社会が分断されたアメリカの近未来は?
正月早々にアメリカのワシントンD.C.で発生した騒乱が気にかかりました。1月6日、ホワイトハウス近くで集会を開いていたトランプ大統領がその支持者に向かって『大統領選(選挙人投票)の結果を公式に認定する審議に参加している共和党の上下両院議員たちを激励するために国会議事堂へ向かおう』とアジテーション演説を行ったことで数千人の支持者たちが午後2時ころに国会議事堂(注釈:正しくは連邦議会議事堂)へ到着し、そのうち数百人がドアを破壊して国会議事堂内に侵入して占拠しました。このため上下両院の議員たちは避難することを余儀なくされたのです。
そして国会議事堂内で被弾した女性支持者を含む乱入者4名が死亡した(注釈:他に警官1名が死亡とする報道あり)と伝えられました。これを知ったトランプ大統領は支持者たちに向かって『帰宅しよう』と呼びかけました。正に「マッチポンプ」の発言を行ったのです。この事態を考慮したのか、何人もの共和党議員が出していた大統領選の結果についての異議申し立ては提案者たちによってほとんどが撤回されたと伝えられました。
トランプ大統領の扇動発言がクーデター紛(まが)いの事態を引き起こすというアメリカの歴史に拭い去ることができない汚点を残したことは、子供の頃からアメリカに憧(あこが)れて、家族とともにアメリカで5年間暮らした筆者には残念でなりません。警察によって乱入者が排除された4時間後の6日夜には上下両院の審議が再開されました。
これとともに、SNSのFacebookはトランプ大統領のアカウントを24時間停止(注釈:1月7日には無期限に延長)し、同じくTwitterは12時間ストップしたそうです。また、ジョージア州で行われた上院議員選挙でトランプ大統領が現地入りして共和党候補を応援したにも拘(かか)わらず民主党候補が2名とも当選することが確実になったようです。そして、選挙人投票の結果に下院の共和党議員が多数反対しましたが、1月7日未明にバイデン氏の勝利が上下両院によって最終的に承認され、バイデン大統領が誕生することになりました。
これで民主党が既に多数を占める下院、今回の選挙で同数となった上院(副大統領が議長を務めるため実質的に多数勢力となる)、そしてバイデン大統領が誕生することが確定したことで、民主党が立法権と行政権のすべてを制することになりました。つまり、「トリプルブルー」が実現したのです。これにより、1月20日に発足するバイデン政権は捻(ね)じれのない政権運営を行うことが可能になりそうです。
新年になって1週間の間に起ったこれらの一連の動きによって大統領選挙の結果に強く抵抗していたトランプ大統領を取り巻く環境は急変しました。野党の民主党だけではなく、上院の与党(共和党)幹部たちが大統領選の結果として、民主党候補のバイデン氏の勝利を認めました。
それに加えて、与野党からトランプ大統領を罷免する働きかけがペンス副大統領とトランプ政権の閣僚たちにあり、野党民主党はトランプ大統領の弾劾訴追(だんがいそつい)する準備を始めており、またトランプ政権の複数の閣僚とホワイトハウスの高級スタッフたちが次々に辞任し始めました。
大統領選挙の投票結果が明らかになった11月初旬および選挙人投票の結果が判明した12月中旬以降も数多くの訴訟行動を繰り返して強気の態度を崩したことがなかったトランプ大統領でしたが、支持者が国会議事堂に突入して破壊行為を行う事件が起こったことで、自身が「四面楚歌」の状態にあることをやっと理解し始めたようです。
そして、この件(犯罪行為)で訴追されることを懸念したのか、1月7日には『円滑な政権移行を行う』とのメッセージを閉鎖が解除された自身のTwitterアカウントを使って発表しました。これを受けて、米国の大手メディアはこのメッセージを「実質的な敗北宣言」であると報じました。そして、翌日の1月8日には、トランプ大統領がさらに暴動を扇動する恐れがあるとして、Twitterは同大統領のアカウントを永久に停止とすることを発表しました。
さて、本記事のタイトルに「近未来のアメリカ社会は?」掲げましたが、実は筆者にとって至難の業(わざ)であることがここまで書き進んでみて分かりました。それでも、はっきり理解できたことがあります。建国以来200年以上にわたって民主主義国家群のリーダーと目されてきたアメリカが独裁と腐敗に塗(まみ)れた発展途上国並みに脆弱(ぜいじゃく)な民主主義体制しか持っていなかったことです。
その現われとして、民主主義を踏みにじる考えを行動に移した大統領を4年前に選んだこと、およびトランプ大統領を支えた(尻馬に乗った)共和党(実態はトランプ党)の議員たちとそれを支持する多くの国民が今も変わりなく存在していることなど、枚挙(まいきょ)に暇(いとま)がありません。
トランプ大統領の登場によってもたらされたあらゆる領域(政治・経済・人種・ジェンダーなど)における「アメリカ社会の分断」、つまり、ネズミの大群を川へ導いて溺死(できし)させただけではなく、130人の子供たちを連れ去ったハーメルンの笛吹き男と似た行動、が次期バイデン大統領(78歳)によって一日も早く解消されて、それが「正常なアメリカ」、ひいては「世界の政情安定化」につながることを願っています。
ただし、アメリカという国が多くのアメリカ人がこれまで信じてきたような特別な国(理想的な国)ではなく、その他の国と同じ普通の国というよりも、訳が分からない国になってしまったことを多くのアメリカ人は嫌でも認めざるを得ない状況に陥(おちい)ったようです。枝葉かもしれませんが、ケネディ元大統領に次いで2人目のカトリック教徒(注釈:人口比で約20%と少数派)であるジョー・バイデン大統領は民主党が上下両院を制しているとはいえ、選挙区の事情や信条が様々である民主党議員は政策の各論において一枚岩の状態ではないため、前途(今後4年間)は多難であることも事実でしょう。◇
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