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2019年5月12日 (日)

又吉直樹著「劇場」を読む

又吉直樹氏の処女作「火花」に続く第二作である「劇場」(20175月新潮社刊)を読みました。文藝春秋社から発行された前作とは異なるモノクロの無機質な画を装丁した表紙を捲(めくる)と、『まぶたは薄い皮膚でしかないはずなのに、風景が透けて見えたことはまだない。(中略)あきらめて、まぶたをあげると、あたりまえのことだけれど風景が見える。』 という唐突な文章で本文が始まりました。
 

[粗筋]
 

8月のある午後、新宿から三鷹の家へと向かっている主人公の永田は代々木体育館の脇を過ぎたところにある画廊の前で見かけた若い女性に思わず声を掛けた。自分でも訳が分からないと思う言葉を交わすうちに永田は近くのカフェでアイスコーヒーをおごってもらうことになる。その女性は青森県出身の沙希(さき)、高校卒業後すぐに女優を目指して上京し、現在は服飾の大学にも通っているという。永田も問われるままに無名の劇団で芝居の脚本(ほん)を書いている大阪出身者であると答えた。
 

沙希を相手にくだらないことを長々と話した後、郵便局のATMで残金1万円を下ろした永田は適当な店に入って二人でパスタを食べた。夜の匂いがする公園通りを抜けて渋谷駅まで歩いたところで二人は別れる。連絡先を交換したものの電話をかける理由がなく、携帯電話でメールだけは何度か送ったが、内容はどうしようもないものばかりで、再会を果たせるかどうかが気がかりである。そして、永田には十月に下北沢の駅前劇場で公演を控えていることも不安の一つだった。
 

公演の準備に追われる永田は沙希とメール交換を続けてはいたが、脚本がほぼ完成したような気持ちになったことで、劇団仲間のアドバイスにしたがい、渋谷に家具を見にゆくことを口実にメールで沙希を誘う。渋谷の西武百貨店のあたりで午後五時に待ち合わせた二人はあてもなく歩き始める。驚いたことに沙希は美容師やら雑誌の編集者やらに信じられないほど声をかけられるが、知らない人と話したくない永田はそれらの人々を無視する。結局、適当な家具屋にはたどり着けず、夜になっても二人は歩き続けた。こうして二人の付き合いが始まる。
 

脚本を書き上げた永田は女役に沙希を起用することを決める。沙希のキャラクターが劇作家と一緒に暮らす女の役にふさわしいと考えたのだ。本番まで三週間しかなかないことで永田はさっそく沙希のアパートを訪れる。自室で原稿を読んだ沙希は意外なことに感動して泣き始めた。永田の提案に対して最初は『できないよ』 と言う沙希に永田はゆっくりと時間をかけて丁寧に説明する。そして、『やってみる』と沙希が口にした時には、窓の外が明るくなりはじめていた。(以下略)
  
 

[読後感]
 

演劇へ一途に取り組む永田と彼を見守りながら理解しようとする沙希との奇妙な出会いから数年にわたる交流が著者一流の文体で生き生きと表現され、永田の頑(かたく)なな性格によって次第に追い詰められて行く二人の精神状態の変化とついには避けられないエンディングへと繋(つな)がる様が見事に描かれている。前作に比べると、関西弁での会話が最小限に抑えられていることもあり、やっと私にも著者の卓越した文章力が理解できました。また、著者が持つ登場人物への暖かい思い遣りが行間から自ずと伝わったことも特筆すべき点でした。

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