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2017年4月12日 (水)

中西輝政著『日本人として知っておきたい「世界激変」の行方』を読む

世界情勢が激動・激変し始めるとの認識について、-4か月前の当ブログの記事「日本が壊れて行く: 世界情勢の流動化と日本経済の先行き」と「汎アメリカ主義が復活する?」で触れて、EUからの離脱の可否を問うイギリスの国民投票において離脱が僅差で決まったこと、アメリカの大統領選挙で大方の予想に反して実業家のトランプ氏が大統領に選ばれたこと、中国を取り巻く地政学的・経済的なリスクが継続していること、そして韓国では政治的な大混乱(大統領の失職)が生じたことの4つを挙げました。最近になってその具体的な影響が連日のように報道されています。

 

世界情勢の動向についての理解をさらに深められる書籍を探したところ、PHP新書の最新刊『日本人として知っておきたい「世界激変」の行方』(中西輝政著、2017年1月)を見つけましたので、その要旨とポイントを紹介します。ちなみに、当ブログ記事「ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階」で京都大学名誉教授中西輝政氏の著作「なぜ国家は衰亡するのか」(1998年)を紹介しています。
 

                            ☆

 

本書のカバー裏書には、『<内容紹介> トランプ大統領の誕生と「孤立主義化」するアメリカ。覇権主義的動きを強めるロシアのプーチンと中国の習近平。激震のEU。「地獄のオセロゲーム」と化すアジア・・・。すべての構図は「グローバリズムの終焉」とそれに伴う「アンチ・グローバリズム」「オールド・グローバリズム」「ネオ・グローバリズム」という三勢力の相克から読み解ける。いま直面する「危機」を考えるとき、もはや日本は「普遍的価値」も捨てるときは捨て、自らの生存を最優先に考えねばならぬ――現在の世界を動かす大きな流れを読み抜き、日本人の覚悟を問う、刮目(かつもく)の書。』 と書かれています。

 

<要旨> 章ごとにキーワードとその説明を箇条書き風に列記します。注、かなり長くなってしまいましたから、興味を持たれた部分だけを拾い読みされることをお勧めします。

 

第一章 トランプのアメリカで世界に何が起きるか
 

●グローバリズムの終焉(しゅうえん)にともない、それがオールド(旧)とネオ(終末期の堕落形態)の2つに分裂し、アンチ(反)・グローバリズムの三者が「三すくみ状態」)になった状況が、トランプ大統領を生んだ

●アメリカが、建国以来の理想を捨て、「普通の国」としてひたすら国益を追求するトランプ

●トランプはポピュリストではなく、稀代(きだい)の戦略家であり、究極の現実守護者・ニヒリスト

●したがって、旧来の観念的な「普遍的価値」はもはや決定的に時代遅れ

●日本と日本人にとって最も重要な目標は「自立」の二文字

 

第二章 日露“北方領土”交渉と売国の危機
 

●日露交渉の「夢」と「悪夢」

●狂騒的な日露接近の契機となった「八項目の提案」

●北方領土問題の「理」は明らかに日本にある

●「サンフランシスコ平和条約で放棄」説は明確に誤り

●「二島返還」であれば、いつでも誰でも妥協できた

●「新しいアプローチ」の正体は日本の最も大切な立脚点を自ら放棄する交渉アプローチ

●日露接近では中国を牽制(けんせい)できない

 

第三章 介入か孤立か――パックス・アメリカーナの行方
 

●アメリカにとっての「理念」と「国益」は周期的に振れ幅が大きい

●積極的な外交政策である「対外不介入主義」と消極的な政策の「孤立主義」とは異なる

●初代大統領ジョージ・ワシントンが掲げた理念は民主主義を守るための「対外不介入主義」

●アメリカは「孤立主義」だけで生きていける国

●地球上でわれわれだけが普遍的な価値を守れるという殺し文句(理想主義のレトリック)で湾岸戦争に踏み切ったが、中東介入が挫折したことで民主主義が裏切られて「帝国への道」となった

●つまり、「アメリカの理念」はどちら向きにもなる

●パックス・アメリカーナ(アメリカの平和、冷戦後の世界に君臨)の三つの指標は「アメリカ経済の力強い回復」「テロとの戦い」「南シナ海に大きく膨張し続ける中国への対応(アメリカの掲げる航行の自由を守る戦略)」

●「米軍の抑止力」の本質は相手国とのあいだで武力衝突が起きないようにすることだけが目的であり、いったん衝突が起こればそこから先は別の段階(シナリオ)になるとする考え方

●第二次大戦後の世界秩序の崩壊: 中国の南シナ海域領有(軍事拠点化)、ロシアによるクリミア占領、北朝鮮の核武装化

●冷戦時代にソ連の封じ込め戦略を立案したジョージ・ケナンの慧眼(けいがん): ソ連の崩壊後、アメリカは、国力に余裕のあるうちに、常識的で持続可能な外交戦略に転換すべきと主張

 

第四章 「グローバリズムの限界」に直面し流動化する世界
 

EU(欧州連合)からの離脱を決めたイギリスは世界の激動の先導役となり、パックス・ブリタニカ(イギリスの平和、つまり世界の経済・政治秩序)が復活する

●グローバル経済の限界に気づきだした金融界

●民主主義の「敵」としてのグローバリズムがイギリスのEU離脱とギリシャの債務危機における国民投票を通して明らかになった

●アングロサクソンの覇権(はけん)を取り戻すための「嘘」がドルを基軸通貨とする金融グローバリズムである

●ソ連崩壊後の世界で、共産主義や全体主義、アジアの封建主義などを一掃し、「自由」「人権」「法の支配」といった普遍的価値観を再確立するシナリオが、湾岸戦争やイラク戦争、アフガン戦争などでイスラムをひどく圧迫したことで綻(ほころ)びが見え、世界が大きく乱れだした

●歴史を転換させた1979年の五つの出来事: イランのホメイニ革命、ソ連のアフガニスタン侵攻、ローマ法王ヨハネ・パウロ二世の母国ポーランド訪問、中国で鄧小平によって始められたる経済改革、サッチャー政権の成立(翌年はサッチャリズムに倣ったレーガノミクスも)

EUはアメリカが冷戦を戦うための「入れ物」(ヨーロッパのアングロサクソン化)だった、ASEAN(東南アジア諸国連合)、日米安保、NATO(北大西洋条約機構)なども同じである

●原理主義化した「グローバリズム」がもたらした破壊と混迷

●東西ドイツの統一(1990年)によって強大になったドイツを羽交(はが)い絞めに(つまり監視)するための逆張りがEUである

●サッチャーが直面した矛盾(ヨーロッパ統合への反対、貿易障害のない単一市場の利点、スコットランドの独立運動)は自身の失脚(1990年)につながった

●しかし、イギリスにはいわれるほどの「EU依存」はない: ヨーロッパで繁栄しているのはドイツとイギリスだけ

●「アメリカを動かせるイギリス」は安定の要: EUに加盟する東ヨーロッパはドイツ経済圏、西ヨーロッパにとって安全保障上の最大の脅威はイスラムテロとロシアの存在

●ドイツはロシアとの「相互理解」に向かう

●英米の「血の同盟」から見た世界: NATO、金融資本、グローバルな監視機構(インテリジェンス)

●ヨーロッパが再び「動乱の巷(ちまt)」と化す日: ドイツと東ヨーロッパ各国のロシア接近

EUの立ち枯れと形骸化(けいがいか)の動向は不可避

 

第五章 「地獄のオセロゲーム」化するアジア
 

●中露は相互の「核心的利益」を死守すべく結束した

●日米を引き離し、アメリカをアジアから追い出す

THAAD(高高度ミサイル防衛体制)ミサイル配備をめぐる中露と米韓の対立

●2016年6月、日本の海上自衛隊およびアメリカ海軍とともに海上共同訓練を行ったインドが上海協力機構に正式加盟する見通しとなったことは国際政治の常道である(不可思議ではない)

●国益のため日中を「秤(はかり)にかける」アジア諸国とアメリカの中国を見る「複雑な視線」

●日本の高度経済成長時代に唱えられた「雁行(がんこう)的発展モデル」は「鳶(わし)」の登場で四散する: 例、日本の後を追って経済成長を遂げようとしたASEANを中国が攪乱(かくらん)、南シナ海問題における対中包囲網の形勢が逆転して逆包囲網化

●日中に「両張り」するアメリカ: 政策決定に大きな影響力を持つのは国防総省(ペンタゴン)や国務省ではなく究極の国益であるドル基軸通貨体制の維持を主導する金融業界である

●ロシアとドイツが接近する悪夢はヨーロッパだけではなく、中露同盟とともに、歴史的(注参照)にも地政学的にも、悪夢の再来が濃厚になる恐れがある。注、ソ連のスターリンとドイツのヒットラーが電撃的に締結した独ソ不可侵条約

●中国とドイツが手を携える恐怖: 例、AIIB(アジアインフラア投資銀行)、一帯一路構想(21世紀の陸海シルクロード)、戦前ドイツが行った中華民国への人的・武器支援、中国市場におけるドイツ車フォルクスワーゲンの圧倒的な覇権

●イギリスがEUから離脱するとヨーロッパの最新軍事技術がフランスなどから中国に流れる危険性が高まる

●イギリスは今後、親中に動くかは不透明: 習近平主席の訪英(2015年)、中国の融資で中国メーカーによる原子力発電所の建設計画

●「中露独の三国同盟」に日米同盟は対抗できるか: 日本が清と結んだ下関条約(遼東半島の割譲)に対する「三国干渉」(1895年)はドイツが陰で中露双方を操って対日恫喝(どうかつ)の行動に出させたことを思い起こされる 注、三国目のフランスは孤立を恐れて参加した

 

第六章 これから十年、日本はどうすべきか
 

●国際社会のなかで生き残るためには、「早く見つけ」、「ゆっくり行動し」、「粘り強く主張し」、「潔く譲歩すること」が肝要である

●アメリカの方向性を決めているのは誰か: 国防総省でも国務省でもなく、ドライなニューヨークの現実主義であり、その代表的なのがウォール街やメディアである

●CFR(外交問題評議会)の対中戦略が親中から中国批判に変わってきた

●ヨーロッパのかつてない「極右化」を理解するにはそれぞれの国の「空気を読む」ことが不可欠

●中国共産党が経済危機を乗り越えた先の未来: 中国経済の落ち込みも2030年までには回復すると考えられ、同時に国防予算でアメリカを上回る、さらに2030年代にはGDPでも追い越す可能性がある

●日本は幕末の長岡藩が「重武装の局外中立」という路線を選択して失敗したことに学べ: 自力をつけることは大事だが、大勢(たいせい)を見て行動をすることも大事である 注、重装備とは英国製大砲などの最新兵器、局外中立は独立独行の姿勢

●「大きな底流」を見つけるための2つのシナリオを考察: アメリカが中国になびくシナリオではこの二国についていく、あるいはアメリカが中国との妥協に走り始めればもっと先を走る(いずれもリスクは高いが)

●大事なのはアメリカに「位負け」しないこと: 観念論ではなくプラグマティズム(実用主義)で国益を守ることは、「新しいパートナを増やす」「新しい時期がきたと肯定的に捉えて自立を目指す」、「このため大事なときだけアメリカの力を利用する」ことがひつようであるが、アメリカを利用するにはイギリスのように「位負け」しない外交が不可欠

●いまこそ突き抜けた歴史的思考を持て: 日本の針路をめぐる戦いの最大の激戦場は「戦後」への終着と「冷戦後」に固執する勢力が根強い「国内」であり、いかにそれらを正すかが肝要である。ちなみに判断を間違わせる大きな要因は、「新しい見方に惹(ひ)かれること(古い考えと決めつけること)」、「多くの人がそういっていることを根拠にすること」、「わが国に都合が悪いことは口にするなという集団主義的やタブー間隔に発する自己規制」など
 
                             ☆
 
 

<読後感> 「なぜ国家は衰亡するのか」の著者らしく、大局的(巨視的)な視点からの分析により「世界激変の行方」を大胆に分析して、その中で日本はどう対処すべきかを明快に提言する良書である。なかでも、パックス・アメリカーナとパックス・ブリタニカを歴史的視点から詳しく解説し、EUが設立された背景と冷戦が終了したあとの戦略におけるアメリカの失敗、EUの起源や意義、中露と独の関係(各国のパワーバランス)など学ぶことが多い。
 
世界に拡散した経済のグローバル化と民主主義が相容れなくなった事例として、イギリスのEU離脱(自国の独立性を選択)とギリシャのEU残留(EUの恩恵を受けるために自国の緊縮財政や行政サービスの削減などを受け入れた)を挙げて詳しく説明し、グローバルな自由経済主義がもはや限界に直面していることを容易に理解させてくれた。
 
<あとがきにかえて>崩れゆる世界秩序の項においては、いま世界はむしろ「よい方向に向かって動いている」のであると筆者が強調したことが印象的であり、次作においてはその先にある「もう少し素晴らしい新世界」について論じたいと思っていると締めくくったことは大いに期待が持てる。

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