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2016年12月13日 (火)

日本が壊れて行く: 世界情勢の流動化と日本経済の先行き

先月(10月)の有効求人倍率(仕事を求める人一人当たりの求人数)が1.40倍と25年2か月ぶりの高水準になったことが報じられました。特に、東京都は2.07倍で全国一の高さになりました。そして、11月の上旬から為替市場でドル高と株式市場での株価上昇が続いています。しかし、景況感に変化はあまり感じられません。本当に国内の経済情勢は急速に改善しているのでしょうか。

 

過去20年間の平均賃金の変化は年代による差はあるもののおおむねプラスマイナス2-5%の圏内で推移しています。つまり、平均年収は400万円前半(2015年は420万円)で停滞しているのです。約20年前の1997年に467万円であったことと比べればまだ低水準にあることは明らかです。また、減少傾向にある正規社員と比率が増大する非正規社員(そして男女間)の賃金格差は相変わらずであることにも注目する必要があります。

 

このような矛盾する状況をどう考えれば良いのでしょうか。日本経済は生産性の低下と少子高齢化による労働人口の減少により、外的な要因に大きく左右される虚弱体質になりつつあるのではないでしょうか。この1か月の出来事による大きな日本経済の変化がそれを如実に物語っています。

 

11月8日に行なわれたアメリカの大統領選挙は大方の予想を裏切って当初は泡沫(ほうまつ)候補ともいわれたトランプ氏が選ばれました。ニューヨークの株価は直後に急落したものの、その後は上昇に転じてダウ平均株価は1万9千ドルを超える史上最高水準に達しました。事前に株式を空売りしていた投機筋が慌(あわ)てて買い戻した、いわゆる、トランプラリーのためです。加えて、減税の推進・公共投資の拡大、アメリカの利益を優先する外交政策(TPP脱退とFTAによる2国間交渉への転換、密入国者の阻止と母国への送還、海外に展開する米軍の駐留費用の相手国負担など)を市場(投機筋)が好感したのです。

 

もちろん、今秋から顕著になったアメリカ経済の好調さが市場に安心感を与え、FRBの利上げが12月に行なわれることがほぼ確実になったこともドル高を支える要因になっています。ただし、ドル安がアメリカ経済に好ましいと考えるトランプ氏が大統領に就任する来年1月以降はドル安(円高)傾向へと潮目が変わることは避けられないでしょう。

 

目を隣国の中国に転じると、地政学的な緊張は高まっており、経済情勢もまだ底を打ったとはいえないことから、日本経済への悪い影響は当分続くと考えられます。そして、今秋勃発(ぼっぱつ)した韓国政治の大混乱はただでさえ低迷している韓国経済をさらに悪化させることは不可避でしょう。

 

欧州においても、イギリスのEU脱退、イタリアにおける政治と経済の混乱、フランス、ドイツ、オーストリアなどにおける右翼政党の躍進など、先行き不安を予感させる状況が顕在化(けんざいか)しています。

 

また、11月30日には、これまで困難と思われていたOPECの減産(日量120万バレル)が8年ぶりに合意されました。過剰供給を解消することで原油価格を下支えし、加盟国の財政悪化を食い止める狙いがあります。この原油価格はドルとの相関関係にあるためドルの上昇をもたらす効果もあります。つまり、円安要因になるのです。

 

日本国内ではこれらの海外情勢の変化に無頓着な論議が国政の場で繰り広げられていることはいつか来た道を想起させます。楽観的な将来展望と国政の場における数の論理による傲慢さが激変する世界情勢を敏感に捉える感度を鈍らしているようです。度重なる国会議員の失言に留まらず、「田舎のプロレス」などの暴言が出るのはその証左でしょう。

 

ちょうど4年が経過したアベノミクス(今年6月に発表された第二弾)の目玉である「一億総活躍社会」はどうなったのでしょうか。扶養者控除の見直し(注、限度額が150万円に留まるため対象者はほぼパートタイマーに限定)を除けば、具体的な政策はおろか、どのような論議が行なわれているのかさえ一向に聞こえてきません。やはり、政策の中身は以前と同じまま看板を架け替えただけのようで、国会で声高に論議されているのは年金改革法案だけのようです。「年金100年安心プラン」と命名された改正年金制度改革(2004年に第2次小泉内閣が法制化)についても、今後100年間は現役世代収入の最低50%を保証するものでしたが、現政府は年金水準を済(な)崩し的に切り下げて年金会計を改善することだけに熱心です。目的は年金積立基(約130兆円)からの年5兆円前後ともいわれる取り崩し額を減らすことです。

 

これらを踏まえて今後の日本経済がどのように推移するかを考えて見ましょう。上記したように、日本経済は構造改革が御題目だけで具体化されていません。このため企業の国内における投資意欲は相変わらず低く、生産性の向上は期待できないことから、賃金の上昇に裏付けされた消費意欲の向上は実現しそうにもありません。一方、GDPに与えるプラス要因としては補正予算による景気刺激策がありますが、これまでの実績から見て明らかなように、カンフル注射のような一過性のものに過ぎないことは論を待ちません。

 

消費を刺激するには賃金の上昇が不可欠であることを百も承知である政府は、痛みをともなう経済改革を推進するのではなく、昨年に続いて経済団体に賃上げを要請しました。自由な経済活動が保証されているはずの日本においては極めて異例なことです。経済団体は政府の要請を受け止める姿勢を示していますが、ベースアップには慎重であり、一時金などの増額で対処する意向のようです。それでは消費の活性化には限定的な効果しかもたらさないでしょう。

 

これによって賃金上昇は特定の分野においては数字に反映されるのでしょうが、昨年と同様、その対象者は大企業の正規社員に限定され、非正規社員や企業の90%以上を占める中小企業の従業員は蚊帳(かや)の外になりそうです。これによって賃金格差がさらに拡大する弊害が生じることは不可避でしょう。

 

上述したようにアベノミクスが始まって4年が過ぎましたが、構造改革をともなう国際競争力の強化(つまり生産性の向上)は遅々として進んでいません。したがい、国際情勢に揺さぶられながら、日本経済は一進一退を続けることになりそうです。OECDが予想する年率1%のGDP成長も楽観的な予測だと思われます。来年も、恣意的(しいてき)で強気な経済予想に惑わされないで、株式や外貨への投資には慎重であるべきだと考えます。それは、トランプラリーによる短期的な効果は、来年に入ってトランプ政権が発足して政策がどのように実行されるかを見るまで、予断を許さないからです。

 

このように、日本の経済は停滞が続いて1960年代以降の英国における経済停滞(注、社会保障費負担の増加、国民の勤労意欲低下、既得権益の発生などの問題が原因)、いわゆる英国病と同じ状況な陥りつつあるようです。ちなみに、名目GDP(国民総生産:生産活動により産み出される付加価値)はバブル経済が崩壊した1990年から約450兆円の水準を挟んで上下し、これまでの四半世紀でわずかしか成長していない(今年は約520兆円と予想される)のです。(注、名目GDPは0-2%のレンジで、実質GDPはデフレ効果により漸増で推移)
 
この状況下、茹(ゆ)でガエルと同様、日本国民は何かがおかしいと思いながら、何とか生活が立ち行くことで、表立って苦情を申し立てていません。経済成長を経験していない若年層は生まれた時からのデフレ経済に諦めの気持ちが強いようです。
このため、賃上げを求めるストライキは1980年代後半に激減してからはほとんど起きていません。これは労組の組織率が終戦直後の約60%からオイルショックやバブル経済の崩壊を経て低下し続けて、最近は20%を割っています。日本固有ともいえる企業別労働組合が圧倒的に多いことと、最近は非正規社員の増加が労組の組織率を押し下げる要因になっています。しかも、その労組が最近は賃上げや待遇改善よりも雇用の確保を最優先課題としているのです。

 

最後に日本の現状を示す1915年のデータを紹介します。アジアにおける一人当たりの国民所得です。第1位は金融・貿易・国際ビジネス拠点・観光・高度工業製品の生産などでバランス良く成長し続けるシンガポール(約600万円)、第2位が日本(約530万円)、第3位ブルネイ(約400万円)、第4位韓国(約300万円)、第5位マレーシア(約120万円)、次いでトルクメニスタン、中国、タイ、モンゴル、インドネシア、フィリピンとなっています。注、台湾(約180万円と推定)を除く (出典: 国際比較統計ほか)

 

一方、一人当たりのGDPでは、マカオ(約770万円)、シンガポール(約550万円)、香港(約460万円)、日本(約360万円)、ブルネイ(約340万円)、韓国(約300万円)、台湾(約240万円)、マレーシア(約105万円)、モルジブ(約100万円)、中国(約90万円)、タイ(約60万円)の順。注、突出するマカオはギャンブル(GDPの約7割)を含む観光業に、そしてブルネイはもちろん石油と天然ガス産業に依存している (出典: 世界のランキングほか)
 
世界における一人当たりの順位では、GDPが第27位で先進国最下位、輸出額は第44位、GDP生産額はG7平均以下、研究開発費は第10位、ノーベル賞受賞者数は第39位、オリンピックにおけるメダル獲得数は第50位と、国ごとの比較とは大きく異なる状況があります。これはひとえに日本の人口が1億人以上と、先進国ではアメリカに次いで第2位(注、ロシアは1.4億人)であることによります。出典: デービッド・アトキンソン著「新・所得倍増論」(東洋経済新聞社刊)
 

これらの統計データに納得が行かない方は多いかもしれません。日本人は教育水準が高く勤勉であり、しかも長期間のバカンスを取得する欧米人より長時間にわたって働いているのにそれらの国々やアジアの新興国であるシンガポールより貧しくなってしまったのかを理解できないことでしょう。実は、その転機は37年前の1979年に発行されて注目されたアメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲル氏の著書"Japan as Number One"(ジャパン・アズ・ナンバーワン)と1991-1993年のバブル経済の崩壊期にあるのです。日本経済が驚異的な興隆のあと、わずか10年あまりの短期間で衰退に陥(おちい)ったメカニズムについての私見を近いうちに投稿したいと思います。

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