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2020年3月11日 (水)

ソリッドステートの歴史を振り返る(後編)

ここでコンピュータに使われた記憶装置(メモリ)の歴史を振り返ってみます。コンピュータの黎明期(れいめいき)である1955年から1975年ころまで、大型コンピュータの主記憶装置には主に磁気コア・メモリ(小さなドーナツ状のフェライト・コア、容量:4K64K)が使われていました。コアを磁化させることで情報を記憶させる素子の集合体です。不揮発性(ふきはつせい、意味は後述)ですが、読み出すと情報が消えるため、データを書き戻す必要がありました。

発明者はワング・ラボラトリーズ(1951年設立)の共同創立者である中国系アメリカ人のアン・ワング(Wang An/王安)博士。その特許をIBM社に売却してコンピュータ会社を立ち上げ、1980年代には従業員3万人、売上高30億ドルの大企業へと発展させました。ワープロ(Wordprocessor)で大成功しましたが、その後の経営戦略が失敗したことにより、1992年に倒産、イタリアのオリベッティ社に買収されて、コンピュータ業界で輝いた40年あまりの同社の歴史を閉じました。

20年後(1970年代)には磁気コア・メモリに代わって半導体メモリの"RAM"が主記憶装置の主流になり、集積度の高い”DRAM"(ダイナミックRAM)と応答速度が速い"SRAM"(スタティックRAM)をキャッシュメモリとして組み合わせる形で"CPU"(中央処理装置)の処理速度とバランスを取る形で現在に至っています。

補助記憶装置には紙媒体の鑽孔(さんこう)テープとパンチカード、オープンリール式の磁気テープが、そして1971年にIBM社が開発した8インチのフロッピー・ディスクが使われました。私の学生時代は機械語(コンピュータのプロセサーがそのまま理解できるプログラミング言語)のプログラムとデータが入ったパンチカードを、開発技術者になってからは"Fortran"(フォートラン、IBM社が開発した高水準言語)のプログラムとデータを入力したパンチカードを使ったバッチ(一括)処理またはTSS(時分割サービス)で設計データを検証していました。注釈:鑽孔テープはテレックス用に開発された記憶媒体、パンチカードは統計機用穿孔(せんこう)カード、フロッピーとは「柔らかい」ことを意味する(ハードディスクに対比した表現)

商用ハードディスクドライブ(HDD)の始まりは、1956年に出荷されたIBMのディスク記憶装置からとされています。巨大な装置であったため、コンピュータ室やデータセンターで使われました。1980年に"Seagate Technology" 社が5インチの小型 "HDD" を発売し、1981年にはIBM社からパーソナル・コンピュータ”"IBM Personal Computer"が市販されたことで、一気に"HDD"が普及しました。

いつまで訳の分からないことを書いているのかと思われた方が多いと思います。遅ればせながら本稿の主題である「ソリッドステート」の核心に移りましょう。今振り返ると"HDD"は私がアメリカで出会った"MacIntosh SE""MacIntosh  IIsi"でも使われていましたが、最近、パソコンの補助メモリー(パソコン内蔵の大容量メモリー)の代名詞であった“HDD"(ハードディスク・ドライブ)が"SSD"(ソリッドステート・ドライブ)に置き換えられ始めました。ちなみに、”SSD”と同じフラッシュメモリを使った小容量外付けメモリの「USBメモリ」は20年ほど前に製品化され、現在はフロッピー・ディスクに代わって広く使われています。

一方、“iPhone”などのスマホには"RAM""ROM"が搭載されています。前者は読み書き可能な揮発性メモリで、後者は読み出し専用(読み書き機能を持つものも有り)の不揮発性メモリです。 "SSD" よりもさらに消費電力が少ない利点からこれらのメモリが使われているのですが、スマホの利用者はこれらメモリの違いを意識する必要はありません。

"HDD"と互換性があり応答速度が速い"SSD"は、主にコストの理由でパソコンの主記憶装置(キャッシュとレジスターなど)以外の補助記憶装置に広く採用されることはありませんでしたが、比較的小容量(1GB以下)のメモリでは"HDD"との価格差がこの数年で小さくなり、応答速度を重視する機種に搭載されつつあるようです。また、外付け用の”SSD”も市販されるようになりました。つまり、30年の時間を経てやっとパソコン用の大容量メモリ技術が大きく変わりつつあるのです。注釈: "drive" (ドライブ)は「運転する」や「駆動する」を意味するが、この場合は「駆動装置」を指す

"SSD"に使われている技術(NAND型フラッシュメモリ、不揮発性メモリ)に類似する”RAM"、具体的には"SRAM"(不揮発性メモリ)と"DRAM"(揮発性メモリ)は上述したようにかなり前から大型コンピュータのメモリとして使用されていましたが、パソコンにおいては主にコストの理由でメインメモリー(キャッシュとレジスターなど)以外には広く採用されることはありませんでした。

しかし、製造技術の進歩(量産化)によってパソコンのように比較的小容量(1GB以下)のメモリでは"HDD"との価格差がかなり小さくなったことで、最近は応答速度の速さを重視する機種に搭載されつつあるようです。また、外付け"HDD"と置き換え可能な外付け用"SSD"も市販されるようになりました。注釈:不揮発性メモリとは電源を切っても記憶内容を保存できるメモリ、揮発性メモリは電源を切ると記憶内容が失われるメモリ

「何だ!」と言われそうな記事になりましたが、「企業」や「世代」だけではなく、「技術」の分野においても30年前後で大きな変換点を迎えることが多いことを実感した私は、"SSD"がパソコンに採用され始めた背景とその理由を書きたくなったのです。書き忘れていました!! エジソンがおよそ140年前の1879年に実用化した白熱電球(真空管の一種)は、1930年代の後半に実用化された蛍光灯(これも真空管の仲間)を経て、「ソリッドステート」である"LED"(発光ダイオード)に移行しつつあります。これは60年~90年と長い(遅い)ペースで進化した例です。

最後に蛇足です。上記したように"SSD"はまだ容量単価が"HDD"に比べて割高である一方、書き込み・読み出し時間が短く(応答速度が速い)、しかも寿命が長い("HDD"2‐3年に対して"SDD"5年と言われる)特長があります。しかし、万一故障した場合には"HDD"のように記録内容を救出することができませんから、容量の大きな外付け"HDD"でバックアップすると良いでしょう。私が以前から実行していることですが、使用頻度が低いデータ(ファイル)をパソコン内蔵の補助記憶装置("SDD"または "HDD")から一時的に削除(退避)すれば補助記憶装置の容量不足をカバーすることもできます。◇

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