7月2日の午前1時過ぎから"au"が提供する携帯電話サービスの約4,000万回線で繋(つな)がりにくくなる障害が発生したことがネット・ニュースで報じられました。インターネット接続サービスは限られた場所で利用できたものの、緊急通話を含む通話サービスおよびアメダス/ATMなどの業務用回線サービスはほとんど利用できない状態に陥(おちい)ったとのこと。
そして、2日以上が経過した7月4日午後4時頃、"au"(KDDI株式会社)はインターネット接続サービスおよび通話サービスが60時間以上が経過してほぼ回復したと発表しました。完全に復旧するのは翌7月5日夕刻になる見込みとのこと。スマホ(iPhone/Android)を唯一の連絡手段にしている人にとっては不便な2日半だったと思います。
ご存じの方も多いとは思いますが、そんな状況における対処方法を以下に説明しましょう。皆さんの状況(必要性・経済性)に応じて対応してください。
①WiFiサービスを利用する
最寄りのコンビニやファストフード店などにあるフリーWiFiを利用することです。筆者はソフトバンクWiFiスポットサービスに加入していますから、そのアクセス・スポットへ移動すればSMS/SNS/WEBなどインターネット・サービスを通常通り利用することができます。同じ通信会社のサービスの場合は障害が波及しているかもしれませんが・・。
インターネットに接続できたとしても通話サービスは対象外ですから、"LINE"の通話サービスを起動する必要があります。なお、不明なフリーWiFiサイトへアクセスするのは危険ですから止めましょう。
②公衆電話で通話する
相手の電話番号が分かっている場合は公衆電話を利用するのもお勧めです。設置台数が大幅に少なくなりましたが、駅構内などで現在も見つけることができます。「テレフォンカード」または10円/100円硬貨が必要です。
ちなみに、2000年には全国(NTT東日本・西日本)で70万台以上が設置されていましたが、現在は15万台弱までに減っているそうですが・・。
③繋がるスマホを借りる
自分が利用している携帯電話会社と異なる携帯電話会社を利用している友人・知人からスマホを短時間だけ借りる(説明:デザリング接続を含むのも一案です。ただし、同じ携帯電話会社を利用している場合はさらに別の人を探しましょう。
④固定電話で通話する
自宅または訪問先へ移動してそこにある固定電話を利用する方法もあります。ただし、②と同様、相手の電話番号が手元(スマホの電話帳リスト)にある必要があります。
⑤携帯電話の2台持つ、あるいはdual-SIMを活用する
異なる携帯電話会社に加入するスマホを各1台ずつ持つ、あるいはdual-SIMに対応したスマホで同様の対応をする。つまり2つの携帯通信会社に加入することで今回のようなリスクを軽減できます。ただし、追加費用が常時発生します。
ちなみに、筆者が使用するiPhone SE(第三世代)は今年3月に発売された最新モデルですから、本体はSIMフリーに設定されており、かつnano-SIMカード(物理SIM)と同じくeSIM(内蔵SIMチップ)のdual-SIM対応になっています。今のところ、eSIMは使っていません。説明:昨年10月1日以降に販売されたスマホは総務省のSIMロック規制に従っている
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以下は専門的(技術的)な説明になりますが、今回の障害が発生した原因と波及状況の推測です。"au"(KDDI株式会社)から詳細な障害状況は説明されていませんので、断片的な報道情報から筆者が推測したものであることをご了承ください。
1.障害の発生:"au"の保守作業員がネットワーク設備の定期点検作業を行っていた7月2日午前1時30分頃、トラフィックのルート変更を行ったところ一部機器(説明:ネットワークの基幹部分に使われるコアルーター)に不具合が発生し、音声トラフィックのルート変更が行われず、関連する音声トラフィックが約15分間におよび通信断となった。
2.障害の波及:その復旧のため音声トラフィックの切り戻す作業を行っている間に関連するVOLTE交換機が輻輳状態に陥った。さらに、管理・運用信号を通じて同様の障害が全国中継網内のVOLTE交換機に波及してネットワーク全体が異常状態に陥った。
〈説明〉輻輳(ふくそう)状態は過度な混雑状態のこと
切り戻しは元の状態に戻すことですが複雑な手順を要することが多い
このような偶発的な障害(不具合)は止むを得ないことでしょう。しかし、輻輳状態に陥った最初のVOLTE交換機から他のVOLTE交換機への波及を止められなかったことは運用上あるいはシステム構成に脆弱性(ぜいじゃくせい、説明:コンピュータ用語でソフトウェアやシステムに弱点があることを意味する)があったと考えられます。
ここでVOLTE交換機について簡単に説明します。VOLTE(ボルテ)は"Voice Over LTE"(説明:LTE回線を利用する音声サービス)の略。つまり、回線交換が必要な携帯電話の音声情報をパケット交換を行う高速データー回線のLTE【Long Term Evolution、注釈:2010年に導入された第4世代の携帯電話サービス規格)に上手く載せる技術です。
つまり、LTE回線は音声データをそのままでは扱えないのでVOLTE交換機による変換が必要なのです。なお、2014年にVOLTEが登場するまでの第4世代(実はもどき!)の携帯電話サービスは、データサービスはLTE回線で扱いましたが、音声サービスは第3世代携帯電サービスを利用する変則的な(ハイブリッド的な)システム構成でした。
3.携帯電話ネットワーク全体への波及:最初のVOLTE交換機の輻輳状態がトリガーとなって携帯電話ネットワーク全体に波及したプロセスは今のところ不明です。なお、VOLTE交換機同士は様々な運用管理情報をやりとりしていますからそれらが影響したのかもしれません。
いずれにしても、第4世代の携帯電話サービス(LTE)全体ががVOLTE交換機の異常状態に大きく影響されたことは確かでしょう。音声通話サービスがほとんど使えなかった一方で、データサービスは回路構成が異なるiPhone端末で利用できた背景がおおよそですが理解できます。
一部機器の障害がネットワーク全体のトラブルになった今回の事例は筆者に「バタフライ効果」という言葉を想起させました。ほんの些細(ささい)なことが徐々にとんでもなく大きな現象の引き金になる可能性を問いかけた気象学者エドワード・ローレンツによる力学の難解な質問です。彼の質問は『ブラジルにいる一羽の蝶の羽ばたきがテキサスで竜巻を引き起こすか?』なのです。
ここで余談です。最近導入された第5世代携帯電話システムは第4世代携帯電話システムのような力業はなくてすっきりしていると思われますが、第5世代のNR(New Radio)基地局は(当面の間ですが)第4世代携帯電話ネットワークのLTE基地局と連携する「Non-standalone構成」として使われるようです。このため、第5世代携帯電話ネットワークが第4世代携帯電話ネットワークの影響を受けて障害が発生する可能性は否定できません。
"au"(KDDI株式会社)から今回の障害事例について詳細な説明が早急に行われることが待たれます。◇
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