丁寧(ていねい)に描かれます。薬の効果が表れストレスがなくなり、ジョンに症状が出なくなったことで、ジョンとアリシアはプリンストンに戻ることにします。そして、二人の間に男の子が生まれ、幸せな日々が訪れるかと思われましたが・・。

 

妻アリシアから介護を受ける闘病生活を送りながら研究を続けるナッシュ。しかし、治療のために受けた投薬の副作用でナッシュの思考力は徐々に低下して行きます。そのため、ナッシュは妻から手渡された薬を飲んだことにして机の引き出しに隠します。そして、ジョンは国防総省のバーチャーや元ルームメイトのチャールズの姿を見かけるようになってしまいました。

 

これを知った妻アリシアは、夫婦間に距離が生じ、子供へ危険が及んだりすることを心配します。そして、慣れ親しんだ環境へ戻ることをジョンに勧めます。MITへ戻ったジョンは、幻想に悩まされながらも、学部長(元の同僚)の計らいで図書館に席を借りて研究を続けます。その合間に若い学生たちと接したジョンは統合失調症による幻覚から少しは開放されたように感じ始めました。

 

そして、何年かが経過したあと、ジョンは母校のプリンストン大学で教授として教鞭(きょうべん)をとるようになっていました。1994年にジョンはノーベル賞候補にノミネートされたことを上司から知らされますが、自らの病のことを考えてノーベル賞を受賞することを躊躇(ちゅうちょ)します。しかし、思いがないことが起こりました。同僚の教授たちが次々と自らの万年筆をジョンのテーブルに置いて祝福したのです。これに感動したジョンは無常の喜びを感じます。(注、プリンストン大学では偉大な学者に敬意を表するために自分の万年筆を捧(ささ)げる習慣があるとのこと

 

同年、ジョンは「ナッシュの均衡」(非協力ゲームの理論)の経済学への応用に関する貢献でノーベル経済学賞を受賞することになります。そして、授賞式での感動的なスピーチを終えたジョンがハーバード大学生の息子と妻アリシアと短い言葉を交わすシーンは余韻(よいん)を残しながらエンドロールへと移りました。

 

                          ☆

 

<視聴後感>

この映画の魅力は、なんといっても完璧な脚本に基づいた演出・映像・音楽が見事に融合していることでしょう。そして、主演ラッセル・クロウが学生時代から老年に差し掛かるまでの50年間を演じきったことは見事ですが、妻アリシア役を演じたジェニファー・コネリー(助演女優賞受賞)は、感情を内に抑えながらも、その心情を観客にひしひしと感じさせた迫真の演技が印象に残りました。
 
登場人物は主人公のジョンとその妻のアリシアを除くと、大学の関係者ばかりが多数登場します。国防総省のの諜報担当者もジョンの心の中だけの存在であり、夫婦の一人息子でさえその存在を示すためだけに登場するだけであり、夫婦の親兄弟などは一切登場しないのは奇妙ですが、ジョンの「統合失調症」を際立たせるための演出だと思われます。不可欠ではないものはすべて削(そ)ぎ落としているのです。

 

象徴的と思われる題名の「ビューティフル・マインド」(美しい精神)は、ジョンが病を認めてそれと戦う決心をしたこと、夫ジョンを支える妻アリシアの愛情、そして社会復帰しようとするジョンの心の強さ、のいずれをも表現していると思われます。まさに、エンディングの歌"All love can be"が、『暗闇の中、あなたを見守りましょう』で始まり、『すべての愛というものを・・』で終わることがそれを如実(にょじつ)に示しているようです。

 

蛇足です。映画のなかでは不必要(あるいは不都合)な事実がいくつか表現されていないとの指摘がありますが、映画の完成度と魅力(登場人物の描き方)には影響がないと考えて、ここでは具体的な言及を控(ひか)えたいと思います。

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