大気汚染と地球温暖化を促進する化石燃料の使用を抑制する主要な施策の一つがガソリンあるいは軽油を燃焼させてエンジンを回させることで動力を得る現在の自動車が大きく変わろうとしています。自動車は18世紀(1769年とされる)に蒸気機関を用いた蒸気自動車として登場しました。史上最初の人工的な自動車です。実用化は1901年にイギリスのリチャード・トレビシックが行ったとされています。
そして、19世紀後半(1870年代から1880年代にかけて)にはオーストリアやドイツでガソリンの内燃機関を用いた自動車の製作や特許取得が行われ、1896年に米国のヘンリー・フォードもガソリン自動車を開発し、1903年に自分の名を冠したフォード・モーター社を設立しました。そして、1908年には改良したフォード・モデルTを発売し、自動車の量産化が始まり、旧来の馬車と蒸気自動車を駆逐して現在に至っています。
あまり認識されていませんが、電気をエネルギーとする車は古くから存在していました。初の電気駆動車はガソリンエンジを用いる自動車よりも半世紀ほど前の1835年、トーマス・ダベンポートが作ったものとされます。これは小さな鉄道線路の上を走る電気機関車であり、電気自動車とは呼べません。そして、架線から電力供給を受けるトロリーバス(無軌条電車)は世界の主要都市の公共交通機関として広く利用されました。
1882年にドイツのベルリンで世界初のトロリーバスである「エレクトロモト」が実験的に導入されました。そして、1900年に開催されたパリ万博でデモンストレーションが行われたことからヨーロッパ各地やアメリカにも伝わって実験導入に続いて実用に供されました。
日本では1912年(明治45年)に東京市電気局(現東京都交通局)よってトロリーバスの実験車両を使った実験運転が行われ、その後、東京都・川崎市・横浜市・名古屋市・京都市・大阪市など多くの都市で導入が進みました。しかし、交通渋滞の原因になるとして、都電・市電とともに廃止されて現在に至っています。ちなみに、現存する本格的なトロリーバスは長野県の立山トンネルトロリーバスだけになったようです。
一方、給電用架線と軌道(レール)を使わない電気自動車はスコットランドの発明家ロバートアンダーソンによって1840年ごろに造られたとする説があるようですが定説はないようです。1873年にイギリスのロバート・ダビットソンが実用的な電気自動車を世界で初めて開発したとされます。鉄亜鉛一次電池が使われたため充電できないことが弱点でした。ガソリンエンジンを使う自動車がより実用的であったため、つい最近まで電気自動車が注目されることはほとんどありませんでした。
しかし、充電可能な二次電池に溜めた電気を利用する電動機は動力源であるモーターの小型化が容易であること、加速性能に優れていること、モーターの音が静かであることから、構内を移動する車に広く採用されて、ガソリンエンジン車との棲み分けが進みました。その代表例としては、電動フォークリフト、豊洲市場などで使われているターレットトラック、ゴルフ場の電動カートなどがあります。
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上述したように150-160年という長い歴史がある電気自動車ですが、この20年ほどの間に技術が飛躍的に進歩したことにより、ガソリン自動車に取って変わることができる存在になりつつあるのです。最大の技術進歩は主要部品である二次電池においてです。これまで一般的であったサイズが大きくて重量が重い鉛蓄電器(1859年に発明)からニッケル水素充電池(1970年代に実用化)、さらにはリチウムイオン二次電池(1970年代に開発、1991年にソニーが商品化)への進化があります。
これにより、従来の弱点であった航続距離と充電時間が大幅に改善されたのです。二次電池の充電可能容量の増大と急速充電システム(家庭用と充電スタンド)が実用化されました。また、二次電池を交換する方式(カートリッジ式二次電池、つまりプロパンガス用ボンベと同じ考え)が検討されています。
とは言っても、ガソリンを燃料とする自動車の水準には達していませんから、さらなる改善が必要でしょう。このため、2種類以上の動力を用いるハイブリッド自動車あるいは充電が可能なプラグインハイブリッド自動車が当面主役の一翼を担うことになりそうです。また、夢の自動車と呼ばれて久しい燃料電池自動車は燃料電池のコストと燃料である液体水素の供給インフラが普及を妨げる大きなネックとなっています。
蒸気自動車と並ぶ古い技術であった電気自動車の実用化で先行したのはレースカーです。フォーミュラ・ワン(F1:Formula one)レースの電気自動車版といえる「フォーミュラーE(Formula E)」は2007-2008年度にスタートしました。アウディ、BMW、ルノーなどのヨーロッパ勢に加えて、中国メーカー、インドのメーカー、日本の日産自動車など10数社が参加しているようです。筆者はテレビ中継で「フォーミュラーE」のレース風景を観たことがあります。車体はF1カーと似ていますが、レースの場が市街地(F1のモナコグランプリ・メルボルングランプリと同様)であることと、主催者が提供する電動レースカーが発する音が独特なのです。
一方、市販された(一般用途の)電気自動車(BEV:battery electric vehicle)は2006年に世界初のリチウムイオン二次電池を搭載する市販車である三菱自動車の"i-MiEV"(アイミーブ)、2008年に発売された米テスラ社の「ロードスター」、2010年に発売された日産自動車のEリーフ、BMWの"i3"(2014年発売)、アウディの「eトロン」(2012年)、フォルクスワーゲンの「eゴルフ」(2014年)、プジョーの"e-2008"(2012年)と"e-208"(2012年)、メルセデスベンツの"EQC 400"、2020年に発売された(予定の)ホンダのHonda e(2020年)プジョー"e-208"、ポルシェの「タイカン」などがあり、ヨーロッパの自動車メーカーの積極性が目立ちます。中国には蔚来汽車(NIO)・比亜迪(BYD)・理想汽車など約50社が存在するそうです。
各国は電気自動車への転換を急いでいます。先ず、最も積極的と思われる中国は2025年までに新エネルギー車(電気自動車・プラグインハイブリッド車・燃料電池車が対象で2019年で新車販売台数約2,600万台の約5%を占める、注釈:ハイブリッド車は低燃費車の扱いで優遇)の国内市場占有率20%前後に、2035年に50%以上に、同時にエンジン車のハイブリッド化を100%とする方針を掲げています。しかし、補助金頼みの政策であるため、必ずしも順調とは言えないようです。ちなみに、2017年における中国市場の電気自動車販売台数は約58万台となっており、世界で販売される電気自動車全体の4割以上を占めていると推測されます。
中国が電気自動車の普及に積極的な理由は、まず深刻な大気汚染を挙げることができますが、世界一の自動車大国になったもののガソリン車における国産自動車メーカーの競争力がまだ弱いため、新しい産業と言える電気自動車の分野で一気に世界トップ水準に躍り出ることを目標とする産業政策があるようです。この政策は二輪車(バイク)においては成果が出ており、電動バイクではトップシェアの座を確保しました。
次いで、ヨーロッパではノルウェーが2025年にハイブリッド車を含むガソリン車とディーゼル車の販売を禁止、イギリスは2030年にガソリン車の販売を禁止、フランスとスペインは2040年にガソリン車の販売を禁止する方針を決めています。米カリフォルニア州はこれまでの規制である州内で一定台数以上を販売する自動車メーカーに対し、ZEV(排気ガスを出さない自動車)を一定比率以上販売することを義務付ける制度(ZEV規制)に加えて、2035年までにガソリン車販売を禁止する方針です。
一方、日本でも菅内閣は2030年代半ばにはガソリン自動車とディーゼル自動車の販売中止要請(ただしハイブリッド自動車を除く)を検討することを発表しました。なお、12月8日に東京都は2030年までには都内で発売されるガソリン自動車をゼロにする目標(呼びかけ)を発表し、国よりも積極的であることを印象付けました。しかし、新型コロナウィルス対策と同様、いずれにおいてもヨーロッパのような規制ではなく、自動車メーカーへの呼びかけ(協力要請)になりそうです。
日本ではハイブリッド車の比率がメーカーによって異なりますが、直近の新車販売では40-60%となっています。意外なことに一番低いのはプリウスなどのハイブリッド車で知られるトヨタ自動車が40%弱と低く、経営不振が伝えられる日産自動車が約60%と一番高い比率になっています。皮肉なことですが、ハイブリッド車の投入で遅れた日産自動車が苦肉の策で発表した簡易版ハイブリッド技術"e-power"が好評なのです。ガソリンエンジンを発電用だけに使う簡易な仕組み(つまり低コスト)が購入者に受け入れられたようです。
この動きは環境対策としての電気自動車拡大から新しい自動車産業において優位な位置を示そうとするヨーロッパと中国の産業政策の側面が重要視された現われのようです。今回もアメリカの政府とアメリカの自動車メーカーの動きが鈍い理由は石油産業が国にとって重要であるとの考えが根強いためと考えられます。また、ハイブリッド自動車を含むガソリン自動車で競争力がある日本はヨーロッパ諸国に比べると電気自動車において遅れをとりつつあるようです。
とは言っても日本の自動車メーカーが手を拱(こまね)いているわけではありません。日産自動車は2020年12月に発売した電気自動車「リーフ」をバッテリー容量と走行性能を向上させて航続距離を延長させたことにより、12月3日に世界での販売台数が50万台に達したことを発表した。そして、日産・ルノー・グループの一員である三菱自動車も「初代i-MiEV」の後継車を検討しているのではないかと見られています。
また、トヨタ自動車は12月9日に同社が究極のエコカーと考える水素で走る燃料電池車(FCV)"MIRAI" (ミライ)の二代目を発表しました。初代モデルが約740万円と高価格であることと水素ステーションの設置が進んでいないことから、初代の累計売上が世界で約1万台規模にとどまっていることを打開するため、二代目では低コスト化(約710万円)と走行距離を延伸する改良(約850㎞へ)を行うとともに、水素ステーション(現状は全国に約160か所)の追加設置を促進するとしています。
日本における課題は日本独自の規格である軽自動車の存在です。小型・低価格が魅力で普及していますが、簡易型のハイブリッド車は存在しますが、本格的なハイブリッド車はありません。上記した魅力、特に低価格がハイブリッド化を妨げているのです。小型車と普通車のハイブリッド化率は今後も上昇することは確かだと考えられます。軽自動車の2030年あるいは2030年代半ば以降は超小型EV化(例、トヨタ車体のコムス)が唯一の生き残りさくでしょう。
最後に電車自動車の普及状況に触れましょう。ブルームバーグNEFが2020年5月に発表した調査リポート「電気自動車の長期見通し2020」によると、『世界では現在、700万台以上の電動乗用車、50万台以上の電動バス、約40万台の電動バン&電動トラック、1億8400万台の電動スクーターや電動バイクが使用されている。そのうち、電動バスと電動二輪車の大半は、中国市場にある。』 と解説されています。◇
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