日本はITとAIの後進国!
3月29日の午後10時から放送されたテレビ東京の経済情報番組"WBS"(World Business Satellite)にソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が生出演しました。主な論点は『同グループの業績(主に海外新興企業への投資ビジネス)が新型コロナウィルス禍にも関わらずV字回復した理由と見通し』および『AI(人工知能)分野で先行する海外新興企業のビジネスを日本国内へ移転することは可能か?』 の2つです。
先ず、前者について孫氏は、「直近(2020年4月-12月)の最終利益が3兆5,510億円(説明:ファンドの投資損益は直近の4半期で1兆3,557億円の黒字)を超えた理由」、最大の課題であった米シェアオフィス大手の「ウィーワーク社」(説明:創業者の経営スタイルに投資家の懸念が高まったため一昨年来上場を見合わせていた)が、ソフトバンクグループ主導で再建を図ったことが奏功して、3月26日に特別買収目的会社(SPAC)を通じて米株式市場に上場したことを明かし、ファンド投資についての見通しは投資先131社の企業名を上げて自信を示した。
筆者が注目したのは2つ目の論点です。ソフトバンクグループが投資する韓国のAmazonと呼ばれる“coupang"(クーパン社、時価総額約9兆円)を番組による取材で紹介した上で、そのビジネスを日本市場に展開できないのかを質問。孫氏はソフトバンクグループの関連企業がJV(合弁)または提携などにより海外企業のビジネスを日本へ移転する可能性(現状では約10社)を検討したいと慎重な回答に留めた。
AI(人工知能)分野で出遅れた日本には何が必要かという視聴者からの質問に対して、孫氏は先ず、『現在未上場のAI企業670社(企業価値300億円以上)の半分近くがアメリカ企業であり、さらにその半分を中国、次いでイギリスやインドなどの企業だ。日本企業はわずか3社と圧倒的に遅れている。』 と自身の認識を披露しました 。『日本は何をすべき?』 と畳みかける質問には孫氏らしく、『その状況を認識した上で、政府・企業・学界が「やる」と決めることだ』 と答えました。
これまでと同様、孫氏のこの考えに反発する政府関係者や企業経営者は少なくないと思われます。つまり、40年前に孫氏がソフトバンク(現ソフトバンクグループ)を創業してから何度となく繰り返されて来た対立の構図です。
筆者の懸念が大きくなりました。IT分野ではアメリカのGAFA(説明:Google/Amazon/Facebook/Appleの総称)に日本市場を席捲(せっけん)されたように、AI(人工知能)の分野でも海外企業に国内市場を蹂躙(じゅうりん)されてしまうのでしょうか?
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関連の話題です。菅政権の目玉政策の一つである情報通信技術(IT)を推進する(注釈:実は遅れを取り戻す)ために昨年9月16日に「デジタル改革担当大臣」が任命され、今秋(2021年9月1日の予定)「デジタル庁」(仮称、定員500人、一部は民間出身者となる予定)を設置するための準備作業が進められています。菅政権が発足してから約1年後に組織の設置を目標とする緩慢(かんまん)な動きです。これでは新型コロナウィルス禍への対策と同様、政府には危機感が足りないのではないかと筆者は考えてしまいます。
事実、新型コロナウィルスの感染者と濃厚接触した可能性を知らせるスマートフォン向け接触確認アプリ"COCOA“(ココア)は昨年6月に政府(安倍政権)の鳴り物入りで初版の提供が始まりました。新型コロナウィルスの感染が全世界に広まったため、、昨年5月にアップルとGoogleが新型コロナウィルス感染症の暴露通知(Exposure Notification)のAPI(Application Interface)を各国公衆衛生当局に提供開始し、これを受けた「新型コロナウィルス感染症対策テックチーム」がこのAPIを利用した「接触確認アプリおよび関連システムの仕様書」を同月に公開しました。
これに基づいて厚生労働省は約4億円の随意契約で国内IT企業(説明:他領域で同省に実績があった)に委託発注しました。しかし、アプリ開発と保守に強くない同社は専門性を持つ国内3社へ再委託(注釈:内1社は別の2社へ再々委託)することで"COCOA"の開発が行われることになりました。そして、この複雑な開発体制により責任の所在が曖昧になったようです。3月16日にデジタル改革担当相が説明したところでは、『発生した様々な技術問題への対応に追われたため、昨秋までに更新されたアップルとGoogleのOSへの対応が行われなかった。』 とのこと。
この状況を反映して、"COCOA"はGoogleのOS"Android"を使ったスマートフォンにおいて昨年9月以降、約4か月間にわたって正確な通知が受け取れない不具合が発生しました。そして、OSの最新仕様に未対応であることが今年に入って明らかになりました。批判を浴びた政府が委託先に必要な対応を取ったことで、現在は稼働しているようです。また、厚生労働省はOSの最新仕様へのバージョンアップが契約書に明文化されていなかったことと、OSへの対応よりも通知が適切に送られない不具合への対応の方を優先したことも認めました。
委託されたIT企業は正常に機能するアプリを提供する義務があることは当然ですが、その背景にはアプリの開発と運用についての知識と経験が足りない政府の旧態依然(きゅうたいいぜん)とした「丸投げ式の発注方法」(説明:曖昧な仕様と改修対策)があるようです。つまり、発注者である厚生労働省はアプリ開発にリスクが伴うことを理解していなかったと思われます。
政府の「丸投げ発注」と言えば、アプリソフトの開発ではありませんが、昨年問題になった「GoToトラベル事業」における業務発注です。元受け企業が子・孫請け企業へ発注する点では全く同じ構図でした。記事スペースの制約からここでは触れませんが、IT分野の片隅に長年身を置いていた筆者が指摘したいことは、『政府や各官庁も、民間企業と同様、ビジネスと技術に詳しい人材を養成・確保する必要がある状況にある』 ということです。非常勤職員として民間のIT人材約30人を募集している「デジタル庁」(前述)がその第一歩となるのでしょうか?
ちなみに、先週金曜日(2021年3月26日)現在、"COCOA"のダウンロード数は約2,600万件と日本の総人口約1億2,540万人の2割弱に留まっています。なお、何ごとにも慎重な筆者はまだダウンロードしていない大多数の一人です。◇
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