モーガン・フリーマン 時空を超えて「"私"は何者なのか?」を観る
NHK Eテレ(教育テレビ)で4月から毎週放送されている科学番組「モーガン・フリーマン 時空を超えて」を観ました。今回紹介する7月8日(午後10時~10時45分)の放送分は、「自分を作り上げているものとは何なのか?」がテーマであり、思考・記憶・夢など、脳の活動を科学的に見つめることで、アイデンティティー(自己同一性)の深淵(しんえん)なる謎の解明を試みるものでした。その答えをもとめるため、脳や記憶のメカニズムを科学研究の成果を使って多角的に分析しました。なお、プロデューサーと案内人(ナレーター)を務めるのはアメリカの演技派俳優モーガン・フリーマンです。注、ディスカバリー・チャンネルの番組からNHKが選択・翻訳
『自分を自分だと認識するのは、生来備わった能力ではなく、鏡を見るなどの学習を通して身につけるものであること。また、脳の電気的パターンを解析することでコンピュータ上に夢を再現することも可能ではないかと考えられていること。さらには、人工脳の研究が行われていること』
などを丁寧(ていねい)に紹介しました。つまり、『"私"は何者なのか?』 、および 『自分を作り上げているものとは何なのか?』 という自我(じが)と魂(たましい)に関わる深遠な質問に答えようとする意欲的な内容でした。
まず、一人ひとりのアイデンティティーや自我はどのように創られるのかを脳と心理学の研究から理解しようとします。もちろん、科学者ではない視聴者にも子供がさまざまな経験をすることによるであろうことは容易に想像できますが・・。この推論を確認するために、『1歳3ヶ月の子供は鏡に映る人物が自分であることを認識できませんが、数ヶ月年長の子供はそれができること』 を実験で示しました。人が一生続けることになる自己発展が始まったのです。
ついで、3歳の子供はクッキーが描かれた箱を見せられると、中にクッキーが入っていると思いますが、その予想と結果が異なると、予想したことは忘れて結果の方だけを認識し、最初からそれ(クッキーでないもの)が入っていたと認識そのものを変えるのです。しかし、4歳になると、異なった事実を客観的に理解できるようになることを実験で確認し、この成長段階で子供が自分というものを客観的に認識し始めたことを示しました。
この機能は頭脳の海馬(かいば)による働きであることが科学的に確認されていることであるとして、癲癇(てんかん)の治療のため海馬の一部を削除する手術を受けた患者は癲癇による発作が軽減するとともに、アイデンティティーが失われることも確認されました。つまり、海馬が、記憶の創造だけではなく、アイデンティティーの機能も担っているのです。その傍証(ぼうしょう)として、未来の自分を考えるときにも、記憶が大きく影響することが記憶の実験から分かっていることと、アルツハイマー患者は記憶の一部を失うことでアイデンティティーに変化が生じるという事例を挙(あ)げました。
『もし、記憶が書き換えた場合はアイデンティティーも変わるのでしょうか?』
の問いにも答えました。自分の記憶と隣人たちの言うことに矛盾(むじゅん)がある状況を準備した心理実験では、社会的な(人間関係による)プレッシャーの有無にかかわらず、自分の考えを変えてしまうことを確認。その時は、大脳皮質側頭葉の奥深くにある大脳古皮質の一領域である海馬だけではなく、同じく側頭葉内側の奥にある感情的な反応処理と記憶を司る扁桃体(へんとうたい)も活発に活動していることが計測されたというのです。つまり、記憶が書き換えられたのです。
『それでは、自らのアイデンティティーを再構築できるのでしょうか?』 驚くことに、その技術が実現されつつあるというのです。人は他人の気分に合わせる(影響される)傾向がありますが、そのような影響を受けない夢を見ていたときはどうでしょう。目覚めたあとの「夢の記憶」は多くの感情的な断片の連続であり、夢を見ているときには脳の視覚野が活発に活動しているのです。この事実から、コンピュータを利用して視覚に蓄積されるイメージを記録する手法が開発されました。注、事前にさまざまなパターンを被験者に見せながら脳の活動パターンを計測する手法で簡単なイメージを記録することが可能となる技術
脳にはさまざまな記憶があって、人のアイデンティティーを作り出していますが、成人してからのちも新たな経験をすると脳内に新しい神経回路(ニューロン)が追加されて新しい長期記憶となることが分かったそうです。また、特殊な薬で記憶が消去されることも確認されたのです。特定の記憶だけを選別して消去することはまだできませんが・・。ただし、つらい記憶により発症する一種の記憶障害(PTSD)は神経回路が形成されて長期間続きますが、その記憶を思い出したときに薬物投与と精神治療を行うことによって記憶が書き換えるられる(PTSDの症状が軽くなる)事例を紹介しました。
最後に、『"自分"は何者か?』 の問に答えるかもしれない新しい取り組みとして、コンピュータで人間のアイデンティティーを創る研究が進められていることが紹介されました。大脳新皮質に注目した手法で、小さなデータを処理して統合する並列コンピュータチップを使用して実現する技術です。現状はまだまだ小規模ですが、可能性を秘めた研究であるとの言葉で番組を締(し)めくくりました。
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