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2019年5月 6日 (月)

菅野仁著「友だち幻想」を読む

筑摩書房から2008年3月に出版された掲題の新書(2018年4月初版第25刷)は『人と人の〈つながり〉を考える』 を副題としています。インターネット、なかでもSNSの普及によって急速かつ大きく変わったといわれる「人と人の繋がり」を考える上での参考になることを期待して、気軽な気持ちでこの本を手に取りました。
 

その裏表紙には『友だちは何よりも大切。でも、なぜこんなに友だちとの関係で傷つき、悩むのだろう。人と人との距離感覚をみがいて、上手に〈つながり〉を築けるようになるための本。』 とあります。ちなみに、目次は次の通りです。
  
 

[目次

はじめに― 「友人重視指向」の日本の高校生

第1章 人は一人では生きられない?

第2章 幸せも苦しみも他者がもたらす

第3章 共同性の幻想――なぜ「友だち」のことで悩みは尽きないのか

第4章 「ルール関係」と「フィーリング共有関係」

第5章 熱心さゆえの教育幻想

第6章 家族との関係と、大人になること

第7章 「傷つきやすい私」と友だち幻想

第8章 言葉によって自分を作り変える

あわりに――「友だち幻想」を超えて
   

[出版社からのコメント]

本書は、もともとは2008年に社会学を専門とする著者が人間関係で初めてつまずきを感じる多感な年頃の中・高校生に向けて書いたものです。他者との距離感についてもう少し敏感になることで、もっと豊かな関係を築くことができると説いています。今では学生だけでなく、老若問わず深く共感する声が多数寄せられています。と同時に、初学者向けに社会学を紹介するテキストとしても定評があり、中学から大学の課題図書や入試問題文としても繰り返し使われています。 
   

[要旨]

著者は「はじめに」から第1章と第2章において、友だちや人との付き合い方、つまり人間関係とは何かを教育者としての知見に基づいて分析し、『友だちは何よりも大切。でも、なぜこんなに友だちとの関係で傷つき、悩むのだろう。』 という疑問を取り上げた。つまり、過剰な〈つながり〉がもたらす息苦しさに目を向けたのである。かつての「ムラ社会」が貨幣が浸透するとともに変質し、お金さえあれば一人で生きることが選択可能と思われるようになったことで、逆に人のつながりが大切になっているが、 『一人は寂しい』 との感覚があると著者はいう。そして、「親しさを求める作法」が昔と違い、人と人のつながりには「利益をを得ようとする場合」と「つながることそのものが目的である場合」の2つがあると分析し、後者には「幸福そのものの歓び」と「他者から承認される歓び」(脅威の源泉になる場合も)があるという。
   

第3章では教育界でこれまで常識とされた共同性、つまり 『みんなと仲良くしなければいけない』 といったような人間関係の常識が幻想であったことを明らかにし、同調圧力により友情が強迫になることがあり、それとどう折り合いをつけるのかが課題となることを事例で紹介。つまり、「同調性」から「併存性あるいは共在性」(やりすごすという発想)へ発想転換することの意義を述べた。また、第4章では「ルール関係」(自由のために必要であるが最小限が望ましい)と「フィーリング共有関係」(負の部分がある)の考えを提起して人間関係の多様性を捉え、第5章では教育界で定着する上記の共同性が思い込みであることを明示し、「村社会的な人間関係」や「話せば分かる」はもはや幻想であると指摘した。
 

以上の検討結果を踏まえて、第6章と第7章で成長過程にある子供たちが家族(定位家族)との関係を通して人と人の関わりを学ぶ過程において他者と適切な距離を取ることが重要であることを詳しく解説した。つまり、他者を100%理解して受け入れることは極めて難しいことはもちろん、逆に「自分を丸ごと受け入れてくれる人がきっといる」 と考えることも現実的ではないと分析し、他者との関係を共有関係あるいはその真逆である拒絶関係として捉えるのではなく、相応の距離を保つ能力の重要性を明らかにして、社会人となる前にその能力を取得する必要性を指摘。つまり、人と人との距離感覚をみがいて、上手に「つながり」を築くことが生きていくために大切なことであると著者は言う。

 

第8章では相手の働きかけに対してきちんとレスポンスすることの重要性と他者とのコミュニケーションを阻害する言葉である「ムカツク」「うざい」「ていうか」「チョー」「カワイイ」「ヤバイ」「キャラがかぶる」「KY(空気読めない)」などの危険性に言及した。そして、「他者とのつながり」に必要な情緒や論理の深度を深める言葉を増やすためには読書が一番の早道だと指摘した。つまり、「言葉によって自分を作り変える」ことの有用性である。最後は、『他者への恐れの感覚や自分を表現することの恐れを多少乗り越えて、少々苦労して人とぶつかり合いながらも理解を深めることで人とつながることができるようになる。』 と締めくくった。
   
[読後感]

成長過程にある中高生だけではなく、様々な世代の社会人、そして豊富な経験を積んだ高齢者においてさえ難しい人間関係を根本から見直し、その改善策である「他者との適切な距離感を取る(敏感になる)こと」と「情緒を共振させながら他者との交流を通して生を深く味わうこと」の有用性を提示することで、生きる上で大切な「人との良いつながり」を可能にする手法を解説する実用的な良書です。

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