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2016年8月 5日 (金)

デイヴィッド・J・ハンズ著「偶然の統計学」を読む

2015年8月に早川書房から発刊された「偶然の統計学」(1800円+税)を手に取りました。私には、邦題にやや違和感があり、読む前から英文の原題"The Improbability Principle"(ありそうにないことの原理、つまり「ありえなさの原理」)の方が素直なように思われました。私の直感はさて置くとして、ソフトカバー本の黄色地でシンプルな表紙をめくりました。注、著者のデイヴィッド・J・ハント氏はインペリアル・カレッジ・ロンドン数学科名誉教授

                          ☆

 

中表紙の裏側には『真に異例な日というものがあるなら、それは異例な事態が何も起こらない日のことだ』(パーシ・ダイアコニス)との意味深長な言葉が引用されています。

 

「前置き」の項は『本書のテーマは到底起こりそうにない出来事である。考えれば考えるほど起こりそうにない物事がなぜ起こるのかについて語っていく。なぜ次々起こるものなのかも解き明かす』 との言葉ではじまった。

 

1章 不可思議なこと

 

著者は不可思議なこととして、「まったくもって信じがたい」(偶然と呼ぶことは無理がありそうな)事例を世界各地からいくつか列挙したあと、『十分に起こりそうにない出来事は起こりえない』(つまり、確率が十分に低い事象は決して起こらない) とする「ボレルの法則」を引用して読者を困惑させる。著者が説明しようとする「ありえなさの原理」(確率の低い出来事は次々起こる)とは明らかに相容(あいい)れない。しかし、著者はこの矛盾を解消するというのである。

 

2章 気まぐれな宇宙

 

出来事の背後にある原因を理解したいという本能的な欲求に突き動かされ、私たち人間はパターンを、出来事の連鎖を探す。そして、迷信が生まれ、予言する能力を持つという人が出現し、神々による奇跡が信じられ、信仰としての超心理学と超常現象が語られ、これらがシンクロニシティー(共時性)・形態共鳴 などの考えにつながった。17世紀から20世紀初頭までの間に進歩した科学は「時計仕掛けの宇宙」(はっきりした道筋を時々刻々進んでいる宇宙)の自然観を生んだが、20世紀を通して長足の進歩を遂げた科学は 『ランダムさと偶然が根底にある確率の基本法則が宇宙にも当てはまる』 ことを我われに理解させるようになった。

 

3章 偶然とは何か?

 

偶然には驚きの要素が必要であり、超自然と捉(とら)えがちであるが、科学的には確率という概念が長い時代を経て受け入れられるようになった。その過程において、偶然を定量化する試みがニュートンなどの科学者やケインズなどの経済学者によって行われてきた。興味深いことに、確率論が最初に注目された領域はギャンブルである。つまり、サイコロを振った時に出る目やコイントスで表と裏が出る頻度(ひんど)についての考察である。
 
確率論の研究が進展して2つの事実、「本質的に不安定な系が存在すること」(バタフライ効果)と「何ものも完璧な精度では測定できないこと」(不確定性原理)が旧来の決定論(時計仕掛けの宇宙)の正確さに疑問を投げることとなった。注、前者は 『アマゾンのジャングルにおける蝶のはばたきが、不確かさの仕組みで増幅され、地球の裏側で暴風が起こる』 可能性があるという考えであり、後者は量子力学においてよく知られるハイゼンベルグの不確定性原理である。

 

著者が「ありえなさの原理の表れ」を解説する、4章 不可避の法則、5章 超大数の法則、6章 選択の法則、7章 確率てこの法則、8章 近いは同じの法則、9章 人間の思考(思考に癖がある)、10章 生命・宇宙・その他もろもろ、の各章についての説明は省略する。

 

11章 ありえなさの原理の活かし方

 

『到底起こりそうにないとみなす出来事が起こるのは、私たちの理解が誤っているからだ』 と著者は指摘する。つまり、『そう見えたことを疑う根拠が存在することをもって、ほかの説明を探すことが統計学的な推論の基本である』 ともいう。

 

結び

 

著者は、古代ローマの文人ペトロニウスの言葉 『偶然はそれなりに理由がある』 を引用し、ありえなさの原理はアインシュタインの特殊相対性理論の帰結 ”E=mc2” のように1つの数式ではなく、より糸の集まり(前述した多数の法則の集合体)であるとした。つまり、「不可避の法則」によると、何かが必ず起こる。「超大数の法則」によれば、機会の数が十分にたくさんあれば、どれほどとっぴな物事も起こっておかしくなくなる。「選択の法則」に言わせると、事象が起こったあとに選べば確率は好きなだけ高くできる。「確率てこの法則」によると、状況のわずかな変化が確率に大きな影響を及ぼしうる。「近いは同じの法則」によれば、十分に似ている事象は同一と見なされる。これらの法則を再確認することで、「尋常ではない」出来事にもほとんど驚かなくなるとして、数件の事例を紹介して本文を締めくくった。

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